映画館で見逃したアトム・エゴヤン監督作品「手紙は憶えている」をDVDで見ました。

認知症が進行し介護施設で暮らしている、90歳のゼブという名前の老人が主人公です。数ヶ月前に愛妻のルースが死んだ事さえ、忘れてしまう日々を送っています。

彼は、アウシュビッツ収容所に収監、生き残ったという過去を持っていますが、偶然にも同じ収容所で生き残ったマックスと、この介護施設で再会していました。ある日、ゼヴはマックスから、自分たちの家族を虐殺したナチスが生き残って、名前を変えてアメリカに住んでいるという情報の手紙を託されます。同じ名前の人物は、3人にまで絞り込まれていました。体の不自由なマックスに、復讐を頼まれた彼は、最後の力を振り絞るようにして、仇を探して3人の元へと向います。列車を、車を、バスを使ってカナダ、アメリカを旅する、一種のロードムービーになっていきます。

候補の一人目は、病院で瀕死の状態でした。しかし、彼は実はアウシュビッツ収容所に入れられていた同性愛者でした。愕然とするゼヴですが、二人目に向います。

二人目の男はナチスでしたが、アウシュビッツとは関係なく、既に死亡していました。警察官をしている息子が一人残っていましたが、この息子、実はナチの信奉者で、ゼヴがユダヤ人であることを知ると、侮蔑的な言葉を投げつけ、愛犬をけしかけ、険悪な状況になってしまいます。そしてゼヴは、誤ってその警察官を射殺する最悪の事態を引き起こします。ポツンと佇むちっぽけな家で、一人酒を煽る孤独な男が、ナチ信奉者だったという状況はゾッとします。

暗澹たる気持ちのまま、三人目の男を訪ねます。娘と孫に囲まれて平和に暮らしている老人。これがまさに、その人物だったことがわかるのですが、ここで、とんでもない展開が待っていました。家族を殺したと詰め寄るゼヴに、その老人は恐ろしい真実を伝えます。そこから後のことは、ぜひDVDでご覧下さい。最後には、ゼヴに手紙を託したマックスの正体も描かれますが、マックスが実はナチスだったか…..などいう単純な結末ではないです、念のため。

見終わった後、置いてけぼりにさせられた感覚が残ります。これって、サスペンス映画だったん?それともアウシュビッツの悲劇を描いたもの? もちろんそのどちらでもありますが、ここではゼヴの認知症が大きく関わってきます。

ゼヴを演じるのは、今年89歳のクリストファー・プラマー。マックス役は、TV「スパイ大作戦」でお馴染み、マーティン・ランドー。昨年89歳で亡くなりました。二人の老優が見せる、癒される事のない過去の苦痛、そして老いの悲しみ、切なさが見所です。

 

勝手ながらレティシア書房は、5月7日(月)〜10日(木)連休させていただきます。

よろしくお願いします。

マリー・カスティユ・マンシオン・シャール監督の「奇跡の教室 受け継ぐものたちへ」(京都シネマ)を観てきました。

フランスのベテラン女性教師が、落ちこぼれ生徒達を全国歴史コンクールに出場させて、栄冠を得るというお話ですが、熱血先生が落ちこぼれ生徒を救う手合いの学校もの感動ストーリーではありません。

先生が、コンクール出場のために選んだテーマは、先の大戦で起こったナチスドイツによる大虐殺、そしてアウシュビッツ収容所です。もちろん、勉強なんてまっぴらの生徒達が、最初から熱心に勉強するわけがありません。映画は、少し距離を置きながら、ドキュメンタリーのように、生徒の日常、授業の風景を散文的に描いていきます。

映画の中で、実在のアウシュビッツ収容所の生き残りの老人が、生徒達にその地獄の日々を、極めて理性的に語るシーンがあります。腕には、収容所で焼き付けられた番号が残っています。今まで持っていた、彼の名前も生い立ちもはぎ取られて生きる日々の始まりです。

この映画に登場する生徒達は髪型、服装、話し方など、極めて個性的です。そんな彼らが、その人の持つ個性をはぎ取り、番号だけの人生を生きさせられた老人の言葉を受けて、考えることを開始します。戦争って何?その時フランス人は何を考えていたのか?なんで人は虐殺が出来るのか?等々。そして、それぞれのアプローチでこの問題に取り組み、発表していきます。それぞれの思いで、深く考える、そこから個性が表れてくることが分かります。(写真右は撮影中の監督−手前の女性です)

映画は、高校生がアウシュビッツと向き合い、どう変化したかを描いていきますが、その一方で、自分たちで考え、まとめ、それを表現するという作業から、一人一人の持ち味が出来上がってくるまでを描いたように思えます。ラスト、彼らは、収容所で死んでいった人達への追悼を込めて、色とりどりの風船に、亡くなった人の名前をひとつずつつけて、青空に放ちます。彼らの新たな旅立ちを象徴するような素敵な幕切れでした。

本作は、アハメッド・ドゥラメという当時18歳だった少年が、シャール監督へ送った一通のメールから映画化の道が始まりました。生徒の一人マリック役を務めた21歳のドゥラメは、自身の高校一年生のときの体験を元に監督と共に脚本に参加しています。正に、落ちこぼれだった生徒が、アウシュビッツに向き合うことで、人生を見つめなおし、自分の道を見つけるまでを描いたドキュメントでもあったわけです。

ところで、彼が目ざしているのが映画監督。いつか、アハメッド・ドゥラメ監督作品が観られる日がくるかもしれません。(写真はマリック役のアハメッド・ドゥラメと先生役のアリアンヌ・アスカリッド)