昨夜、絵本作家の澤口たまみさんとベーシストの石澤由男さんをお迎えして、著書「宮澤賢治愛のうた」(夕書房/新刊1944円)より、賢治の恋愛の話をお聞きしました。彼女の低く優しい声に、アコースティックベースの低い音が寄り添うように響き、とても心地よい空間になりました。

私が賢治の本に夢中になって読んでいた頃、小さな疑問がありました。賢治の本のどこにも、若き日の恋愛について一切書かれていないということ、そして彼の愛情は過剰なまでに、若くして死んだ妹トシに向けられていたということです。彼は生涯、童貞だったという噂まで、まことしやかに流れていました。俗っぽい私には、女性に憧れたりすることがないなんて、到底信じられませんでした。恋の成就はさておき、淡い憧れすらないまま、あのような美しく、哀しい物語を想像できるものなのかと、不思議に思っていました。

澤口さんの「宮澤賢治愛のうた」に出会い、やはり恋をしていたのだと知り、なんだか安心しました。研究者でもない彼女が、コツコツと調査し、賢治作品を精読し、その奥に隠された彼の心情をあらわにしてゆくプロセスが、この本には凝縮されています。書かれている内容に沿って、温かな語り口で賢治と彼が愛したヤスという女性の恋を、お話ししていただきました。残念ながら、二人の恋は成就することなく、望んでいない結婚を強いられたヤスは、夫の仕事の関係でアメリカに渡ります。馴染んでいた岩手の自然を懐かしみながら、渡米後三年でこの世を去りました。

この本について書いたブログを読んだ店のお客様Hさんのご紹介で、今回澤口さんにお話しして頂く機会を得ることができました。賢治と同じ盛岡生まれの澤口さんは、賢治の高校の後輩でもあるので校歌を歌ったり、地元の蕎麦屋に賢治の好きだったメニュー「天ぷら蕎麦とサイダーのセット」がある話など、そこで生きている人ならではの、親しみをこめて地元の言葉で賢治とヤスの恋を話してくれました。恋愛もせず、恋人もいなかったというがんじがらめの賢治の定説が、ゆっくりと溶けてゆくようでした。最後まで控え目ながら、店全体を包み込んでいたベースの音が、語りに似合って素敵な夜になりました。

お二人は、九州、岡山と巡ってきて、京都での2デイズのトーク&ライブの初日が当店で、今日19日は誠光社です。賢治好きの方、児童文学好きの方達が集まって下さいました。ありがとうございました。