木下直之先生は1954年生まれですから、私と同年代の美術史研究者です。東大大学院の教授、静岡県立美術館館長などを歴任して2015年には紫綬褒章受賞。著書も多く、「美術という見世物」ではサントリー学芸賞を受賞、と、こう並べるとなんだかアカデミックな雰囲気ですが、今回ご紹介する本に関しては、全く違いました。

タイトルは「木下直之を全ぶ集めた」(晶文社/古書1400円)。内容は一言で言えば、著者が気になってしょうがないもの、例えば駅前彫刻、股間若衆、復元天守閣などなど。美術界から脇の方へ追いやられた物を、日本中探し回り撮影したものを元に検証した本なのです。

全12章に分かれていますが、各章のタイトルは、著者が今までに出した本のタイトルになっています。そういう、ちょっと遊びに満ちた本作りなっています。そして、街に溢れる様々なもの、例えば、第8章「銅像時代ーもうひとつの日本彫刻史」では、どこにでもある銅像を巡ります。

「銅像は俗称であり、正しくは金属製の肖像彫刻と呼ぶべきだが、銅像という言葉には、それを口にしたとたんに周囲の風景まで浮かんでくるような強い喚起力がある。同時に、芸術性に欠けた俗な存在といった、少し見下したようなニュアンスがある。」

なるほど、そんな感じがします。観光地で銅像バックにハイ!ポーズみたいな。笑ったのは、第6章「股間若衆 男の裸は芸術か」でした。「股間いろいろ」というところに、8点の男性像の股間のクローズアップ。そして、こう書かれています。

「人生いろいろ股間もいろいろ、というほどには他人の股間を見てはいないが、股間若衆の股間はいろいろ見てきた。生身の股間若衆が往来にたてば即逮捕、即懲戒免職だが、つくりものの股間若衆は、露骨を避ける宿命として、結局は股間表現の粋を競うことになる。そこから股間表現多様性が生まれる」

「股間表現の粋」などというものがあるのかどうか定かではないですが、ここに収録されている写真を見ていると、それなりに様々な表現があることがわかります。「明治の昔日本人彫刻家が男性裸体像をつくろうとした時から、股間の突起物は問題だった。朝倉文夫のように、それこそ警察から「切断」を命じられた彫刻家もいた。」わけです。

ちょっとオフビート風に、私たちの日常の視線からズレてゆくもの、はじかれるものを追いかけてゆく著者のエネルギーに拍手した一冊です。