この夏いちばん心ウキウキさせてくれた映画です!

「ロミオとジュリエット」「グレートギャッツビー」などの文芸作品を新感覚で映画化する一方で、「ムーラン・ルージュ」で音楽的センスの良さも披露したバズ・ラーマン監督だけに期待はしていましたが、もう期待以上でした。

アメリカポップス界の帝王とも言えるエルヴィス・プレスリーの生涯を描いた作品です。プレスリー かぁ〜オールドロックンロールの人だなぁ〜ぐらいの感覚しか私は持ち合わせていませんでした。大体、有名人の生涯を描いた映画って、子供時代から大人になって成功してゆくまでを順々に描いていきますし、それって退屈。でもでも、ご心配なく!監督はそんな野暮なことはしていません。

白人の貧しい家に生まれたエルヴィスは、黒人教会で行われていたミサに潜り込みます。そこでは、皆が大声で黒人霊歌を歌って、一種のトランス状態になっていました。その瞬間、彼は黒人音楽に脳天を打ち抜かれます。なんて、格好いい音楽なんだ!

そこから映画は一気に、場末のライブに出ている青年のエルヴィスに飛びます。そして、足腰を激しく振る独特のスタイルで歌い出します。その力強い美声とセクシーな姿に女の子たちが、熱狂するのも納得の主役オースティン・バトラーの演技です。そしてそこで、エルヴィスにとって最強で最悪の人物と出会います。生涯のマネージャーとなるトム・パーカーです。エルヴィスを世界的エンタテイナーに育て上げる一方で、酷使し、大金を巻き上げていたことがエルヴィスの死後明るみに出ました。演じるのはトム・ハンクス。そこまでやるか!という醜悪な悪役ぶりです。

エルヴィスは、ぐんぐんと人気が出る一方で、そのパフォーマンスが退廃的で黒人的だと指摘され、白人の保守層から糾弾され、妨害されます。エルヴィスの音楽の原点が黒人音楽にあったのだということを映画は見せてくれます。

オースティン・バトラーは、本物以上かもしれないと思うほどセクシーでクールなスタイルで歌い、踊ります。もう、彼を見ているだけで、心ウキウキですよ!この映画は、ぜひ劇場で見てほしいです。大画面で、いい音響装置を持っている劇場で見ないと損!!2時間半ほどの映画なのですが、監督のスピーディーな巧みな演出で疾走して、長さを感じることなく終わります。エルヴィスの人生と、彼が生きた時代のアメリカ社会の実態を描き、思っていたよりずっと厚みのある作品でした。

「時代が危険になってきたら、音楽に託せ」 搾取と差別の時代を生きたブルースシンガーが口にする言葉ですが、心に刻みたいです。

1971年、ベトナム戦争が泥沼化し、アメリカ国内には反戦の気運が高まっていました。国防総省はベトナム戦争についての調査を行い、その結果を膨大な量の機密文書を作成していました。その一部が、ニューヨーク・タイムズに掲載され、国民の注目するところとなりました。一方、ライバル紙のワシントン・ポストはその文書を入手することができずにいました。

スピルバーグ監督作品「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」は、遅れをとったポスト紙が文書を入手し、ニクソン政権の発行妨害に屈することなく、戦争の真実を世の中に公開するまでを描いています。

気鋭の編集主幹ベン・ブラッドリー(トム・ハンクス)の活躍を描く一方、ワシントン・ポスト社長で史上初の女性発行人キャサリン・グラハム(演じるはメリル・ストリープ)の、報道するか否かギリギリの判断に重点を置いています。

当時、ポスト紙は経営に行き詰まっていて、運営資金獲得のため自社株の株式市場への公開を目指していました。しかし、政権に楯突く様な記事を掲載すれば、裁判沙汰になる危険もあり、そんな企業に投資家が資金を出すことには消極的な状況になりかねません。

何としてもこの文書の掲載を進めたいという編集主幹のベンとは裏腹に、経営者として会社を危険に晒すことを恐れるキャサリンの2人は、真っ向からぶつかることになります。まくしたてるベンと、落ち着いてさばいてゆくキャサリンの演技合戦は、名優二人の見せ場。

映画の最初で、キャサリンが銀行家たちとのミーティングに向かうシーンがあります。居並ぶ銀行の男たち。まだまだ、女性がビジネスの最前線にいることが珍しかった時代。彼らはどんな目でこの女性を見ていたのでしょうか。紳士づらした顔の下には冷淡さと、差別意識があったはずです。

ベンの妻が、キャサリンは想像もできないぐらい辛い立場にいて、謂れのない差別や侮蔑の嵐の中にいることを見抜いています。そして、夫に「この決断を下すのは彼女の財産や人生そのものの新聞社を賭けることになる。とても勇気ある決断だ。でもあなたには失うものは何もないはず」と指摘します。映画は一新聞社の報道にかける執念を描きながら、実はキャサリンという女性の勇気と決断を浮かび上がせていきます。

後で知ったのですが、この映画には製作者、脚本家その他スタッフに大勢の女性が関わっています。だからこその視点で描かれたのですね。

★ご予約開始

今月下旬、吉田篤弘の新刊「神様のいる街」が夏葉社より発売されます。「神様のいる街」とは神保町と神戸。筆者が通った本屋さんや、カフェが登場します。ご予約先着5名様に限り、サイン入を予定しています 。また、本作には幻の処女作「ホテルトロールメモ」(30p)も収録されています。