フランス映画「北の果ての小さい村で」(京都シネマにて上映中)は、物語のようでもありドキュメンタリーのようでもあり、不思議な、でも豊かな気分にしてくれる映画でした。舞台はグリーンランド。と聞いて、グリーンランドの場所が頭に浮かぶ人は少ないかもしれません。北極海に面した北の国で、1721年から1953年までデンマークの植民地でした。現在は、デンマークの一地方と同格の地位となり、学校教育や医療など様々な面で近代化が推し進められ、1979年内政自治権を獲得。デンマークからの独立をめざし自立性を高めている地域です。

この地域の中でも北に位置するチニツキラークという人口80人気足らずの村に、母国のデンマークで家業を継ぐことから逃げて新しいことをしたいと思っている、新任教師アンダースが赴任してきます。意気込んで赴任したものの、グリーンランド語を喋る子供達と意思疎通ができず、よそ者として村人たちから疎んじられます。ヨーロッパの文化を持ち込もうとして、土着の文化とぶつかり、そこからアンダースが彼らを受け入れ、共に生きる様子を描いてゆくのですが、大きな特徴があります。

それは、ほぼ出演者が、ホンモノ。役者ではありません。アンダースはじめ、イヌイットたちも現地の人たちです。狩りの仕方を孫に教える老人も、漁師になることを夢見る少年も、ホンモノです。リアルとノンフィクションを組み合わせて映画を作るのは至難の技術です。ドラマ部分とドキュメント部分に温度差が出ると、映画のリズムも狂ってきます。監督のサミュエル・コラルデの長期に渡る撮影が生きています。

この映画は、青年教師が淡々とイヌイットの狩猟文化へと心を寄せて、受け入れる様を描いていきます。起承転結のはっきりしたドラマではないので、ぐぐっーと感動することはありません。しかし、アザラシを解体するシーン、美味しいそうに食べる人たちの様子、青年が犬ぞりをなんとか乗りこなそうとするシーン、そして、狩人たちが子連れのシロクマに遭遇するシーン、ラストに青年がイヌイットの子供をカヤックに乗せて海原に漕ぎした時、嬉しそうに「鯨だ」というシーンなど、作り物ではないが故に深く心に残ります。

電気は送られているが、水道はなく、買物ができる町までも遠く、医療設備もままならないチニツキラーク。「豊かな自然」なんていうような言葉では簡単には括れません。けれども、人も、犬も、クマも、アザラシも、地球と共に生き、そして大地へ戻ってゆくことを実感する場所であることは間違いありません。

星野道夫をリスペクトする貴方なら、観ておいて損はしません。