作家、開高健のノンフィクション全5巻が、文藝春秋から発行されています。その第4巻「孔雀の舌」は、全500ページ強に渡って、開高が生涯書き続けた、酒と食に関してのエッセイが網羅されています。通読したわけではありませんが、時々、ページを開けて、最強の健啖家の文章を楽しんでいます。(この本は頭から通読するのではなく、好きな時に、好きな場所を読んでは、積読するのが正しい読書法かもしれません)

吹き出したのは、作家が幼少の時より持っていたカニのイメージです。志賀直哉の小説「暗夜小路」に、女性を形容して、遠い北の海で取れたカニを思わせる箇所があり、そのイメージが頭から離れなくなります。彼がこの本を読んだ時は戦時中で、女性として一番近いところで、生きることに精一杯の母親に向かって「かあちゃん、遠い北の海でとれたカニを思わせるようなところがある女て、どんな女やねン」などと聞けたものではありません。それから、彼がその意味を知るまでのカニをめぐる文章が続くのですが、野性的な開高文学を楽しむことができます。

本の帯に「味覚へのあくなき探求を卓れた文明批評に高めた」と賞賛されていますが、その通りの一冊です。「食の極は人肉嗜食である。」なんて言葉が登場すると、ゲッ!この先生、人肉も口にしたんか??と思ってしまいますが、ご安心を。(ハードカバー550ページで、なんと400円!)

この濃い!ボリューム満点の本とは対照な薄さですが、新入荷のミニプレス「1/f」(エフブンノイチ734円)の1号が「おやつの記憶」という特集を組んでいます。日本のエーゲ海と呼ばれる岡山県瀬戸内市牛窓に住む、筆者の祖母の作る草餅が紹介されています。あぁ〜懐かしい味が漂ってきそうな出来上がりです。

「物語の中のおやつ」という企画で、シャーロット・ブロンテの小説「ヴィレット」に登場する「シード・ケーキ」なるものを取り上げています。英国の伝統的スイーツで、シャーロットの代表作「ジェイン・エア」にも登場するケーキだそうです。スイーツの話から、英国女流文学へと入っていくのが面白いところです。

 

10日程前にこのブログでご紹介した「最近の本ですが、安くて、これは買っといて損なしの本」の第2弾です

先ずは、山下喜子「京都歳事記 季まひまひ」(400円)。京都を舞台にした歳事記は、沢山出版されていますが、これは文章が素敵です。

例えば、「桜寺」。著者は深草や、墨染、桃山などの京阪電車の駅を通る時、「ふと少将や小町の世が幻のように脳裏をよぎる。」と感じ、春、墨染駅で下車し、通称桜寺、墨染(ぼくせん)寺に向かいます。そして、

「この寺の大きな桜の下に歌右衛門寄進の井がある。折しも花吹雪、桜襲を被た役者が花の精になり代わって舞うように」と結び、自作と句友の俳句を添えてあります。

短い文章で、ちょっとした季節の変化を敏感に捉え、この街を描写していきます。ほとんど写真がないのに、その情景が眼前に現れてくる一冊です。

同じく京都を舞台にした本で「ふるさと文学さんぽ 京都」(500円)こちらは、京都を舞台にした小説をセレクトした本なのです。「寺と庭」という京都らしいセレクトもありますが、「大学」という切り口では、野間宏「暗い絵」や万城目学の「鴨川ホルモー」と京都大学が紹介されたり、「海」では中勘助の「天の橋立」が紹介されたり、「川」では、唐十郎の「安寿子の靴」とかユニークなセレクションで読ませてくれます。ところで、愛犬の散歩に毎日通う御所が舞台のお話も登場します。それは、大和和紀の「あさきゆめみし」というコミックです。

次は、内田樹「マンガでわかる戦後ニッポン」(700円)をご紹介します。「廃墟からの復興」では、手塚治虫、水木しげる、つげ義春を取り上げ、「高度成長の時代」では、ちばつつや、大友克洋らの作品を通じて、時代を見つめ、最終章「過去から未来へ」では岡崎京子、谷口ジロー、村上もとかの作品で、この国の行く末を見つめるというアンソロジーです。400数十ページの大著で、読み見応え十分です。

最後に開高健の「孔雀の舌」(400円)。開高の全食暦、全酒暦を網羅した大著(553ページ)です。食に関する本なんて、もう嫌に成る程出版されていますが、これほど食べること、飲むことへのあくなき探求を本にしたものはないでしょう。

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