衝撃的だった処女作「鉄男」(89年)から、私が久々に観た塚本晋也の新作「斬、」は、寡黙な時代劇でした。和太鼓が乱舞するオープニングは緊張感が漂い、木刀で打ち合うシーンからスリリングでパワフルな殺陣が展開されていきます。

江戸時代末期。農村に身を寄せる若き浪人都筑杢之進は、農家を手伝って食いつなぎながら、農家の息子・市助に剣の稽古をつけ、自身の腕も磨くという日々を送っています。この農家の娘ゆうと、杢之進とは身分が違うもののお互いに魅かれ合っていました。

そんな時、二人の稽古を見ていた剣豪の澤村が、杢之進の腕に惚れ込み、大きく時代が変わろうとしている今、京都の動乱に参加しようと持ち掛けます。もちろん、杢之進は受けるのですが、実は彼は実際に人を斬ったことがありません。本当に人に刃を突き立てることが出来るのかという葛藤が日増しに大きくなってきます。

この辺りから、映画は、従来の時代劇から逸脱していきます。刀で相手を斬りつけることの恐怖に取り憑かれてゆく杢之進。現れた無頼漢たちの集団と対決する時ですら、刀を抜かず、丸太棒でぶつかってゆく有様です。徐々に狂ってゆく杢之進。山奥を彷徨い続け、ついに刀を抜くのですが、魂は安らかになることはありません。深い森の中を刀を引きづる音だけが不気味に響くところで映画は終ります。一人の若き武士の悲劇を見事に描き上げたと思います。

主役を演じた池松 壮亮、ゆうを演じた蒼井優、そして寡黙な剣豪を演じた監督の塚本晋也。ギリシャ悲劇を彷彿とさせる演技の絡み合いを堪能しました。雨に打たれ、血みどろ、泥だらけになって、山を彷徨うお三方、お疲れ様でした。

ところで、長年にわたり塚本作品の音楽を手掛けてきた石川忠が2017年に亡くなりました。この作品も石川が音楽を担当していたのですが、監督が受け継ぐ形で石川の作った音楽を編集し完成させています。重厚で深淵な音楽は、映画音楽としては今年のベスト1でした。なおこの作品で石川は第51回シッチェス・カタロニア国際映画祭の最優秀音楽賞を受賞しました。

 

 

 

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