雑誌「ブルータス」が松本隆の特集を組んでいます。

日本のロック、フォークは言うに及ばず、歌謡曲、アイドルまで数多くの名曲の作詞をしてきた彼の言葉がいかに美しいかをひも解いた企画でした。(300円)

松本の母親は、とにかくめそめそするのが嫌いな人で、その影響を受けた彼の詩には、その手合いの女性が先ず出てきません。太田裕美の「木綿のハンカチーフ」なんて、都会に出て行った彼が、あっちでふわふわしていると感ずるや否や、あんたに送ってもらうハンカチで一泣きしたら、ハイ終り、というヒロインです。

或いは、斉藤由貴の「卒業」では、卒業式で好きな人と別れるから泣くなんて、できません、もっと哀しい時に泣きますと宣言します。猫まんがの「きょうの猫村さん」の作者ほし・ゆりことの対談で彼はこの曲のことをこう言っています。

「女の子は人前で泣いたらダメだと思っているんです。女の子はひとりで泣くんだ」と。

中学時代から読書好きだった松本は、特に中原中也と宮沢賢治に傾倒していきます。この特集の中でも「今でも別格」と言い切っています。しかし、詩人にはならず、作詞の方に舵を切ったのは、音楽が好きだったからなのでしょう。ハッピー・エンド時代の名曲「風をあつめて」に出てくる「風をあつめて、風をあつめて、青空を翔びたいんです」なんて詩は、賢治の童話で出てきそうです。また「夏なんです」の「ホーシーツクツクの蝉の声です ホーシーツクツクの夏なんです」もやはり賢治の詩の世界です。

私が一番好きなのは、盟友、鈴木茂の「バンドワゴン」(1500円)に収録されている「微熱少年」のこんな言葉です

「俄か雨降る午後に 体温計を挟み、天井の木目 ゆらゆらと揺れて溶け出した 窓のガラスを叩く 野球帽の少年の ビー玉を石で砕いて空に撒き散らす」

まるで萩尾望都のコミックに出てくる少年みたいな描写です。

ユーミンが、松本と組んだ最高傑作は薬師丸ひろ子の「Woman」と断言して、語っています

「『眠り顔を見ていたいの』というフレーズ。『寝顔』じゃなくて『眠り顔』。そこに死の匂いを感じます。『時の河を渡る舟』も、冥界を漂うあの世とこの世の渡し舟のようだし」

深い意味を込めた彼の作品を、どなたか体系的に研究していただきたいものです。

★松本隆~はっぴーえんど関連のCD各種入荷しました

大瀧詠一「Best ways」2CD 2800円

はっぴーえんど「City-ベストアルバム」1400円

はっぴーえんど「風街ロマン」1800円

鈴木茂「バンドワゴン」1400円

大瀧詠一「ナイアガラムーン」1800円

 

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「64年のオリンピックで、この街の良い部分はなくなっちゃった。だから、今、オリンピックを東京で開催するのは大反対。開催すれば停滞感を払拭できると思っている人は、考え方が古いよ。そんなことよりも、街の下水にもっと気を遣うとかしたほうがいい。」

これ、細野晴臣の「HOSONO百景」(河出書房1200円)で「都会」について語った一文です。年末にBSで放映された音楽番組でも、彼は反対の発言をしていました。まったくもって、ごもっともです。この時代になんで東京でオリンピックやるの?

この細野さんの本は、彼の音楽人生を語ったものですが、音楽だけでなく世界をどう見ているのかまで書かれています。彼は東京ミッドタウンのBGM選曲の仕事をしていますが、今の東京のBGMが不愉快極まりないのを知った上で、こう発言しています。

「ほとんどの場所はなにもかもが垂れ流しなんだ。今の東京はそんな音と、鼻を突くにおいが混ざった都会で、五感を不快にさせることばかり。そんな気持ちをちょっとした音楽で快感に変えられないかなと思って、曲を選んだんだ。」これ、東京だけじゃなく、日本中どこも似た状況です。

成る程ね、「ハッピーエンド」時代から、細野さんの音楽って心和ませてくれたけれど、こういう考え方を首尾一貫してきたヒトだったのですね。

音楽家としての彼を育てたあらゆる国のサウンド、影響を与えた映画の数々、タイタニック号に乗っていた祖父のこと、そして横尾忠則との嘔吐&下痢のインドツァーの話とかどこから読んでもおもしろいですが、美女について語っている件は、この人らしいです。

「もっと自然に女の人の顔が心の表れるになるような時代が来ればいいなって。僕みたいなおじいさんになると、化粧をしていない素顔の美しさが心地良いんです(笑)」

ハッピーエンド時代に、細野が作詞作曲した「風来坊」という曲があります。「ふらり ふり ふり風来坊 風来坊 朝から 晩まで 風来坊 風来坊 風来坊」という感じが延々続く曲ですが、細野さんは風来坊みたいに、ふらりといろんな場所へ飛んでいって、居心地のいい音を見つけては、ホッ、ホッ、ホッと和んでいたんでしょうね。(この曲の入った「はっピーエンド city-ベスト」1450円も在庫しています)

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「鎮守の森はふかみどり/舞い降りてきた静けさが/古い茶店の店先に/誰かさんとぶらさがる/ホーシーツクツクの蝉の声です/ホーシーツクツクの夏なんです」

このなんともののどかな夏の描写は、ご存知「ハッピーエンド」の71年発表のアルバム「風街ろまん」(1800円)に収録の「夏なんです」の一部です。昨今の過酷な暑さの夏のイメージからは程遠いものがあります。作詞は松本隆。イメージがどんどん膨らんで行く歌詞を多数見ることができます。

物語性の希薄な作品ばかりかと思うと、太田裕美が歌った「木綿のハンカチーフ」は、まさに短編小説でした。四分以上の歌の最後の最後に曲のタイトルが出てくるという不思議な構成です。この曲が収録されている75年発表の「心が風邪を引いた日」(1400円)は全曲、松本隆の作詞で、みずみずしい彼女の歌声にマッチしていました。昨今の言葉でいえば「乙女」なアルバムです。

そして、この年、もっと輝き、街へホップ、ステップ、ジャンプと飛び出したくなる程の高揚感のあるアルバムが出ます。それが山下達郎を筆頭にしたバンド「シュガーベイブ」の「SONGS」(1600円)です。今でも、このアルバムは私の生涯のベスト10の一枚ですが、切なく、甘い香りに酔った方は、大勢いた筈です。

さらに、この時代を象徴するような都会的で、センスのいいアルバムを出していたのがハイ・ファイ・セットでした。ユーミンのカバーをメインに収録した「Hi-Fi Blend」(2600円・廃盤)はその頂点でしょう。このアルバム収録の「土曜の夜は羽田に来るの」とか「卒業写真」を車の中で愛聴していた青春時代が、ふと甦りませんか?名曲「冷たい雨」は本家ユーミンよりこちらが絶品です。

「涙こぼれるように/時もこぼれてゆくわ/指と指のすきまを/そしていつか忘れたい」というラストフレーズのハモリには泣かされます

と、店にはあの頃を思いだすようなCDが多数入荷してきました。今程殺伐とした事件も起こらず、ネット社会はまだ先のことで、未来は明るく、「西武セゾン文化」が描く様なオシャレな都市生活者に誰でもなれる、そんな淡い期待を抱かせる音楽だったかもしれません。

ノスタルジーという言葉の爽やかな響きを堪能させてくれます。だからといって、今の音楽がつまらくて、あの時代が良かったなんて気持ちは全くありません。今も良いし、昔も良かったねと自由でいることが肝要かと思います。