比較文学、映画論等で優れた評論集を書いている四方田犬彦の読み応えのある本が何冊か入荷しました。

先ずは全300数ページにも及ぶ「白土三平論」(作品社1900円)を取り上げます。白土三平と言えば、「カムイ伝」。もちろん、この本でも詳細に論じられていますが、注目すべきは、白土版「シートン動物記」です。このマンガは、個人的には「カムイ」よりも好きな一冊です。少年時代から動物好きだった白土が、この動物文学の最高傑作をコミック化したのも当然かもしれません。この中に登場する「灰色熊の伝記」を、四方田はこう書いています。

「『灰色熊の伝記』は、静かで悲しみに満ちた読感を誘う作品である。」

正に、その通りです。「カムイ伝」や「忍者武芸調」」のような大作ばかりでなく、こんな作品もきちんと論評されています。

動物続きでいうと、犬という動物が、古今東西の文学、戯曲、そして映画、漫画等でどう扱かわれてきたかを検証することで、犬のイメージ像の変遷を辿った「犬たちの肖像」(集英社1400円)があります。ホメロス、シートン、ロンドン、セリーヌ、カフカ、泉鏡花、谷崎、川端らの文豪が登場します。

「死んだ犬はその飼主である家族にとって美徳のかたまりである」と言い切ったのは丸谷才一ですが、愛犬を失った人間が、そのことをいかに記憶するかを文学の中に求めて検証した「文学ジャンルとしての、犬の追悼」を、老犬を抱える私は精読してしまいました。

もう一点、「ラブレーの子供たち」(新潮社950円)。これは「美味しい」一冊です。舌と脳と胃袋で考える、食文化論で、文学者、映画監督、音楽家と、様々な人達の口に入れたものを食べ、彼らが何を感じたのかを考察する刺激的で、お腹の空く一冊です。

面白いのは澁澤龍彦の「反対日の丸パン」ですね。戦前、コンデンスミルクと赤いジャムを使って、食パンの上に日の丸を描くことが澁澤家でははやりとなりました。軍人になってお国のために奉公することへの憧憬を盛り上げそうな一品ですが、澁澤は違いますね。

「要するに『白地に赤く』の反対、『赤字に白く』である。アンティ日の丸である。すなわち、ジャムの地の上にミルクの丸を塗ったものだ。」そんなパンを食べては悦に入っていたのでしょう。

本で取り上げられた一品はすべて写真が付いていて、もちろん、この「反対日の丸パン」の実物も見ることができます。

ところで、著者は少年時代、イエスはお菓子を食べたことがあるのか?と疑問の思っていたそうです。「最後の晩餐」にデザ−トが何故ないのか?? 変わった少年だったんですね。