例えば、こんなシーンを想像できるだろうか。繁華街のど真ん中、多くの人が歩いている路上で、犬がどこからかゲットしてきた骨にむしゃぶりついている。観光客でごった返す京都駅のコンコースで犬が寝ている。あるいは、大通りの交差点を大きな犬が渡ろうとしている。

日本では、すぐに警察が来て犬を連れて行き、最悪の場合処分されるかもしれません。ところが、トルコの首都イスタンブールはそうではないのです。この都市の犬の殺処分は0。過去にはかなりの数の犬が殺処分されていたのですが、市民の猛抗議で中止。2021年には動物福祉のためという名目で、野良猫や犬を収容する法案が検討されましたが、こちらもやはり猛抗議で取りやめられ、現在野良犬たちは自由気まままに暮らしています。

ドキュメンタリー映画「ストレイ 犬が見た世界」(アップリンクで上映中)は、ほぼ、犬の視線で街中を行き来する彼らを描きます。独立心の強いゼイティン、フレンドリーなナザール、愛らしい子犬カルタルの三匹を中心に、彼らが見つめているトルコ社会の片隅を、覗くことになります。学校も行かず、昼間からシンナーを吸っている少年たち、あるいはシリアからやってきた難民。彼らは行くあてもなく、路上に眠り、配給される食事で飢えをしのぐ明日をもわからない日々を送っています。そんな、彼らにも犬は寄り添います。

しかし、この街の住人全てが犬に愛情を持っているわけではありません。傘で追い立てられたり、放水されたり、交通事故で命を落とす危険もあります。とはいえ基本的に彼らは自由です。そして、その自由はイスタンブールの人々との間で認められているのです。

きちんと食事をもらえるわけでもないので、腹を空かすこともあるかもしれませんが、この街で人と共に暮らすメンバーなのです。そうして生きてきたし、これからも生きてゆくよ、という犬たちの声が聞こえてきそうです。

コーランの声にワンちゃんが同調するように歌うラストシーンには感動しました。