ドイツ文学者で、名エッセイストの池内紀の「戦争よりも本がいい」(講談社2000円)が入荷しました。

「偏愛的人間」、「異能、奇才、名人、達人」、「旅と民俗」、「人生のデザイン」等全九章に分けて、様々な本が手短かに紹介され、そして著者の思いが的確に書き込んである大著(約400ページ)です。

章の中に「戦争よりも本がいい」があり、12冊の本が紹介されています。その中の一編「甘党のお守り」は、松崎寛雄「饅頭博物誌」という1973年に発行されたもので、これ、「饅頭の生成、ひろがり、変化、饅頭文化の諸相、詩歌、演芸、小咄などにみる饅頭」を解説したものです。池内は最後にこのようにしめくくります。

「この民間の饅頭博士は召集を受け、戦場を飢餓を体験した。身にしみて戦争の時代を知っている。非常時になると、なぜかまっ先に甘味が姿を消していくものである。津々浦々、多彩な饅頭と対面できるのは、二つとない平和の証し。」

或は、明治40年生まれの伊藤芳夫著「サボテン百科」の中で、何故か戦争直前になると、サボテンが流行ると指摘されています。日露戦争前、大正初期、第一次大戦前、そして昭和10年代、国中がキナ臭くなってきた時に、自発的流行があったという。ここでも、池内は、著者伊藤を「こころならずも軍国主義の時代にいき合わせた。過酷な条件にあって生きのびるすべてをこころえたサボテンに、ことのほか愛着を覚えたのではあるまいか。」と思いやっています。

このボリュームたっぷりの書評集を、ぱっと開いたページから読み始めることをお薦めします。池内の文章が、素晴らしく、かなり前に書かれた本の事でも、興味深くへぇ〜と熱中して読んでしまいます。

池内のエッセイなら、ほかに、「なじみの店」(みすず書房500円)や、世紀末ウィーンで、辛辣な言葉で、時代に喧嘩を売り続けたカール・クラウスが出版していた「炬火」を中心に描いた「闇にひとつ炬火あり」(筑摩書房1000円)も面白いです。

 

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