ウェス・アンダーソン監督の新作「犬ヶ島を観ました。膨大な人力と時間のかかるストップ・モーションアニメです。

静止している物体を、1コマ毎に少しずつ動かしてカメラで撮影し、あたかも連続して動いているかのように見せる技術で、通称「コマ撮り」と呼ばれる技法で作られています。まだアニメ技術の進んでいなかった時代のやり方で、CG全盛期の昨今、長編で作ろうなどという輩はおりません。

しかし、アンダーソン監督は2011年、ロアルド・ダールの児童文学「父さんバンザイ」を原作とした「ファンタスティックMr.FOX」で、ストップ・モーションアニメに挑戦しています。総勢670人のスタッフを従えて、なんと4年がかりで完成させました。これだけでも拍手喝采ですが、なんといっても中身が面白い。

舞台は近未来の日本のメガ崎市。ここではドッグ病が蔓延し、人間への感染を恐れた市長が、すべての犬を“犬ヶ島”に追放すると宣言します。怒りと悲しみと空腹の中、さまよっていた島の犬たちの前にある時、一人の少年が小型飛行機で島に降り立ちます。少年を守っていた犬スポッツを捜しに来たのです。この少年アタリと、個性的な5匹の犬たちの友情と冒険を描く物語です。廃棄された原発、ゴミだらけの島、そして極端な情報統制の政治状況など、今の日本の姿も巧みに捉えています。

これをCG技術で映画化していたら、これほど面白くなかったのではないかと思います。一コマ、一コマ動かしながら撮影された犬たちの毛並み、表情が、リアルを通り越した不思議な空気を作り上げています。黒澤映画へのオマージュ、宮崎アニメへの憧憬、浮世絵や歌舞伎などの日本のクラシックな文化への、愛情とリスペクトなどがいっぱい盛り込まれています。しかし、それが単なる引用や、オタク的ネタだけに陥らず、細部にまで徹底的に拘りぬいた作りによって、全く新しい映像世界が出来上がりました。

もし、ディズニーがこの物語を映画化すると、家族皆で泣ける愛犬と少年の感動作品という映画になってしまいそうです。しかし、アンダーソンの映画にはそんな部分は全くありません。感動なんてどこふく風。この映画は、今どき膨大な時間と資金を使って、アニメ初期の技法で面白い物語を作るという、途方もない夢を実現させた作り手たちの、映画への愛を傍受する作品だと思います。ベルリン映画祭で監督賞を受賞したのも、きっと「良くやった!」という欧州の映画人たちの気持ちなのです。是非、不思議な「犬ヶ島」の世界をお楽しみください。