絵本作家として有名な安野光雅の、ちょっと珍しい本が入りました。

一つは、サブタイトルに「『ちくま日本文学全集』の装画」とあるように、彼が担当したちくま文学全集の装画を集めた「文学の絵本」(筑摩書房/古書800円)です。この本の面白いのは、「表紙の絵のこと」という章にまとめて、安野が一人一人の作家にどうしてこんな絵を描いたのかが、簡単に解説されているところです。

その文章がいいのです。例えば、色川武大はこんな感じです。

「新宿の飲み屋街、看板の文字がめだつ街。色川さんはこの街に来るだれからも愛された不思議な人だった。そばに来る人を拒まず、面白い話を聞かせては、すーうっと眠るのだった。飲めないわたしは遥かにその噂を聞くだけだった。この横丁をひょうひょうと行く、こんな人間にわたしも話を聞きたかった」

そして、ノスタルジックな酒場横丁の風情が描かれた装画の隣には、色川の『風と灯りと煙たち』より、「盛り場は、私にとって、いつもうそ寒い風が吹き抜けているところだった。私は小学生の中途から、学校をサボって盛り場を徘徊する味を知り出した。当時、山の手の方から見ると、浅草は第一級の盛り場であるとともに、悪の華のようにも見えた。」という文章が添えられています。

登場する文学者は60人。装画と解説をみながら、そういう気持ちで絵を描いたのかを知ると、それぞれの作家の本を読んでみようかなとつい思ってしまう、文学案内になっています。

もう一冊ご紹介。「愉快でちょっと切ない安野光雅 初の戯画集」という帯のついた「マッチの気持ち」(文藝春秋/古書1200円)です。これ、主人公はマッチです。変幻自在にその姿を変えるマッチをユーモアたっぷりに描いてあります。

「骨折しました。 たんかにのせられ 救急車で急ぎます すぐに手術です あ こんどは うまくいきました」という文章に、折れたマッチを担架に乗せて運ぶ救急隊員の絵。知らず知らずに気分が軽くなってくる一冊です。お誕生日のプレゼントなどに最適かもしれません。函入りです。

「マッチの紋付きで どちらへ おでかけですか 今夜はライターさんのおめでたいことで あ ライターさんは タキシードと伺っていました」

最後のページは、粋な小話みたいです。マッチの紋付の絵のセンスがいい!