某月某日、とあるCDショップのジャズボーカルコーナーにて、「お店のお薦め」を聴いていました。皆さん、それぞれに個性があって、表現力も豊かでした。あれも、これも欲しいと思い始めた矢先、美空ひばりのCDがセットされていました。それは、65年発表の「ひばりジャズを歌う」(日本コロンビア2000円)でした。あぁ〜あのレコードのCD化か〜と早速ヘッドホンを耳に当てました。

歌い出しを聴いた途端、今迄の歌手が、すべて吹っ飛びました。上手いとか、巧みとかそんなレベルではありません。日本の国民的大歌手で、波瀾万丈の生涯だったという事実を差し引いても、他を圧倒しています。それは、何故なんでしょう。

それは一重に「濃さ」だと思います。

だからと言って、問答無用に押し込んでくる濃さではないんですね、これが。サブタイトルに「ナット・キング・コールをしのんで」とあるように、彼の十八番が並んでいて、曲によっては、スマートに、スムーズに、あるいはしっとりと歌っているのですが、その一言一言に彼女の魂が宿っています。すべての人を取り込んでしまう大きさと強さを持っているのです。曲によっては、日本語で歌っているのですが、解説で竹中労がこう語っています。

「みごとに、コールの歌の魂を、私たちの国のことばに移しかえている。ひばりのハートは、あかるくて悲しいコールのフィ−リング(情感)に溶け込み、何の抵抗もなく、私たちを黒人ジャズの世界にさそうのである。」

日本語で、黒人ジャズの感性を歌いこむなんて前人未到ではないでしょうか。何がきても怖くないという自信。ジャケットのひばりの笑顔には、世界の歌を歌い込める喜びに満ちています。

ところで、平岡正明が「美空ひばり 歌は海を越えて」(毎日新聞900円)で、もう一人の国民的歌手、山口百恵との比較で面白い指摘をしています。

「ロックンロールを歌ってあれだけうまい百恵がジャズを一曲も歌っていないこと、ジャズを歌わせたら最高のひばりがロックンロールを一曲も歌っていないことだ」

この後、スリリングなひばり論が展開していきますので、興味のある方はどうぞ。