mikihouseが出している宮沢賢治絵本シリーズは、とても素敵なセレクトです。スズキコージ「注文の多い料理店」、黒井健「水仙月の四日」、田島征三「どんぐりと山猫」、あべ弘士「なめとこ山の熊」など、数え上げたら限りがありません。今回ご紹介する「氷河鼠の毛皮」(古書/1100円)は、賢治の小説の中でも、それほど有名な物語ではないかもしれません。

「十二月の二十六日の夜八時ベーリング行の列車に乗ってイーハトヴを発った人たちが、どんな眼にあったのか、きっとどなたも知りたいでしょう。これはそのおはなしです。」

猛吹雪の中、出発した列車にはひとくせもふたくせもありそうな男たちが乗車していました。「毛皮を一杯に着込んで、二人前の席をとり、アラスカ金の大きな指輪をはめ、十連発のぴかぴかする素敵な鉄砲を持っていかにも元気そう」な紳士が登場します。おいおい、列車内に銃器持ち込んでいいの?と思うのですが、物語は進みます。賢治の登場人物の描写力が冴えています。

「痩せた赤ひげの人が北極狐のようにきょとんとすまして腰を掛け、こちらの斜かいの窓のそばにはかたい帆布の上着を着て愉快そうに自分にだけ聞こえるような微かな口笛を吹いている若い船乗りらしい男が乗っていました。」

この二人の人物が後半の物語の主人公です。かなりサスペンスに満ちた展開になっていくので、ここではこれ以上書きません。読んでのお楽しみ。

で、この物語の絵を担当しているのが堀川理万子さんです。寒い駅で、たき火にあたって列車の出発を待つ男たちの背中を描いたページに魅かれました。吹雪の寒さとたき火の暖かさが見事に表現されています。次に、毛皮を一杯に着込んだ紳士を、ローアングル気味でやや誇張し、どうもこの人物が良からぬ奴らしいと読者に思わせます。そして、今度は俯瞰気味に列車内を捉え、痩せた赤ひげの人の人を目立たないように描き、前方にはかたい帆布の上着を着た若者を描いています。

彼の着ているコートの色が黄色なんですが、この色がラスト近くで強烈な印象を残すことになります。「俄に窓のとこに居た俯瞰の上着の青年がまるで天井にぶつかる位のろしのように飛びあがりました」という場面で、カメラを下に置いて、その上を飛び越えてゆくような黄色いコートがダイナミックに翻ります。映画的な作風だと感心しました。賢治作品にしては、最後にスパイまで登場する荒唐無稽さもあるのですが、この不思議な物語を躍動感ある構図で描いています

 

先日、堀川理万子さんに偶然お会いする機会を得ました。メリーゴーランド京都店のギャラリーで個展をされていたのです。(左の写真はその時展示されていた作品です)その会場におられたので、いろいろとお話を伺い楽しい一時を過ごさせてもらいました。堀川さん、ありがとうございました。

 

★10月27日(土)の安藤誠トークショーは満席になりました。お申し込みありがとうございました。狭い店内のため、締め切らせていただきます。