こんなおじさんとは、ナザレ生まれのパレスチナ人監督エリア・スレイマンの新作「天国にちがいない」の主人公です。

不思議な味わいのある映画でした。監督自身が主演して、このおじさんを演じるのですが、ほとんど口を開きません。会話に障害がある訳ではないのですが、他の登場人物は普通に喋るのに、なぜか彼だけが喋りません。ちょっとはにかんだような、困ったような、微笑んでいるような視線でこちらを見ているのです。

おじさんがどんな人物なのか全くわかりません。え?そんな映画退屈じゃないの?と思いきや、彼が見つめるパレスチナの街角や、旅するパリ、NYの街並みに立っている姿を見ていると、不思議に心地よい感じになってきます。穏やかな春風を受けて、鶯の鳴き声なんかを聞いている時の穏やかさと似ているような。

で、このおじさんは何をしているかというと、実は映画監督なのです。だから、監督自身が新作の資金集めにパリ、NYの映画会社に赴くというのがストーリーなのです。でも、そんなことよりも、彼が見る風景を私たちが楽しめることが、この映画の面白さです。

スレイマン監督は現代のチャップリンと評価されているようですが、こんなシーンがありました。監督がPCで作業をしている時、窓から小鳥が入ってきて、彼の邪魔をします。それを何度か、遠ざけようとするのですが、何度やっても鳥はPC に乗ってきます。その繰り返しが、チャップリンのコメディーを思い出させました。なんともユーモアがあっていいのです。

資金が得られなくて故郷に戻ってきた彼が、クラブで踊り狂う若者たちを見つめるところで映画は終わります。まぁ、いいか、なんとかなるか〜、でもちょっとどこか寂しげな顔つきが、心に残る映画でした。