北海道釧路在住のネイチャーガイドで、写真家。そしてウィルダネスロッジ「ヒッコリーウインド」オーナーの安藤誠さんの「日常の奇跡ー安藤誠の世界」(どう出版/新刊1870円)が入荷しました。

安藤さんと初めて会ったのは、10年ほど前。ロッジに二泊ほどして、湿原をガイドしてもらったり、音楽の話や、彼のギターを聴きながら美味しいウィスキーをご馳走になったことを思い出します。その後、北海道の自然を語るネィチャートークツアーで当店にもお越しいただき、ここ数年は毎年開催してきました。彼が言い続けてきた大切なことが、この本にまとめられています。

「私が5、6歳の頃は、ヒグマにたいへん興味を持っていたそうです。クマに取り憑かれているのではないか、医者に診せなければならないのではないかと親が思い詰めるほど熱心だったと聞いています」

そんなクマ少年は、今、本格的にクマ保護のための活動を始めています。その話は当ブログ「安藤誠トークショー、今年もやりました。」をご参考にしてください。

彼は、昨今のマスコミのクマによる人災についての報道に偏りが多々あることを問題にしています。

「北海道の有名なお菓子に『山親爺』と言うクマの絵柄の入った昭和のお菓子があるのですが、それは、北海道では山で『クマ』と呼ぶと失礼だから、『おやじさん』と言うふうに畏敬の念を込めて呼んでいたそうです。」

クマのことだけでなく、荒れ果ててゆく自然に対して、何をなすべきかを本気で考え、行動している人だと思います。クマによる人災にアホなコメントを出していた環境大臣にこそ、一ヶ月ほどここで修行していただきたい。(右の写真は安藤さんの作品です。このクマの顔つきが好きです。)

プロのガイドとして、カメラマンとして、北海道の自然を語る者として、この人は本物だと思います。

自転車好きの彼は、こんなことを書いています。「自転車旅行は素晴らしい。自分で漕がなければ1メートルも進まない。しかし意思があれば、その意思をブーストさせて1日に100キロ以上の移動が自力のみで可能となるのだ。エンジンは自分自身。自分自身の心技体。諦めない心。何度となくやってくる坂道、時に信じられない過酷な峠や向かい風、雨にもみまわれる。しかし立ち向かって超えていくのだ。それが全て自分自身の結果と実績になる。」

前向きに全力疾走する安藤さんらしい言葉だと思います。

 

毎年、北海道からネイチャーガイドの安藤誠さんをお迎えして、北国の自然を語る会を開いています。今年は、コロナ感染拡大のためどうなることかと思いましたが、参加者を制限させていただいて、10月30日に開催いたしました。

コロナ流行のため、安藤さんの経営するペンション、ヒッコリーウィンドは三ヶ月間の休業を余儀なくされました。そんな中、彼は「本当にやりたいことは何なのか、何の為に仕事をしているのか」を問い続けたといいます。そして、原点に立ち戻って、大自然の美しさ、不思議さを知ってもらうことが、自分の務めだと再確認します。そこで、素敵な映像制作を手掛け、この会で披露していただきました。

プロ仕様の機材を駆使して制作された、北の国に生きる動物たちの姿は、奇跡のように美しいものでした。この先、北海道の自然をいっぱい詰め込んだ長編ドキュメンタリー映画を作って全国を巡回することも、安藤さんとヒッコリーウィンドのスタッフの力を思えば夢ではありません。

彼はさらにステップアップを目指します。なんと現在、狩猟免許と罠猟の許可を取る為に勉強しているということです。何故か?

人里に出没するクマに対して、猟友会の方々が動いておられますが、猟友会も高齢化していて、銃を扱える人が年々少なくなっています。銃を持つものに対してクマはそれ以上近づくことはありません。ですが、銃で追い払う代わりに罠を仕掛け、捕まったクマは片っぱしから処分されているのが現状です。どこのクマかわからないまま、安藤さん曰く、無実のクマが殺され続けているのです。その数、年間5000頭とか。

彼が免許を持つことで、自治体と協力しながら最小限の処分で、結果、クマを守るという方法を模索するという試みです。ネイチャーガイドとして、自然を熟知している彼にこそ、できることかもしれません。ここまでのクマへの深い愛情の、その根底には、この星は人間だけのものではないという信念があると思います。

90分ほどのトークでしたが、実り多き一夜でした。こんな時期にも拘らず、小さな書店の小さな集まりに来てくださったお客様と、安藤さん、ヒッコリーウィンドのスタッフの皆様にお礼申し上げます。

⭐️11月5日どう出版より安藤さんの自伝的エッセイ集「日常の奇跡」(税込1870円)が発売されます。もちろんレティシア書房は、この本を取り扱います!安藤さんを知っている方も、ネイチャーガイドって何?という方もぜひ手にとってみてください。予約も受付ております。

すずきまいこさんの新作絵本「いつも おまえの気配を さがしていた」(新刊/1080円)が、北海道のかりん舎より届きました。すずきさんは、北海道在住で、昨年の5月に絵本「ぼく生きたかったよ」発売記念の原画展を当店ギャラリーで開催しました。

前作「ぼく生きたかったよ」は、戦時中、国が猛獣の脱走を恐れて動物園に処分を命じた時に、京都動物園で殺された熊の親子の実話をもとにした絵本でした。戦争は動物の命も平気でむしり取ることを、独特のペンのタッチで強く印象づけた絵本でした。今回の新作は、北の大地にいきる熊たちの気配を身近に感じていたい、著者の気持ちが込められた素敵な絵本です。

「カサカサなる 笹の葉 ひんやりした 森の空気 ーこの風のなかにすわって 絵を書くこと…….  それは とおい都会にいたときに 涙が出るほど 夢見ていたこと」

その夢みていたことに身をまかせて、山の中のクマの気配に耳をそばだててながら、細密に描き込まれた植物と、そこにヒョイと出て来るユーモラスなタッチのクマの足。豊かな森に囲まれて、森に生きる命と会話しながら描くすずきさんの幸せな感じが伝わります。

「リスに はなしかけながら おまえの息づかいを かんじながら いま ここに 生きているんだ……..と 目のまえの いのちを 紙に描きおこす たのしさ」

レイチェル・カーソンの「センス・オブ・ワンダー」に近い感覚をちょっと覚えました。

作者は最後にこうつぶやいています。

「一とうのクマが 撃たれて 星になった それ以来 わたしの胸の だいじなところに おまえは棲みついて 森をはなれると おーい おーいと こころの中の おまえが呼ぶ」

星野道夫が、都会で生きている時、同じ時間をくまが森の中で生きている不思議さに感動すると書いていました。最終ページに描かれた絵(写真右)は、星野も、すずきさんも心の中で見たに違いない森をゆくクマの姿のようです。

 

★ご予約開始

今月下旬、吉田篤弘の新刊「神様のいる街」が夏葉社より発売されます。「神様のいる街」と神保町と神戸。筆者が通った本屋さんや、カフェが登場します。ご予約先着5名様に限りサイン入(予定)。また、本作には幻の処女作「ホテルトロールメモ」(30p)も収録されています。

 

 

野生のクマの写真で、星野道夫を越えてゆくのは、なかなか出現しないだろうと思っていましたが、やはりさらに前に向かう者っているんですね。

雑誌「ライフスケープvol.1」(ブテッィク社1100円)で特集を組まれている前川貴行の作品を観た時、星野とは違うアプローチで、野生に切り込む写真家の鋭い視線に魅了されました。それは、彼の「道を拓いた一枚」と題して紹介された写真で、2002年秋、南アラスカで撮影された、サーモンを口にくわえたブラックベアーを捉えた作品です。

血の滴るサーモンを頬張るブラックベアーの表情。目には狩猟する者としての深い悲しみさえ感じさせてくれます。

もう一点、クマではありませんが、2012年ウガンダで撮影されたマウンテンゴリラを正面から捉えた作品。ジャングルの神に相応しい威厳と洞察力、そして優しさを漂わせた一枚です。出来うるならば、彼の前に座って長きにわたる森の話を聞かせてもらいたいものです。

彼は動物写真家として歩み出した頃、鬱蒼とした獣道で、ばったり一頭のシカに出会います。その時の気持ちをこう書いています

「宇宙人にでもばったり遭遇したような、動物が動物を越えた何物かであることをその瞳に感じた。そしてシカと僕は同じ大地に立ち、今を生きる命としてあくまで対等な一個と一個であった。」

彼の作品に登場する動物達の特徴は、彼等の目を捉えていることでしょう。星野が、すべての外界の情報を取り込む彼等の鼻に着目していたように、前川は視線にすべてを注ぎます。お互い、対等な存在として見つめあっているように。

彼の作品集は何点か出ていますが、ひとつだけ古書で見つけました。「Bear Worldクマたちの世界」(菁菁社3200円)です。北海道で撮影されたヒグマの親子の仔グマが、「うん、何か用?」とでも言いたげな視線は傑作です。

 

 

ところで、当店のクマがらみの企画をご紹介いたします。

●11月3日(火)〜15日(日) 安藤誠写真展 北海道在住のネイチャーフォトグラファーの写真展。

2014年「ネイチャーズフォトグラフィージャパン」で鳥部門凖グランプリ、動物部門入賞されました。その記念すべき写真展です。安藤さんのクマを捉えた写真も、同じく「ネイチャーズフォトグラフィージャパン」の動物部門で入賞されています。今回の写真展にもクマが登場するかは、お楽しみです。

 

●2016年5月24日(火)〜6月5日(日)すずきまいこ作品展。

札幌在住の鈴木麻衣子さんの絵本「ぼく生きたかったよ」(かりん舎)の原画展。これは戦時中に、動物園から逃げると危険との理由で殺処分にされたクマの話です。因みに京都市動物園もクマ、ライオン等14匹を処分しています。

決して明るいお話ではありませんが、戦争好きの首相にも、この絵本をぜひお読みいただきたいものです。

なお、こちらの絵本は近日販売を開始します。

 

 

 

 

本日より、結城幸司さんの木版画展「纏うべき風」展が始まりました。

朝、荷物が到着して開封した瞬間、アイヌの森深くに棲むクマの神がやってきました。

北海道のネイチャーガイド安藤誠さんは、昨秋当書房でのトークショーの際、「クマが恐ろしいものだという誤った情報を垂れ流すメディアの姿勢を是正していかねばならない」と語っておられました。結城さんの作品を見ていると、人とクマの正しい有り様が見えてきます。大作「くまの神様と話したよ」は、人の心とクマの心が交わり、新しい世界が立ち昇ってきます。

本を読んだり、音楽を聴いたり、映画や美術を鑑賞したりする目的は様々でしょう。新しい刺激を受けたい、美しいものに触れたいなど。でも、圧倒的に大きな存在の前で、俺ってこれぽっちなんだなぁ〜、と知り、それもひっくるめて受け入れてくれる強さを持った作品に出会うことは、なかなかありません。星野道夫や、宮沢賢治を読んだ時に似た感情とでも言えばいいのでしょうか、多分それに近いものを結城さんの作品は持っています。作品と対峙すると、踞る自分を解放してくれる大きさと強さを秘めています。

この展覧会は、今週末までの1週間です。GW前、お忙しいとは思いますが、観て頂く価値のある個展だと確信しています。

なお、店内にて、25日金曜日午後7時30分より、結城さんのアイヌモシリの神話と心話の世界」と題したトークショー(1500円)を開催します。作品を観ながら、アイヌ民族の持つ世界観に触れてみるのも素敵です。(狭い書房ですので先着15名様で締め切らせていただきます)

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「クマが私のお師匠さんです」と言うアイヌ最後の狩人、姉崎等さんの「クマにあったらどうするか」(ちくま文庫700円)が入荷しました。仕留めたクマは60頭という大ベテランのクマ撃ちの話を映像作家の片山龍峯が記録した本です。アイヌ民族の伝統的なものの考え方に、こんなものがあります。

「アイヌモシッタ ヤクサクベ シネブカ イサム」

日本語にすると「この世に無駄なものは一つもない」ということです。

このクマ撃ちの名人もその考えに立っています。人を襲ってしまったクマは、山に返そうが、必ずまた人を襲う。だから、殺さねばならない。クマ自身が、自分が強いと思ったら駄目なんだ。しかし、「昔から地球上に、お前達生きろと神様から言われて分布して生きているものは、生きていてほしいと思うね。虫一匹だっていなければ人間には困ることだってある。」と語っています。

アイヌ語でクマは「キムンカムイ」と言います。これは「山の神」という意味ですが、「キム」は「里山」に近い場所を指しています。だから、正確には「里山の神様」という意味になり、クマと人間は、そんなに遠い距離ではなく、近くで暮らしていたのです。クマはいつも人間を観察しているし、人が来たら逃げる動物です。それが、いつの間にか、恐ろしい動物のイメージになってしまったのは悲しいことですね。この本では、本当のクマの姿、そしてアイヌ民族とクマとの深い関係など、どれも楽しいお話が収録されています。

エピローグで聞き手の片山さんが、クマに組み伏せられて、今にも食べられそうになった時、どうすべきかという質問に対しての、答えが笑います。

「手を握って、こぶしを作って腕をクマの口の中に突っ込んでベロをつかんで押したり引っ張ったりする。そうやって喉を塞がれると、クマのほうも嫌だから逃げていったというハンターの話はあります」

これって、「口から手突っ込んで、奥歯ガタガタ言わしたろか」っていうあの懐かしのギャグと変わんないですね。

蛇足ながら、星野道夫ファンはお読み下さい。後半に彼の本のことも出てきますから。

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