これは、今の日本ではそう簡単に作れない映画です。母国の歴史的汚点を、一部のコアな映画ファンに向けてではなく、一般の人達に見てもらえる映画なんて、誰も作らないし見たくないのかもしれません。

チャン・ジュナン監督作品「1987ある闘いの真実」は、1987年1月に起こった学生運動家の朴鍾哲拷問致死事件から、その後の民主化闘争を真正面から描いた映画です。本国では2017年12月に公開され、多くの観客動員をしました。

当時、韓国は全斗煥大統領軍事政権の圧政のもと一般民衆は苦しんでいました。民主化を求めるデモが学生を中心に激化した最中、ソウル大学の学生が警察の取り調べ中に水責め拷問で死亡します。原因は共産主義撲滅に燃える治安本部のパク所長(キム・ユンソク)にあるのですが、この所長がこうまで共産主義を嫌悪する理由も観客は知ることになります。

もみ消しを画策する所長達の前に、無頼派で権力に屈しない検事やら、恫喝なんてなんのその、猪突猛進する新聞記者など、社会派サスペンス小説や映画には定番のキャラが登場します。映画は、彼らがぐいぐい引っ張ってゆくリアリズムドラマになるのかと思いきや、後半の話は、美形男子大学生と彼に憧れる女子大生の2人が引き継いでいきます。

えっ?なに、その展開?と私はちょっと混乱しました。今の韓国映画の実力なら、もっと切れ味鋭い映像表現も出来たはずです。ラストシーンには、ちょっとなぁ〜と思ってしまいました。しかし、よくよく考えてみると、これはワザとじゃないか、誰にでも感情移入しやすく、自分たちの国の根幹に潜む悪の存在をはっきりと浮き彫りにするために、こういう演出をしたんじゃないかと思えてきました。ドキュメンタリータッチで始動し、多彩な人物が登場するドラマチックな群像劇へと発展し、若い男女の悲しい青春ドラマで幕を閉じるなんて、この監督の力技ですね。

1987年と言えば、日本はバブル経済の真っ最中。高級車、高価なブランド品、贅沢な食事に狂っていた時代です。俵万智の「サラダ記念日」がベストセラーになっていました。また安田海上火災がゴッホの「ひまわり」を高額で落札した事を皮切りに外国の有名絵画の購入ブームが巻き起こった時代でもあります

金の亡者になっていた我が国のお隣で、こいつは怪しいと見なされるや否や捕まり拷問を受け、デモを行えば催涙弾が飛びかっていました。そんな暗黒の時代を、数十年経った今、もう一度見直そうとする映画を作った映画人がいて、やはり見ておこうと思う人が数多くいたのです。拷問シーンにも目を逸らさず、自分たちの国の恥部を知っておこうと劇場に向かいました。つくづく韓国の人って、強靭だなと思いました。

慰安婦問題は解決済みなんて言ってる政治家の皆様、もしこの問題を真正面から捉えた映画が公開されたらどうします?軟弱な皆さん、韓国の人たちの強靭な精神に木っ端みじんにされますよ。

 

★釧路ヒッコリーハウスオーナー安藤誠氏の「ネイチャートーク」が決定しました。

10月27日(土)19時スタートです。参加費は2000円です(要予約)