「2001年宇宙の旅」等の映画監督、スタンリー・キューブリックの名前を付けた「ブックスキューブリック」という本屋さんが、福岡にあります。2001年オープンということで、キューブリックの名前を拝借されたそうです。この店を立ち上げて15年になる大井実さんの「ローカルブックストアである 福岡ブックスキューブリック」(晶文社1728円)が入荷しました。

本屋を開業したいと思っている人は、(つい最近まで)古本屋というのがセオリーでした。でも、大井さんは「『地域に根ざす町の書店』という理想のイメージがあり、雑誌がしっかり揃っている店をやりたかったので、取次との契約は避けて通れないとの結論に達した。」

これが、難題なんですね。特殊な流通組織で本が流れるこの業界で「取次」と呼ばれる問屋との契約は個人レベルでは極めて高いハードルです。そこを突破して、開業へと向かう姿勢には頭が下がります。

同志社大学卒業後、一旦は就職されますが、本屋をやるという気持ちに向き合って、あるべき本屋の姿を目ざして走り出します。店を始めることを、こう言っています。

「常々、商売というものは、町に名刺を出して生きているようなものだと感じている。もしくは、町に店の旗を立てると言っていいかもしれない。」

そして、「地道に仕事をしていれば世間に認めてもらえるという意味では、精神衛生上とてもいいのだ。お店を通じて社会と繋がっているという安心感は何ものにも代えがたい。」

と書かれていますが、それは私も感じます。店で、ギャラリーの作家さん、ミニプレスの作り手、そして本好きの方々などと接している安心感は、確かに、会社勤めでは絶対にあり得ません。

「ブックスキューブリック」は、独自の店作りから始まって、トークイベント、ブックフェス等の企画を通して、町づくりに関わっていきます。だから、この本は、本屋開業ノウハウブックではなく、自分の生き方と思いをお店に託して、町と共に生きていく方法の一端を教えてくれる本です。

大井さんも開業時には、大型書店ばっかりの新刊書店業界で、町の小さな本屋では太刀打ちできないという「一般論」で反対されたと思います。でも、自分の頭でしっかりと考え、どうすればいいかと試行錯誤していった結果が、今日の「ブックスキューブリック」を作っていったのでしょうね。

都筑響一著「だれも買わない本はだれかが買わなきゃならないんだ」の、こんな一節を書き記されています。

「大人になったら、周囲の大人の話にいかに耳をふさぐかの訓練が必要になってくる」

最近、ユニークな新刊書店が登場してきましたが、その火付け役ともなった「ブックスキューブリックは、九州に行かれたら寄っていただきたいお店です。

 

 

 

今日は、映画監督スタンリー・キューブリックの命日です。69年「2001年宇宙への旅」を発表、この映画に登場した人口知能搭載のコンピュータHALは、センセーショナルな話題でした。論理的に矛盾した命令を受けたHALが、その矛盾に耐え生きれず錯綜するなどという前代未聞の設定は、今見ても驚異的です。その続編「2010」でも、精神的疾患?からHALを立ち直らせる医者が登場し、HALと細やかな愛情を交換するという人間とコンピュータの新しい関係が描かれています。                                              

それから40数年。スパイク・ジョーンズ監督の「her/世界でひとつの彼女」では、さらに進歩した人工知能搭載型OSが登場します。現実生活に何の喜びも見出せない主人公は、「サマンサ」という名前のOSにのめり込んでいきます。もう、それは現実の恋人並みです。やがて、自己進化する 「サマンサ」は、肉体のない自分の身代わりのセクシーな女性を派遣し、彼とのセックスを試みます。

この映画の抜きん出ている点は、単純に、ネット社会を批判して、したり顔で人間性の回復などと叫ばないところです。主人公は、「サマンサ」の眼となり、耳となり幸せな日々を送ります。楽しきかな、人生です。

で、映画後半になると、この映画どんなエンディングになるんだろう??と不安になってきます。 「OSが見つかりません」というメッセージが画面に登場して、恋人を捜し右往左往する主人公の不安を描く辺りから、とんでもないエンディングへと向かいます。さすが、「マルコビッチの穴」という役者の脳みそに侵入するというとんでもない作品を製作した監督です。

「2001年」の原作者アーサー・C・クラーク自伝の「楽園の日々」(早川書房800円)を読んでいると13歳の時に、偶然手にしたSF雑誌が彼の人生を変えていくことが書かれています。学校の暗い地下室で、安物の雑誌に夢中になりながら、空想力を膨らましていた彼を想像すると、微笑ましく感じます。そのクラークの短篇を膨らませて壮大な物語に作り上げ、来るべきコンピュータ社会を描いたキューブリックを受けて、さらなる妄想と発想で、次世代コンピュータ社会の断面を切り取ったスパイク・ジョーンズの手腕を高く評価します。