竹中郁。1904年神戸に生まれ、地元の中学校を経て、関西学院大学英文学を卒業。画家の小磯良平は、中学時代の同級生で生涯の友人でした。若い頃より、北原白秋に傾倒し、彼の主宰する雑誌で詩人としての活動を始めます。モダニズム詩人として作品を発表し、24年から2年間、ヨーロッパ留学もしています。

竹中が少年少女のために唯一残した詩集が、「子ども闘牛士」(理論社/古書900円)です。戦後、子どもの詩雑誌『きりん』の創刊編集に携わり、1950年には、大阪市立児童文化会館で「子ども詩の会」が催されます。竹中は子ども達が作った詩を読み、31年間この会を続け、指導してきました。

「子ども闘牛士」は、確かに少年少女向けに書かれていますが、大人が読んでも想像力を大きく刺激されます。

「みんな一日の仕事がすんだ お太陽さまも家に帰った さて 夜になると 風さえ軽いステッキをついて 散歩に出かけにやってくる」(「夕暮」より)

誰にもすっと心の中に入ってきて、まだ詩というものに少し触れただけの子供たちに、詩ってこんなに楽しいものなんだ、世界をこんな風に描けるんだと教えてくれます。

「魔法ビンの中に どうしたことか 一匹の黒い蠅 ちっちゃな蠅 ぐるりの貝殻光沢に際立って 大きくみえる だれがとじこめたか いつのことか このおれがしたあやまちなら重罪か 微罪か ふたたび 蓋をする しずかに 丁寧に こんどは埋葬の気持ちで 儀式のように両手は冷えて」

「埋葬」という詩では、矛盾する心を冷ややかに描いています。まだ大人の常識やら社会規範にがんじがらめにされていない少年少女たちに、詩を通して言葉の持つ力を見せていたのかもしれません。

「平和はいいなあ どこにでも微笑がおちている どこにでもさざめきが散っている 山羊の乳房はぴんと張るし 麦の倉庫はぷんぷん外までにおうし 水力発電機はハチのようにうなるし 平和はいいなあ 平和は眼の底までしみこんでくる 平和はのどのおくまで飛びこんでくる ねむり足りたあとのごきげん たっぷり食べたあとのごきげん 十二分にやりとげたあとのごきげん 平和はいいなあ」

この「平和」という作品は、戦争をくぐり抜けた人間だからこそ、伝えられる言葉だと思います。こういう詩をこどもたちに贈りたかったのです。

竹中自身が描く挿画が、数多く収録されています。表紙を飾る絵もご本人です。あとがきのページにある「若き日の竹中郁」は、小磯良平の手によるものです。

★釧路ヒッコリーハウスオーナー安藤誠の「ネイチャートーク」が決定しました。10月27日(土)19時スタートです。参加費は2000円です(要予約)

 

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