長期にわたりニューヨークに滞在し、現代アート、写真のキューレションに携わっていた河内タカが、現代アートを紹介する「アートの入り口」(太田出版/古書1300円)は、気楽に読める一冊です。

著者曰く「ここに書き綴ったものは、そのほとんどがまだ朝日が昇る前の早朝の静かな時間帯を使って書いたものです」。ラジオから流れる“Take Five”にでも耳を傾けながら、気分よく現代アートの世界に入れます。

ここにも登場するジャクソン・ポロックやマーク・ロスコなどの、現代作家を書いた本には難解なものが多く、辛気くさい。その点この本は、先ず著者の住んでいたNYの雰囲気や、彼の生活を記した文章から始まります。一緒にソーホーのギャラリーを回っている感じがします。そして、徐々に作家についての紹介が始まります。

マーク・ロスコを、人の感情に深く訴えかける「カラーフィールド・ペインティング」と呼ばれる抽象絵画のスタイルの中心をなすアーティストと捉え、「油絵具を水彩のように薄く溶き、何層にも塗り重ねていくことによって生み出される深く透明感のある画面であり、その表面を凝視していると、最初に見えていた色とは異なる色彩が感じられます。海の色や夕焼けが刻一刻と動くのと同じで、それ自体がまるで生きているかのごとく、キャンパスの奥から淡い光が静かに放たれているようなのです。」

イメージが湧いてくる文章です。紹介した作家の作品や作品集が掲載されているのですが、いかんせん小さい。興味ある作家に出会えば、パソコンを立ち上げて、画像を検索されることをお薦めします。

後半、新しい流れの写真家が多く紹介されています。ポートレート写真で有名なアーヴィング・ペンでは、生前彼が「人を撮るということは手術するようなものと語っていたそうです。被写体となる人物の中に深く入っていって、その人の真の姿を切り取ることは、その行為にあたる自分にも痛みを覚えるというニュアンスで語ったのかもしれません」と彼の言葉を紹介しています。(右のヘップバーンの写真は彼の作品です)

この本で最後に紹介されるのが、ヴィヴィアン・マイヤーという写真家です。彼女については、ドキュメンタリー映画をブログで前に書いた事があります。生前は全く無名の写真家でしたが、死後、その膨大な数の作品が発見されました。写真を誰からも学ばず、ニューヨークやシカゴのストリートで、日々シャッターを押して、リアルでライブ感に溢れる写真を撮っていました。晩年、生活に困窮し、2009年に人知れず亡くなりました。著者は「この名もない一人の女性が生涯をかけてコツコツ撮り続けた、これほど凄みのある写真を見ることができる奇跡に、ぼくは感謝したい気持ちでいっぱいです。」という文章で結んでいます。蛇足ながら、この映画を観たのは、2015年12月7日でした。3年ぶりに彼女のことを書く事になりました。

多くの現代アートの作家や、写真家を網羅した本書から、お好みの作家を見つけ出してみてはいかがでしょうか。

 

 

 

★イベントのお知らせ「宮沢賢治 愛のうた 百年の謎解き」

2019年1月18日(金)19時より、「新叛宮沢賢治 愛のうた」を出された澤口たまみさんとベーシスト石澤由男さんをお迎えしてトーク&ライブを行います。ご予約受付中(1500円)