年に何度か、冒険小説、或はサスペンス小説を一気に読むことがあります。この正月にも一冊読破しました。中山可穂「ゼロ・アワー」(朝日新聞出版/古書700円)です。

中山は女性同士の恋愛をテーマにした作品を多く書いています。個人的に印象的だったのは、能の演目を小説にした作品集「悲歌」の中にある一編「蝉丸」です。以前ブログにも書きましたが、幸せな家庭を持っている男が、かつて溺愛した青年のことが忘れられず、「彼は僕のすべてだ」と言い放ち、妻を置き去りにして、アンコールワットの遺跡をさまよう話です。

その作家が、初のサスペンス小説を書いたことを、年末の新聞の読書欄で知りました。殺し屋に一家全員惨殺された少女が、その殺し屋への復讐を誓い、裏社会へ入り、コードネーム<ロミオ>と呼ばれる殺人者になり、伝説の殺し屋<ハムレット>をターゲットにするまでを描くノワールものです。東京とブエノスアイレスを舞台に、アルゼンチンの軍事政権時代の闇に歴史を絡ませながらターゲットに接近してゆく様を、ノンストップで描いていきます。ややケレン味が濃すぎる部分がありますが、ヒロインの疾走感に、エキサイトしました。狂ったように突っ走るヒロイン<ロミオ>には、破滅的な恋愛にすべてを投げ打つ、中山の小説に登場する女性たちとダブってみえてきます。

短篇集「氷平線」(文春文庫300円)を読み終えて、ノワール小説を書いてほしいなと思ったのは、桜木紫乃です。

釧路在住で、北海道を舞台にした作品を発表。ラブホテルを舞台にした直木賞受賞の「ホテルローヤル」で、いわゆる”性愛文学”の一人になっていますが、北の大地で、空虚な人生を彷徨いながらも、明日につなげようとする男女の哀感を描き出していました。

突然、牧場に嫁として連れて来られたフィリピン娘と、昔の女が忘れられない牧場の跡継ぎ息子の葛藤を描く「雪虫」や、無意味な夫婦関係にピリオドをうち、娘と共に閉鎖的空間を脱出する女性を描いた「夏の稜線」など、牧場を舞台にした作品が並びます。

「凍り付いたコンクリートの階段を、道路沿いの街灯と月明かりを頼りに下りる。根雪がほんのりと、人幅に踏み固められた道を照らしていた。その家はオホーツク海に面した幅一キロほどある入江に建っていた。黒や灰色のトタンを継ぎ接ぎしながら、ようやく雨風をしのいでいる。」

なんていう情景描写の文章は、そのまま犯罪小説にも使えそうです。ノワールもの書いてくれないかなぁ〜と思っていたら「ブルース」という”釧路ノワール”ものを出していました。これも読もう!