これ、今年87歳を迎える現役ジャズシンガー、シーラ・ジョーダンの言葉です。

ミッキーマウスと同じ年に生まれ、モダンジャズの始祖チャーリー・パーカーやマイルス・ディビスと同時代を過ごし、今なお、現役シンガーとして世界をとび回っています。

その彼女のインタビューが、「つるとはな」の最新3号に掲載されました。「つるとはな」は「人生の先輩に聞く」をコンセプトにして、素敵なお年寄りが数多く登場する雑誌です。

ルーツをネィティブアメリカンの独立部族に持つシーラは、人種差別に晒され続けましたが、唯一の拠り所だった歌うことは止めませんでした。そして、近年は毎年、日本でライブをこなし、若手のワークショップにも参加と精力的に活動しています。今、手元には2008年のライブを収録した”Winter Sunshine”(輸入CD1600円)があり、聴いていますが、おいおい、これが80歳をとうに越した女性の歌声か?!

スィング感、ブルースフィーリング、驚愕ですね。老いも、やがて訪れる死も、なんにも怖くないわよという女性のしなやかな歌声が、包んでくれます。彼女の音楽は、さて今日はどんな一日になるか、ちょいとワクワク気分で表通りに踏み出させてくれる楽しさに満ちています。春真っ盛りの今の旬のサウンドです。

シーラだけではなく、相変わらず「つるとはな」には魅力的なおばあちゃん、おじいちゃんが登場します。とにかく、笑顔が素敵です。もちろん、こんな幸せなお年寄りは、ほんの一部かもわかりませんし、介護、病気、認知症等々で苦しい毎日を暮らしている方が多いかもしれません。でも、この本は、全員に訪れる老いを前にして、生きていくための手がかりを探すために発行されています。

扉には「これから不良老人を目指しましょうかね」と、94歳の藤巻あつこさんの優しい笑顔と言葉が書かれています。

願わくは、もっともっと不良爺に登場していただきたいものです。ま、女性の元気さには到底及びませんけどね。

文芸書の大手、新潮社が1998年、新しい作家を紹介する海外文学シリーズ「新潮クレストブックス」を創刊しました。さらに2002年、季刊総合誌『考える人』を創刊します。どちらも本好きにはたまらないシリーズですが、その二つを立ち上げて、同社の「芸術新潮」編集長を兼務していたのが、松家仁之。

2012年、彼は、長編小説「火山のふもとで」で第64回読売文学賞を受賞します。次いで刊行した小説が「沈むフランシス」(新潮社800円)です。今年これまで読んだ小説ではベストかな、と思う「美しい」小説でした。だから、小説って止められない!!

舞台は北海道の小さな村。主人公は、東京から戻ってきた女性で、郵便配達車に乗って、村に手紙を届けるのが仕事です。その村はずれの小屋に「フランシス」と共に暮らす独りの男との恋愛小説です。

表紙は、可愛い犬の写真。あ、これがフランシス?沈むってことは死ぬ?と犬好き読者(私?)は早合点するかもしれませんが、全く関係ありません。フランシスって、この男が管理している水力発電機の名前なのです。

彼の趣味は音楽で、優れたオーディオ装置に囲まれて音楽を聴いていますが、最も好きなのは、彼自身が録音した、様々な「音」です。この音を、初めて聴いたヒロインは、こう感じます。

「目をつぶって聴いていると、それぞれのリアルな光景が、匂いや湿度、気温や風や振動までともなって、目の前に立上がってくる。それが、たったいま動いている」

この作家は、見事に「静寂」を描写できる人です。風が舞い、雪が深々と降る北国の自然は、すべての音を消してしまいます。静寂のみが支配する空間、その無の空間を作家は、透明な美しさをもった情景として描いていきます。なんか、北欧の、清らかな映画を観ている気分です。

物語は劇的な展開を避けて進行しますが、ラストは圧倒的です。大自然の猛威に耐えたヒロインは、ラストでこう確信します。

「星には音がある。桂子はそう思った。聞こえない音がひとつひとつの星からこちらに向かって降ってくる。その音は、光だった。光源すらない、はかない光の音。この光があるうちは、なにも絶望するこはないのだ」

小説が持つ豊かな世界を再確認させてくれる一冊でした。

先日紹介した雑誌「つるとはな」にも松家仁之の短篇が掲載されています。こちらもやはり静かな短篇でした。

こういう小説を探し出し、並べていきたいものです。

 

新刊書店の店頭で、見慣れない雑誌を見つけました。書名は「つるとはな」(創刊号1404円)です。発行所は(株)つるとはな。HPをチェックすると、買取のみで販売している出版社でした。漫然と雑誌を並べて、期限が来たら返本という作業に慣れている書店には無理な、新しいタイプの雑誌販売形式です。(ミニプレスはとっくにそうなってますが)

中身が面白そうだったので、早速仕入れました。一口で言って、これからのシニア世代向けの内容ですが、程好い高級感と、地に足の付いた人達の暮らし紹介で、結構若い世代にもお薦めです。

川上弘美が、巻頭の「薄明へ」で老いることをこう書いています。

「真昼ではなく、暮れがた。真夜中ではなく、明けがた。そういう場所に向かっているような気がするのだ。これからいっそう老いは深くなってゆく。その時、いったいどんな光がわたしに差すのだろうか。悲しみも喜びもともなわない、ただひょん、とした心もちで、思う」

「ひょんとした心もち」って、なんだか良い響きです。これからのことに不安や恐れを持たず、節度ある生活を楽しんで、ちょっと冒険してみたりして、ささやかな楽しみをみつける、そんな人達がわんさか登場します。指揮者の小沢征爾もいれば、アイルランドで祖父の代からのパブを守り続けるおばあちゃんもいる。60歳を過ぎて、洋菓子店を始めた80歳の女性と90歳を越したご主人との台所風景もあります。

しかし、何といっても注目すべきは、初公開の「須賀敦子からの手紙1975〜84」(全編)の掲載です。当店でも人気の彼女の美しい文章が楽しめます。手紙がそのまま印刷されていますが、こんな優しい文字を書く人だったんですね。

そして最後に登場するは、今年65歳の火野正平です。「母性本能?くすぐってねえよ」とうそぶく、やんちゃ坊主の面目躍如です。

雑誌には必ず掲載される映画紹介もあります。「愛、アムール」「母の身終い」「木洩れ日の家で」「旅路の果て」そして「大いなる沈黙へ」と、見事に老いをみつめた、そして静謐な作品が並んでいます。

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