スタジオジブリ名プロデューサーの鈴木敏夫は、膨大な量の本を所蔵し、読書量も並外れています。今年京都文博で開催された「鈴木敏夫とジブリ展」で、その蔵書を見ることができました。

「読書道楽」(新刊/筑摩書房2200円)では、展覧会に先立ち、彼の心に残った本のこと、作家との出会い、読書した当時の状況など、読書から人生、時代論へと発展したロングインタビュー(全15時間)が行われました。展覧会は、このインタビューをもとに構成されたそうですが、そこに入りきれなかったエピソードを中心に作られました。

「時代ごとに夢中になった作家は何人かいるなと思ったんです。加藤周一さんはもちろん、堀田善衛さんもそう。 年代順に言えば、石坂洋次郎、寺山修司、野坂昭如、深沢七郎、山本周五郎、宮本常一、池澤夏樹、渡辺京二…….まああげだしたらきりがないけれど、小説家もいれば評論家もいる。 それから忘れちゃいけないのが漫画ですよね。ぼくら団塊の世代は大人になっても漫画を読み続けた最初の世代といわれていて、たとえば、大学時代はちばてつやさんの『あしたのジョー』からすごく影響を受けた。」

と、自分の読書体験を総括していますが、なるほど骨のある作家が並んでいます。「明日のジョー」は、私も読んでいましたが、そんなにのめりこんだ記憶はありません。どちらかと言えば、「サイボーグ009」などを熱心に読んだものです。

鈴木も「SFに夢中になるのって、ぼくらより一世代下ですよね。」と言っていました。そして、続けて、自分たちがヒーローものの第一世代であり、それは「月光仮面」だったと言います。1958年〜9年にかけて民放で放送されたTVドラマです。

大学時代、学生運動が盛んないわゆる「政治の季節」の真っ只中。そんな時に、三島由紀夫が結成した左翼に対する軍事的組織「楯の会」に勧誘された話も面白いし、三島の「潮騒」を、「ジブリで映画化しようと真剣に考えたしね。舞台となる歌島をアニメできちんと描いてみたいと思って。」と振り返っています。ジブリ版「潮騒」って見たかったなぁ〜。

第6章「我々はどこへ行くのか」で、彼は自身の引退について興味深い発言をしています。

「最大の失敗は、『風立ちぬ』ですよ。ぼくが宮さん(注:宮崎駿の事)を説得してつくってもらったんですけど、それは戦争の問題さえ片付ければ、宮さんはもうつくらないだろうと思った」

つまり『風立ちぬ』は、宮崎駿の引退映画であり、自分自身の引退にもなるはずだった。ところが中途半端になってしまった。ここで引退して、好きな本を思う存分読むはずだった鈴木のプランは頓挫しました。

「ひとつは重慶爆撃の問題ですよね。、もうひとつはファンタジーなんですよね。『風立ちぬ』にはその要素が少ないでしょう。そうすると、つくり終えたあとで、やっぱりファンタジーをやりたくなったんです。」

確かに0式戦闘機生みの親を主人公にしたこの長編アニメは、割り切れない部分が多々あったように思いました。本のこと、作家のこと、映画のことなどを縦横無尽に語り続ける鈴木敏夫の魅力満載の本です。