「『怒りの葡萄』は10代必読の書です」

とは、映画に登場する図書館司書のセリフです。ジョン・スタインベックが1930年代に発表した長編小説「怒りの葡萄」は、土地を追われる農民と資本家の軋轢を描いた物語です。「パブリック図書館の奇跡」で、この一節を良い場面で使っています。とてもウェルメイドな作品で、社会体制批判を織り込みながら、成る程と納得させるエンタメ映画に仕上がっています。監督・脚本・主演はエミリオ・エステベス。「地獄の黙示録」などで有名な俳優マーティン・シーンの長男。「プラトーン」に出ていた俳優チャーリー・シーンは弟という映画一家の役者で、監督です。

舞台はオハイオ州シンシナティの公共図書館。実直な図書館員スチュアート(エミリオ・エステベス)が、常連のホームレスから「今夜は帰らない。ここを占拠する」と告げられます。大寒波で路上凍死者が続出しているのに、市の緊急シェルターが満杯で、行き場がないから、ここに泊まることを決めたというのです。70人余りのホームレスが図書館の一部を占拠。彼らの苦境を察したスチュアートでしたが、事態はそれでは収まらず、政治的なイメージアップをもくろむ市長候補の検察官の主張や、センセーショナルなメディア報道によって、スチュアート自身が危険な”容疑者”に仕立てられてしまい、機動隊が出動し、スチュアートとホームレスたちは追いつめらていきます。

「俺は本で救われた。だから、ここで働いている」とスチュワートは語ります。かつて、彼はアルコールと薬で体も心も蝕まれ、犯罪を起こし、路上生活も経験していました。そんな彼が、本を読むことで、荒れた生活から抜け出すことができたのです。

さて「怒りの葡萄」ですが、事件の中継をしていたマスコミにスチュワートがコメントを求められた時に、小説の中の台詞を語ります。ここにいるホームレス達も、小説の中の農夫達も、政府や資本家から搾取され、放り出された人たちです。だからこそ、この台詞には説得力があるのです。

占拠が長引き、警察は突入することを決めます。今回だけは反抗すると宣言したスチュワートやホームレスは、大胆な行動(これは映画を見てのお楽しみ)に出ます。上手い!ラスト。監督の才能に感服しました。非暴力、非抵抗ながら彼らの意志を鮮明にしたエンディングには拍手拍手でした。

「ここは公共図書館だ。民主主義最後の砦だ」

と、スチュワートが警察に向かって言います。アメリカでは公共図書館とは権力から表現の自由を守り、弱者の側に立つ、そういう存在なのだということを知ると、羨ましくなりました。

花田菜々子(書店員/ブックストア・エイド基金運営事務局メンバー)さんは、映画のHPでこうコメントしています。

「書店員も図書館員も慈善事業じゃない。でもいつでも弱者の側にいたいと思う。たくさんの本が私に、弱く生きる人々の美しさを教えてくれたからだ。」素敵なコメントです。