ますむらひろしが、宮沢賢治の童話を漫画にした作品群は、当店の人気シリーズです。

ますむらが、自分の漫画作品として賢治を描こうとした思いと、「銀河鉄道の夜」の謎に迫るチャレンジを綴った「イーハトーブ乱入記」(ちくま新書/古書1000円)が久々に入ってきました。

第一章「賢治がくれた水いろの切符」では、小学校の教科書で賢治と出会ってから、やがてその不思議な世界にはまり込み、そして、まんが家として東京で悪戦苦闘する日々が描かれます。

ビートルズに狂っていた中学時代に、彼は賢治の亡き妹への思いを綴った「永訣の朝」に出会います。詩や小説に全く興味のなかった少年が、不思議な世界に魅入られます。デザイナーに憧れて上京するも悶々とした日が続いた、そんなある日、水俣病の実験調査のため、汚染した魚を食べて、もがき苦しむ猫の画像に遭遇します。死んでゆく猫たちに破壊される自然の姿を見出した彼の、当時の気持ちがこう書かれています。

「鉛に包まれたようなイライラの日々が続き、もはや一枚のイラストでは描ききれない気持ちの中、色褪せてゆく商業デザインへの想いにかわって湧いてくるものがあった。『ああ。マンガが描きたい』」

そして雑誌「ガロ」に「ヨネザアド物語」を発表します。この物語の主人公が、不敵な笑いを終始絶やさない太っちょ猫、ヒデヨシです。大酒は飲む、借金は踏み倒す、平気で人を裏切る、とんでもない不良猫ヒデヨシに、なぜか多くの読者が惹きつけられて行きました。ヒデヨシのハチャメチャな日常を描いた「アタゴオル物語」は、今も人気があります。

数年後、賢治の童話をマンガで、という依頼が舞い込みます。しかし、「金剛石や草の露やあらゆる立派さをあつめたような、きらびやかな銀河の河床」なんて賢治の文章を絵に表せるのか? 「楽しいも苦しい」という時間が始まります。しかも、編集者から「登場人物はすべて猫で」という注文が付く中、「水俣病実験の猫から始まる猫という自然と人との対立。そしてアタゴオルでの猫と人との共存。そうした道へ導き、そして何よりも僕に、『猫=人』と気づかせたのは宮沢賢治その人なのだ。」

数年後、猫が主人公の漫画が登場。やがて「銀河鉄道の夜」は、そのまま猫のジョバンニとカンパネルラで映像化されます。猫が主人公であることに、方々から反対の声も上がりましたが、見事賢治の思想を映像化して、高い評価を得ました。

第二章「謎だらけの銀河鉄道」は、「銀河鉄道の夜」を巡る謎に迫っています。この章を読む前には、「銀河鉄道の夜」並びにその初期形版の同作品をお読み下さい。でないと、さっぱり理解できません。その後、ますむらの解説を読むと、この作品の重層的に張り巡らされた謎の本質が分かってきます。

ところで、この新書はすで絶版です。どれぐらいで売買されているのかネットで調べてみたら、なんと当店価格の3倍以上の高値!!なんなんだ、この価格は!確かに中身は高濃度ですが、高価すぎるというのも……。

 

★お知らせ   勝手ながら、6月4日(月)5日(火)連休いたします。

ギャラリー案内  梅田香織「日傘とブックカバーの展覧会」が6日(水)から始まります。