日本文学好きなら、こんなアンソロジーは持っていたいシリーズでしょう。講談社文芸文庫が、全10巻で出した「戦後短編小説再発見」です。117篇の短編小説を集めたアンソロジーで、今回は、第1巻「青春の光と影」、第3巻「さまざまなな恋愛」、第4巻「漂流する家族」(各400円/出品・古本ハレクモ)の3冊が出ています。「漂流する家族」というテーマで集められた家族についての作品集が面白い。昭和27年発表の安岡章太郎「愛玩」、昭和29年発表の久生十蘭「母子像」、昭和30年発表の幸田文「雛」辺りの作品には、戦争の陰影が残っています。80年代に発表された尾辻克彦、津島佑子、千刈あがたらの作品は、現代の家族の姿が描かれています。ゾッとしたのが黒井千次の「隠れ鬼」です。

「夜の食事が終わると妻は家出をした」という書き出しで始まります。日常生活に潜む異界の物語です。

中々、こんな安い価格では出ないので、これを機に集めてみてはいかがでしょうか。

 

近藤ようこの漫画も何点かまとめて出品されています。最近では、「死者の書」や「夢十夜」など文芸作品の漫画化でユニークな作品を発表していますが、80年代から90年代にかけて出された、人生の孤独、憂い、そして優しさを描いた作品を集めたものも捨てがたい味わいがあります。80年代に書かれた傑作短篇を集めた「春来る鬼」(400円/出品・星月夜)、90年代に「通販生活」に掲載された短篇を集めた「アネモネ駅」(400円/出品・星月夜)は、オススメです。「アネモネ駅」の解説で、群よう子が近藤作品を「小さな心の痛みと大きな心の安らぎを与えてもらい、ほっとする」と書いていますが、その通りだなぁ、と思います。

写真家、森山大道が、80年代に刊行されていた写真雑誌「写真時代」に連載した自分の作品とコメントをまとめた「写真から/写真へ」(600円 /出品・にゃん湖堂)は、この写真家を知ることができる一冊です。著者は、当時のコメントはあまりに稚拙で、グチっぽいと自己批判していますが、「どうしようもない自分を抱えて、街に出ては写真を撮り、部屋にこもっては写真を思うという時間のなかにいることだけはたしか」とも書いています。この時代を丸ごと生きた写真家のリアルな姿が詰まっています。