1994年、一つの詩が発表されました。タイトルは「神隠しされた街」

「捨てられた幼稚園の広場を歩く 雑草に踏み入る 雑草に付着していた核種が舞いあがったにちがいない 肺は核種のまじった空気をとりこんだにちがいない 神隠しの街は地上にいっそうふえるにちがいない 私たちの神隠しは今日かもしれない」

とゾッとするような言葉が並んでいます。そして、このように終わります。

「うしろで子どもの声がした気がする ふりむいてもだれもいない なにかが背筋をぞくっと舞う 広場にひとり立ちつくす」

94年、すでに詩人は、2011年の福島の悲劇を見つめていたのかも知れません。詩人の名前は若松丈太郎。福島の北泉海岸を見続けました。この詩に注目したのが、やはり詩人のアーサー・ビナード。彼はこう指摘しています。

「確かな観察眼で実体を捉え、声なき植物に耳をすまし、生態系から発せられる情報を収集して作品で生かしているものは決して多くない。(略)でも、日本語の詩歌がすべて無力だったかというと、そうではなく、若松丈太郎という優れた書き手が力を発揮していたのだ。」

若松が92年、94年、2008年、2011年に書いた詩に、ビナードが英訳を付けて、震災以降の福島の各地を撮った斉藤さだむの写真とともにまとめたのが「ひとのあかし/What Makes Us」(清流出版800円)です。

荒涼たる大地にぽつんとなびく一匹の鯉のぼり、誰もいない街の路上、ひしゃげた鉄塔等の写真と、震災以前に書かれた詩が、同居していることに鳥肌がたちます。強い口調で迫ってくるようなものではありませんが、心にずっしりと届いてくる一冊です。

11年に書かれた「ひとのあかし」のメッッセージは明確です

「ひとは作物を栽培することを覚えた ひとは生きものを飼育することを覚えた 作物の栽培も いきものの飼育も ひとがひとであることのあかしだ あるとき以後 耕作地があるのに作物を栽培できない 家畜がいるのに飼育できない 魚がいるのに漁ができない ということになったら ひとはひとであるとは言えない のではないか」

青空に向かっていななく馬の写真。お前達はわかっているのかと問いかけてきます。最後の部分の英訳はこうです

“which is where we stand  what makes us human”

“what makes us human”-「何が私たちを人たらしめるのか」、深い問いかけです。この福島からの声を聞くと、やっぱオリンピックなんかで浮かれている状況ではないと思うんですがね。

この本は、福島であったことを忘れてしまいそうになる戒めとして、持っておきたい一冊です。

 

 

 

宮沢賢治の「雨にも負けず」という詩は、皆様ご存知だと思います。

この詩には不幸な過去がありました。戦時中の「欲しがりません、勝つまでは」の世論に同調するように、この質素な暮らしこそ、お国の勝利に繋がるという解釈をされてしまったそうです。バカな(あるいは狡猾な)政治家、軍人が跋扈すると、こうなるんですね。

写真は、2014年に発行されたアーサー・ビナードの英語翻訳による「雨ニモマケズーRain Won’t」(今人舎1500円)。ちょっと表現が古くさいと感じていたこの詩が、そうか、こんなに素晴らしいものだったのか!!と、わかります。

「雨ニモマケズ 風ニモマケズ」が英訳ではこうです.

“Rain won’t stop me    Wind won’t stop me”

「私」が「雨に負けない」のではなく、「雨」は「私を止めない」になっています。つまり、自然が主語になっています。その後に続く「雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ」も

“Sweltering summer heat will only raise my determination”.

翻訳すれば「夏のうだるような暑さは,私の決意を確たるものにするに過ぎない」です。

もちろん、大自然の脅威に負けない私の意志は、きっちりと表現されています。けれど、悪戦苦闘する私の存在なんぞ、自然の前では小さなものなのです。だからこそ、雨や風、そして夏の暑さが主語になっているのです。

賢治は、この詩で、人知の及ばない自然と共生するには、我欲を捨て、進歩を望まず、ほんの少しの自然からの贈りものを大切にいただきながら暮らすことだと明言しています。

最後の詩句「サウイフモノニワタシハナリタイ」は英訳で、こう表現されています

“All this is my goal-the person I want to become”

どうです、ど真ん中剛速球で、気持ちいいですね。

そう、この英訳、音読するととても気持ちいいのです。朝一番に大きな声で読んでみてはいかがですか。

絵は、「頭山」で世界的に注目されたアニメ作家、山村浩二が、日本の自然の美しさを描いています。風の匂いや、夜の冷気を感じる絵を楽しみながら、ぜひ音読してください。