俳優イーサン・ホークが、監督した「シーモアさんと、大人のための人生相談」(京都シネマにて5日まで)は、良いドキュメンタリー映画です。

シーモアさんって?

シーモア・バーンスタイン、1927年生まれのピアニストです。ピアニストとして世界的名声を得た50代半ばで引退し、89歳の現在までNYのマンションで一人暮らしをしながら、ピアノ教師として多くの生徒に教えています。シーモアさんが「人生とは」などと、延々しゃべる野暮な映画ではありませんので、ご心配なく。

マンションのピアノに向かうシーモアさん、いいなぁ〜この部屋。豪華ではないのですが、きちんと片付けられた家財道具、間接照明で浮かび上がる壁に掛けられたアート。コンパクトで清潔そうな台所。優しく、深く人の心にはいってくるピアノの音は、こんな部屋での暮らしが醸し出しているんだ。静かな夜空、ゆっくりと波が満ち欠けする海辺が与えるような、リラクゼーションと同じものかもしれません。

監督のイーサン・ホークは、人生の折り返し点に立ち、役者として、クリエイーターとして、ハリウッドで生きることに行き詰まりを感じ、悶々としていたそうです。彼がシーモアさんに出会い、いかに生きるかを知り、シーモアさんの素晴らしさを多くの人に知ってほしいという思いで映画を制作しました。魑魅魍魎が跋扈するアメリカ映画界にいながら、真面目で誠実な彼の姿勢が伝わってきます。

真剣に一つのことを極めようとしている人の言葉と、シーモアさんが紡ぎ出すゆったりとしたピアノの一つ、一つの音を味わってもらいたいものです。音楽と共に生きる、こんなにも豊かな世界があるのだと。

「夜空の星座が普遍的秩序を目で確認できる証拠ならば、音楽は普遍的秩序を耳で確認できる証拠と言える。音楽を通じて、我々も星のように永遠の存在になれる。音楽は悩み多き世に調和しつつ、語りかける。孤独や不満をかき消しながら。音楽は心の奥にある普遍的真理、つまり感情や思考の底にある真理に気づかせてくれる手段なのだ。」

と文章にすると堅苦しいのですが、シーモアさんは、ゆっくりとした口調で微笑みながら語りかけてくれます。

圧巻はラスト、35年ぶりに開かれた小ホールでのコンサート。ピアノの向こうにはNYの街並みが見える所で、シューマンの「幻想曲」を弾くところでしょう。(6月に発売されるDVDには、そのフルバージョンが収録されているとか)心が解放される瞬間です。クラシックをあまり聴かない人も大丈夫。ひたすらシーモアさんの滋味豊かなピアノの世界を楽しんで下さい。

エンディングの彼の台詞が素晴らしい!!漫画家のさそうあきらが「あんな言葉を残して僕は死にたい」には100%同感です。GW、映画を見に行く予定のある方にはラインナップに入れて欲しい一本です。

 

★勝手ながら、5/8(月)、9(火)連休いたします。