史上最悪の政治家だったヒットラーですが、唯一、「素敵な」遺産がありました。それは、彼のプロパガンダのために開催されたベルリンオリンピック(1936年)です。オリンピック自体というより、これを撮影した二本の記録映画「美の祭典」「民族の祭典」ですが。

競技のドキュメントに新たに撮影されたフィルム、練習時に撮影したもの等を挿入して、アスリートに限り無く近づく撮影方法は、今日のスポーツドキュメントに大きな影響を与えました。今なら「やらせだ!」と言われそうですが、ぎりぎりの撮影機材、フィルム、予算でこれだけの高度な映像をつくり上げた手腕は大いに評価されるべきです。

監督したのはレニ・リーフェンシュタールです。彼女はナチスに入隊していないと主張しましたが、ヒットラーのプロパガンダに加担したとして糾弾され続けました。その辺りのことは、「レニ・リーフェンシュタール芸術と政治のはざまに」(リブロ900円)に詳しく書かれています。裏表紙にはヒットラーと並んでいる写真が載っていますが、関係があったと言われても仕方ないかもしれません。

そのヒットラーの生涯を水木しげるが描いた「劇画ヒットラー」(ちくま文庫300円)を入荷しました。幼少時代から、自決するまでを水木史観で描いた伝記漫画です。本の中の第15章の扉絵が象徴的です。馬上のジャンヌ・ダルクをそのまま流用してフランス国旗の代わりに、ナチスの旗を持ったヒットラーが描かれています。ヨーロッパの救世主という錯覚に酔いしれ、狂気に走る小心男という感じです。水木しげるは、やはり漫画でラバウル戦記を描いていて、暗澹たる戦争の中で絶望のまま死んで行く人間を描いた傑作です。

「劇画ヒットラー」の最後、

「ドイツ中に果てしない廃墟がつづいていた…….」

いつの世でも、戦争とはこういうものなのです。

Tagged with: