作家の高橋源一郎を、私は信頼しています。もう、十数年前ですが、朝日新聞社発行の「小説トリッパー」という文芸雑誌で、当時ベストセラーだった渡辺淳一の「失楽園」について明晰な論評を読んで、このヒト、頭のいい人だなぁ〜と思っていました。

小説もいくつか読みましたが、こちらはどうもしっくりしません。最近では「日本文学盛衰史」を読んだのですが、漱石は鴎外に「たまごっち」をねだり、啄木は伝言ダイヤルにはまり、花袋はアダルトビデオの監督になる!?という大作家が次々と登場する荒唐無稽なお話。面白いような、面白くないような長編でした。

ところが、評論となると、これ程刺激的な作品を出す人もいないのではないかという程に面白いのです。最近の「ニッポンの小説3『あの戦争』から『この戦争』へ」(文藝春秋1100円)は、今の日本を取り巻く危ない状況を見つめながら、社会を論じ、文学を論じています。「ニッポンの小説3」というタイトルから分かるように、「ニッポンの小説」という名前で、この本が3冊目です。「1」は、2001年の9月11日の「アメリカ同時多発テロ」勃発後に書かれ、「2」は3.11の直前に書かれ、そのあとが「3」です。

「日本人の記憶に刻みつけられた『3.11』という『あの日』は、その破壊の大きさから、もういくつかの「あの日』を思いださせることになった。『8.15』である。

いくつかの忘れることのできない『日付』を思い浮かべながら、ぼくは、書かれつつある『ニッポンの小説』を読んだ」

と著者は後書きで書いています。戦争や、震災がもたらした大破壊と闘っている「あの戦争」は終わった、しかし、新しい戦争が起こりつつある。その恐怖に、文学がどう拮抗してゆくのかをスリリングに展開していきます。鋭利な刃物でスパッと切り込まれた感のある評論集です。

最終章は、「戦争を戦争と思わなくなるために いよいよ明日戦争がはじまる」という文章で終わる宮尾節子の詩「明日戦争がはじまる」のタイトルをそのまま使って、故伊丹十三の父、伊丹万作の「戦争責任の問題」という論を取り上げています。これは、是非お読みいただきたい。成る程、そうなのだと思う事、間違いありません。

まだ未読ですが、『3.11』以後、いち早く書かれた原発と震災を見つめた「恋する原発」(講談社800円)。これ、巻頭のこんな一般の方からの投書でスタートします。

「不謹慎すぎます。関係者の処罰を望みます」

あらゆる欺瞞、常識に闘いを挑む作家ならではのタイトルですね。

これは、私に買え!と出品されたのかもしれません。「検証ゴジラ誕生」(朝日ソノラマ1500円)です。サブタイトルに「昭和29年東宝撮影所」とありますが、ゴジラ第一作誕生をその企画から撮影、公開までを追っかけた一冊です。ゴジラと同い年の私には、ゴジラといえばこの映画です。写真、資料も豊富で、当時の東宝撮影所も載っています。面白いと思ったのは、「ゴジラ」公開時の東宝の封切り映画一覧が載っていることです。黒澤の「七人の侍」も同年だったんですね。

トニー谷の「家庭の事情さイざんすの巻」なんて映画もありました。そろばん片手に「アナタのお名前なんてぇ〜の?」と身体をくねらせながら踊る奇妙なコメディアンは、TVでしか知りませんが、強烈な印象でした。

さて、水爆の申し子ゴジラとくれば、次は高橋源一郎「恋する原発」(講談社600円)が外せません。

2011年3月に起こった東日本大震災。まだ、混乱の極みだった11月に、高橋はこの作品を発表しています。タイトルが不謹慎だ!という声も多々ありましたが、当時、表現の世界にも忍び込んでいた「自主規制」やら「自粛」という風潮へ牙を向いた小説として読むべきでしょう。大震災チャリティーAVを作る男たちの、シモネタ満載の滅茶苦茶なストーリーです。

ガラリと話題が変わりますが、「食」に関する文庫でいいのを発見しました。1975年生まれの人から、順に遡り1903年生まれの人まで、39名に、十代の頃どんな食生活だったかを書いてもらった「十代に何を食べたか」(平凡社ライブラリー600円)。世代的にみれば大正から昭和を経て平成時代までと、大きく変化した食文化が記録されています。一番古いのは、03年生まれの教育者、溝上泰子。そして最も新しいのは75年生まれの、茶道三千家の一つ武者小路千家若宗匠、千宗屋。自分の十代と照らし合わせて、同世代の人の文章を読むと、あぁ、そうだったと思い起こすこともあるかもしれません。一番象徴的なのは、鷲田清一の後書きの文章です。

「食べないと死ぬ」時代から「食べると死ぬ」時代へ

そんな時代に我々は生きているのですね。

「女子の古本市」は21日(日)まで。

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