春本雄二郎監督作品「由宇子の天秤」は、暗く、重く、希望がない映画です。映し出されるのは、地方都市のどこにでもある風景ばかり。しかも、感情を盛り上げるような、あるいは緊張感を高ぶらせるような音楽も全くありません。監督にじわじわと追い込まれ、息苦しくなってきそうな映画です。

そんな退屈な映画なら出てきたら?と思われるかもしれませんが、不思議なことに2時間半全く退屈しないのです。それどころか強く強く心に残る作品です。

物語は、ドキュメンタリーディレクター由宇子が、数年前に起きた女子高生いじめ自殺事件を追いかけるところからスタートします。亡くなった女子高生は、学校の先生とデキていたと噂され自殺し、その先生も無実を訴えながら自殺してしまいます。由宇子は、両方の被害者に丹念にインタビューを行い、事件の真実を浮かび上がらせようとします。

そんな折も折、塾を経営する父親から生徒と肉体関係を持ってしまったという衝撃の事実を知らされます。しかも、相手は妊娠…….。由宇子は、定職もない父子家庭の生徒、萌に寄り添いなんとかしようとします。

出口の見えない状況下で、自殺した女子高生と先生の関係について、それまでの取材とは全く違う事実を突きつけられます。丹念なインタビューで事実を積み重ねてきた全てが瓦解するような真実が、由宇子に襲い掛かります。一方、萌にも学校で問題があったことが分かり、これが大きな悲劇へと向かっていきます。

明るさも希望も全くない世界に突き落とされ、私たち自身が監督に追い込まれ、正義って何だ、真実って何だ、言ってみろと問い詰められるのです。ラスト、駐車場で倒れた由宇子を、カメラは微動だにせず延々と撮り続けます。この監督の力技に呆然としてスクリーンを見つめることになりました。

「盟友同士の迫真のやりとりの中、まるで自分がスクリーンの内側にいるような気まずい気持ちになるほど物語に没頭した。余韻で胸がざわつき続けている」と、タレントの松尾貴史が感想を書いています。

もしかしたら観客の力量を試される映画かもしれません。ヘトヘトになるかもしれませんが、私は大推薦いたします。覚悟して映画館へ、いざ!!