東京で活躍中の写真家原田京子さんの『Spanish Sentiment & Ireland』が本日から始まりました。

2016年と2018年に、「Spanish Sentiment」と題して、スペインを旅した時に撮りためたという素敵な写真を飾っていただきました。この度3回目の個展では、スペインの明るい日差しの下、休日を楽しむ人々の姿を撮した八つ切大の写真に加え、アイルランドの広大な風景をセレクトしていただきました。

一日のうちに、晴・雨・虹・嵐と天気が変わるというアイルランド。ダブリンから船で渡ったイニシモア島で、写真家が夢中でシャッターを切った、その時の澄んだ空気を感じます。断崖の上空を飛ぶ鳥、波と風の音。中でも私が好きなのは、まっすぐに伸びた道と、その上に広がる大きな空の写真です。生きていくには厳しいに違いない荒涼とした大地、けれどそこにある明るい光は太古の昔から変わっていない恵みのようです。人の営みが愛おしくなる大自然の風景。

一方、スペインの街角の人々の生き生きとした表情にも心が動きます。老夫婦が一つの買い物袋を二人で持っている後ろ姿、車中ののんびりした時間、もの思う若い女性の横顔。どれも彼らにとって大切な一コマ。原田さんがこの写真展のために書かれた文章に「スペインとアイルランド。陽と陰のように違うこの二つの世界も、この地球の時間を同時に刻み続けている風景なのだ」とあります。

そして、「今、私達は世界規模で蔓延する目に見えないものの存在に翻弄されています。街から人の姿は減っても、この島は変わることなく風に吹かれ、潮の満ち引きや、太陽や月は世情に関係なく機能し続けている。撮影の地に思いを馳せて、この世界を遠くから眺めてみることも、心のバランスのために必要かもしれません。」と括っています。

世界中の街角に再び豊かなで幸せな風景が戻るように願ってやみません。この時期にも関わらず、写真展を開いてくださった原田さんに改めて感謝いたします。京都の街中の桜は満開です。お散歩がてらお立ち寄りいただければ幸いです。

写真は、すべて販売しておりますが、展覧会終了後に作家からお送りすることになります。(八つ切サイズ18000円・大衣サイズ25000円) 他にポストカードセット(2000円)があります。(女房)

原田京子写真展『Spanish Sentiment & Ireland』は3/31(火)〜4/12(日)

月曜定休日12:00〜20:00(最終日は18:00)

 

 

ラグビーの試合で日本チームがアイルランドと対戦したせいで、遠かったこの国がちょっと身近に感じられた方も多いかもしれません。本日ご紹介する本はアリス・テイラー著「母なるひとびと ありのままのアイルランド」(未知谷/古書1900円)です。

「本書に取り上げる女性たちの人生は、これまで語られたことがありません。人並みはずれた素晴らしい女性たちですが、これまでずっと平凡な人物と思われていたため、その生き様が口にされることはありませんでした。私たちアイルランド人は、素晴らしい女性たちが拓いてきた道のりを歩んでいるのです。女性たちは、農場や村や田舎町や都会で、困難な状況を生き抜きました。」

と著者が言うように、激しい嵐が吹き荒れる島に暮した女性、屠殺した豚を解体し、詰め物を作り、家族に栄養溢れる食事を出すことを信念にしていた女性、冬になると悪魔と化する大地と格闘しながら家畜を守った女性など15人が登場します。

農場で飼っている牛や豚やガチョウに餌をやる姿は、文章だけ読んでいるとユーモラスですが、これ毎朝だとかなりの重労働です。しかも、さらに多くの仕事を抱えて飛び回りることを余儀なくされています。

「丘の斜面の牧場を通り抜けて長い散歩に出かけ、何時間も戻らないこともありました。いま思うと、そのあいだ母はゆっくりと静かに過ごし、しんと静まりかえった野原で心の平安を取り戻してから家に戻り、忙しい日常と折り合いをつけていたのでしょう。」バランスをとりながら生きていかなくてはとても続きません。

この本を読んでいて、子供の頃を思い出しました。私の実家は商売をやっていて、母親も祖母もよく働いていました。確か、お正月も二日から仕事していた母たちの姿を覚えています。

本書を翻訳した高橋歩が「アリスの人生に大きな影響を与えた女性たちの暮らしぶりが丁寧に描かれています。生きていた時代や土地、職業もそれぞれ異なる女性たちですが、全員に共通していることがあります。それは、強い意志を持ち、つらく困難な状況の中でいろいろと工夫を凝らしながら、自らの信念を貫いていると言う点です。」とあとがきに記しています。

そこに、もう一言付け加えるならば、幸せな人生だったということではないでしょうか。時代も文化も違うので、今の私たちと一緒にすることはできませんが、幸福という言葉の意味を考える一冊です。

 

本書には、国のために尽くしたとか、優れた功績を残したとかいった女性は一人も登場しません。アイルランドの大地で生き、死んでいった平凡な女性ばかりです。

 

「ぼくの人生では戦争中が一番平和なときだった」

ドキッとする文章に出くわす「ぼくのエディプス・コンプレクス」他10編を収録した「フランク・オコナー短篇集」(岩波文庫500円)は、お薦めです。フランク・オコナーって?? 村上春樹ファンなら、ご存知ですよね。

2006年、村上春樹は「フランク・オコナー国際短篇賞」を受賞しています。短篇の名手に贈られる賞で、すなわちオコナーも短篇の名手です。20世紀初頭のアイルランドに登場したこの作家は、当時の過激な、例えばバージニア・ウルフ、ジョイスらの英語圏の文学の流れをかえる作家とは異なり、いささかクラシックで、地味な作風ですが、人生の機微を巧みに描いています。

結婚を許されないカソリック神父の元に届いた謎の花輪を巡って展開する「花輪」のラストは、冷たい風の吹く荒地に佇む主人公の姿と、彼の心の奥にしまい込んだ愛が描かれていて、それが私の頭の中で、映像化されて焼き付きます。

訳者は解説で、こう書いています。

「オコナーの原点にあるのは、やはり『語る』という姿勢なのである。ストーリーを展開させることで、人物に生命を吹き込みたいという作家的な欲求にあふれている。理屈に溺れるより、たとえ昔ながらのものであっても、きちんと物語の場をあつらえ読者に入ってきてもらいたいのである。」

どの短篇の主人公たちも、さあ、どうぞと読者が参加してくるのを待っています。そして、人物の造形以上に、アイルランドの自然描写が魅力的です

「一日を通し、水平線には無数の赤銅色の千切れ雲があふれていた。丸みを帯びて小さく、さながら聖母の絵に描かれた幼い天使たちのように、空の果てまで埋めつくしている。そのうち、雲は膨らみはじめ、次々に泡を吹くかのように巨大になり、異なった色へと変わっていった。」

そんな情景描写に誘われながらオコナーの小説世界へとトリップしてください。

蛇足ながら、表紙カバーの絵画は、彼と同じくアイルランド出身のショーン・カスリーの作品です。

 

ただいまギャラリーで開催中の、「あかしのぶこ動物たちの肖像画展 ぼくらは知床に暮らしている。」よりお知らせ

知床斜里町のパン屋さんメーメーベーカリーから、美味しいパンが届きます。12日(火)到着予定。初日に売り切れてしま い、残念!という方、ぜひこの機会に味わってみて下さい。

15日(金)19時半より あかしさんのトークショーがあります。知床で出会った動物たちのお話が聞けます。お問い合わせはレティシア書房(075−212−1772)まで。