野生のクマの写真で、星野道夫を越えてゆくのは、なかなか出現しないだろうと思っていましたが、やはりさらに前に向かう者っているんですね。

雑誌「ライフスケープvol.1」(ブテッィク社1100円)で特集を組まれている前川貴行の作品を観た時、星野とは違うアプローチで、野生に切り込む写真家の鋭い視線に魅了されました。それは、彼の「道を拓いた一枚」と題して紹介された写真で、2002年秋、南アラスカで撮影された、サーモンを口にくわえたブラックベアーを捉えた作品です。

血の滴るサーモンを頬張るブラックベアーの表情。目には狩猟する者としての深い悲しみさえ感じさせてくれます。

もう一点、クマではありませんが、2012年ウガンダで撮影されたマウンテンゴリラを正面から捉えた作品。ジャングルの神に相応しい威厳と洞察力、そして優しさを漂わせた一枚です。出来うるならば、彼の前に座って長きにわたる森の話を聞かせてもらいたいものです。

彼は動物写真家として歩み出した頃、鬱蒼とした獣道で、ばったり一頭のシカに出会います。その時の気持ちをこう書いています

「宇宙人にでもばったり遭遇したような、動物が動物を越えた何物かであることをその瞳に感じた。そしてシカと僕は同じ大地に立ち、今を生きる命としてあくまで対等な一個と一個であった。」

彼の作品に登場する動物達の特徴は、彼等の目を捉えていることでしょう。星野が、すべての外界の情報を取り込む彼等の鼻に着目していたように、前川は視線にすべてを注ぎます。お互い、対等な存在として見つめあっているように。

彼の作品集は何点か出ていますが、ひとつだけ古書で見つけました。「Bear Worldクマたちの世界」(菁菁社3200円)です。北海道で撮影されたヒグマの親子の仔グマが、「うん、何か用?」とでも言いたげな視線は傑作です。

 

 

ところで、当店のクマがらみの企画をご紹介いたします。

●11月3日(火)〜15日(日) 安藤誠写真展 北海道在住のネイチャーフォトグラファーの写真展。

2014年「ネイチャーズフォトグラフィージャパン」で鳥部門凖グランプリ、動物部門入賞されました。その記念すべき写真展です。安藤さんのクマを捉えた写真も、同じく「ネイチャーズフォトグラフィージャパン」の動物部門で入賞されています。今回の写真展にもクマが登場するかは、お楽しみです。

 

●2016年5月24日(火)〜6月5日(日)すずきまいこ作品展。

札幌在住の鈴木麻衣子さんの絵本「ぼく生きたかったよ」(かりん舎)の原画展。これは戦時中に、動物園から逃げると危険との理由で殺処分にされたクマの話です。因みに京都市動物園もクマ、ライオン等14匹を処分しています。

決して明るいお話ではありませんが、戦争好きの首相にも、この絵本をぜひお読みいただきたいものです。

なお、こちらの絵本は近日販売を開始します。

 

 

 

 

本日より、結城幸司さんの木版画展「纏うべき風」展が始まりました。

朝、荷物が到着して開封した瞬間、アイヌの森深くに棲むクマの神がやってきました。

北海道のネイチャーガイド安藤誠さんは、昨秋当書房でのトークショーの際、「クマが恐ろしいものだという誤った情報を垂れ流すメディアの姿勢を是正していかねばならない」と語っておられました。結城さんの作品を見ていると、人とクマの正しい有り様が見えてきます。大作「くまの神様と話したよ」は、人の心とクマの心が交わり、新しい世界が立ち昇ってきます。

本を読んだり、音楽を聴いたり、映画や美術を鑑賞したりする目的は様々でしょう。新しい刺激を受けたい、美しいものに触れたいなど。でも、圧倒的に大きな存在の前で、俺ってこれぽっちなんだなぁ〜、と知り、それもひっくるめて受け入れてくれる強さを持った作品に出会うことは、なかなかありません。星野道夫や、宮沢賢治を読んだ時に似た感情とでも言えばいいのでしょうか、多分それに近いものを結城さんの作品は持っています。作品と対峙すると、踞る自分を解放してくれる大きさと強さを秘めています。

この展覧会は、今週末までの1週間です。GW前、お忙しいとは思いますが、観て頂く価値のある個展だと確信しています。

なお、店内にて、25日金曜日午後7時30分より、結城さんのアイヌモシリの神話と心話の世界」と題したトークショー(1500円)を開催します。作品を観ながら、アイヌ民族の持つ世界観に触れてみるのも素敵です。(狭い書房ですので先着15名様で締め切らせていただきます)

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「クマが私のお師匠さんです」と言うアイヌ最後の狩人、姉崎等さんの「クマにあったらどうするか」(ちくま文庫700円)が入荷しました。仕留めたクマは60頭という大ベテランのクマ撃ちの話を映像作家の片山龍峯が記録した本です。アイヌ民族の伝統的なものの考え方に、こんなものがあります。

「アイヌモシッタ ヤクサクベ シネブカ イサム」

日本語にすると「この世に無駄なものは一つもない」ということです。

このクマ撃ちの名人もその考えに立っています。人を襲ってしまったクマは、山に返そうが、必ずまた人を襲う。だから、殺さねばならない。クマ自身が、自分が強いと思ったら駄目なんだ。しかし、「昔から地球上に、お前達生きろと神様から言われて分布して生きているものは、生きていてほしいと思うね。虫一匹だっていなければ人間には困ることだってある。」と語っています。

アイヌ語でクマは「キムンカムイ」と言います。これは「山の神」という意味ですが、「キム」は「里山」に近い場所を指しています。だから、正確には「里山の神様」という意味になり、クマと人間は、そんなに遠い距離ではなく、近くで暮らしていたのです。クマはいつも人間を観察しているし、人が来たら逃げる動物です。それが、いつの間にか、恐ろしい動物のイメージになってしまったのは悲しいことですね。この本では、本当のクマの姿、そしてアイヌ民族とクマとの深い関係など、どれも楽しいお話が収録されています。

エピローグで聞き手の片山さんが、クマに組み伏せられて、今にも食べられそうになった時、どうすべきかという質問に対しての、答えが笑います。

「手を握って、こぶしを作って腕をクマの口の中に突っ込んでベロをつかんで押したり引っ張ったりする。そうやって喉を塞がれると、クマのほうも嫌だから逃げていったというハンターの話はあります」

これって、「口から手突っ込んで、奥歯ガタガタ言わしたろか」っていうあの懐かしのギャグと変わんないですね。

蛇足ながら、星野道夫ファンはお読み下さい。後半に彼の本のことも出てきますから。

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