ショーン・タンは、オーストラリア出身のイラストレーターであり、絵本作家であり、映像作家です。2008年、文章をいっさい入れずに描かれた「アライバル」で、アングレーム国際コミックフェス最優秀作品賞を受賞。その後、数々の作品を発表し、京都ではえき美術館で個展が開かれました。

個人的にも大好きな作家で、独特の画調と世界観に魅了されています。文庫本サイズの「エリック」(新刊1100円) 、「ショーン・タンのスケッチブック」(新刊1980円)、「ショーン・タンの世界」(新刊2750円)、「セミ」(新刊1980円)、最新刊「いぬ」(1980円)を在庫しています。

「いぬ」については、今年8月、「犬と人間の愛情あふれるつながり。生と死。モノローグのような数少ない言葉と、シンプルな構成の画面だけで深い感動を与えてくれる絵本です。」と紹介しました。

また、ニンゲンに奴隷のように扱われながら勤続17年、退職の日を迎え、高いビルの屋上から脱皮して大空に向かって飛び出すセミの一生を描いた「セミ」は、生きることの哀しさを象徴的に描いた絵本でした。(こちらも2021年4月、ブログで紹介しました)

そのショーン・タンのカレンダー「エリック」(1430円)が入荷しました。「エリック」は、短編集「遠い町から来た話」に収録された、一風変わった留学生との交流を描いたものですが、2012年に、手のひらサイズの絵本として発売されました。このカレンダーは、絵本から可愛らしいエリックの12枚綴りで、使い終わったら裏側の点線に沿って切り離し、ポストカードとして使えます。ショーン・タンのファンの皆様には見逃せませんね。

 

 

 

 

☆大阪にある動物保護団体アニマル・レフユージュ・関西(ARK)のカレンダー入荷しています。卓上サイズ卓上サイズ1000円、壁掛けサイズ1200円です。なお、売上は、団体の活動費に充てられます。

オーストラリア生まれの(1974年)画家、アニメショーン作家のショーン・タンについては、新作が出るたびに、あるいは展覧会の印象など書いてきました。

今回も素敵な絵本を紹介します。タイトルは「いぬ」(河出書房新社/新刊1980円)。

「この先地球にどんな運命が待ち受けていようと、それがどんなに途方もなく過酷で、この世の終わりのように思えても、僕らの隣にはきっと犬がいて、前に進もうと僕らをいざなってくれるにちがいない。そうでない未来なんて、僕には想像できない。」

と作家は、犬好きが聞いたら涙するようなあとがきを寄せています。

広い道路の向こうにいるひとりの人間と、こちらにいる一匹の犬。どちらも背を向けています。同じ構図の人と犬の絵が続きます。人はそれぞれ国も年齢も違い、手前に描かれた犬は大きさも色も違います。どこか物悲しい情景が何ページにも渡って描かれています。

しかし、終わりも近づいたページでこちらを振り向いた女性に、真っ黒な犬が振り向き視線を送ります。そして、ページをめくると横断歩道の真ん中で抱き合う女性と犬。岸本佐知子訳によるこんな文章が飛び込んできます。

「きみがわたしの手を引っぱり、膝の裏に鼻を押し当てる。そしてわたしに叫ぶ、昔と同じように叫ぶ、世界は僕らのものだ! そしてまたもとどおり、わたしたちは並んで歩いていく。」

その言葉通り、最後はリードをつけてもらった犬と女性が歩み去ってゆくところで物語は終わります。犬と人間の愛情あふれるつながり。生と死。モノローグのような数少ない言葉と、シンプルな構成の画面だけで深い感動を与えてくれる絵本です。

裏表紙には、いろんな人たちが、犬種の違う犬を散歩に連れ出している様がシルエットで描かれていて、「平和」という言葉が最も適した絵だと思います。

なお、この著者には、人間に酷使されるセミが、最後に脱皮して人間世界から解放されて、自由な世界へと旅立つ「セミ」(新刊1980円)という素晴らしく、切ない絵本があります。

 

 

 

ショーン・タンの絵本「セミ」(河出書房新社/新刊1980円)、「内なる町から来た話」(河出書房新社/新刊3190円)は、どちらも深い味わいがあります。古本では状態のいいのがなかなか出ないので、新刊で仕入れました。

2019年10月京都の駅美術館で開催された「ショーン・タン展」で初めて原画を見ました。その時のブログに「怪奇と幻想、そしてユーモアが巧みにブレンドされた作風は、シュールなサイレント映画のような世界へと誘ってくれます。」と第一印象を書き残しています。

「セミ」は、かなりシュールな絵本です。人間社会で働くセミは、17年間会社内で除け者にされ、パワハラされ、昇進もなく、会社の壁の隙間で暮らし、挙句に追い出されてしまいます。会社の屋上に佇むセミの後ろ姿が悲しい。

「しごと ない。家 ない。お金 ない。セミ 高い ビルの おくじょう 行く。そろそろ お別れの じかん トゥク トゥク トゥク」

しかし次のページでは、背中が割れて脱皮し、17年の沈黙を経て大空のかなたに向かって飛び出すのです。そこには、多くの仲間が飛びかっていました。人間の狭量を笑い、最後のページに残っているのは、セミの社員証だけ。そこに「閑かさや 岩にしみ入る 蝉の声」と書かれています。

「内なる町から来た話」の帯には、「25話のセンス・オブ・ワンダー」と書かれています。主人公は動物たちです。ビルの87階に住んでいるワニの話、高速道路に現れたサイの話、病院に白いフクロウがいる話、会議室で重役がカエルに変わってしまった話、クマが人間を訴えた話など、幻想的な世界が美しい絵とともに浮かび上がってきます。人間社会に動物が飛び込んできたのか、わたしたちが知らない間に境界線を超えたのか?

絵と文章を見開きで同居させていない構成で、短編小説を読みながら絵を眺めていくと想像もしなかった世界が広がっていきます。寡黙で繊細で美しく深い世界へと誘われてゆくような絵を見つつ、非現実的な物語に浸る。その快感に満ちた一冊です。

翻訳を担当した岸本佐知子は、ここに登場する動物たちを

「彼らはなぜここにいるんだろう?何を考えているんだろうか?もしや人間界への侵略?だが、やがて気づかされる。唐突に自然界に現れたのは人間のほうじゃないのか。後からやって来てこの星の景色を塗りかえ、王のように君臨している人間たちは、彼らの目にどう映っているんだろう。そう、彼ら物言わぬ動物たちは、まさに人間の姿を映す鏡なのだ。」と解釈しています。

そうなのです。動物たちを見ながら、実はわたしたち自身の心、感情を見つめているのです。とてもいい本です。