木村元の「音楽が本になるとき」(木立ちの文庫/新刊2420円)は、音楽の本というジャンルを逸脱しながら、音楽の本質について考察した稀有な書物です。

「丸竹夷ニ押御池 姉三六角蛸錦(まるたけえびすにおしおいけ あねさんろっかくたこにしき)」という、京都の人なら口ずさむ通り名を歌った歌で始まるように、著者は京都生まれ。上智大学卒業後、音楽之友社に入社、一貫して編集者として活動し、2007年アルテスパブリッシングという音楽関係の書籍専門出版社を立ち上げました。(もちろん同社の本は当店で扱っています)

本書は、地元京都市下京区にある「木立ちの文庫」よりリリースされました。

「感動というのは、ある種の甘美な自己肯定感と、安易にそれに浸ることを許すまじとする自己規制の感覚とのせめぎあいだということである」

著者は、このことは音楽だけでなく、読書にも当てはまると言います。映画も演劇もそうだろうと、個人的に思います。第1章「泣くのは恥ずかしい」は、感動という現象について掘り下げています。

また、著者の専門分野であるクラシック音楽についての情報や、オタク的知識の羅列といった音楽本にありがちな展開はほとんどありません。音楽という表現形態を深く追求します。理論的、哲学的考証で、私たちに著者が投げかけてくる言葉について、考えることえを求めてきます。だから、決して読みやすい本ではありません。しかし、理路整然とした文章を解きほぐしてゆく面白さを体験させてくれます。

「音楽をするということは、楽譜に書かれた普遍的な芸術を再現することであると同時に、楽譜に書かれていないことを読みとってくれるたったひとりの聴き手に、みずからの思いを届けれることでもあるのだから。」

この文章を読んだとき、新刊書店員として新米の頃にある先輩に言われたことを思い出しました。「本屋は本を売る場所ではない。本と本の間にあるものを売るんやで」と。さらに、「数多くの人に向かって売るんやない、ひとりに向かって売るんや」とも言われました。そう言われてもなんだか訳がわかりませんでした。ちょっと似ているなぁと思いました。今になれば、本を仕入れる時、あるいはブログを書いている時など、あの人に向けて、この人を思い浮かべて、というのが確実にあります。

取り扱い中のアルテスパブリッシング社の出版物は「文科系のためのヒップホップ入門」1&2、「すごいジャズには理由がある」、「現代ジャズのレッスン」、「 YMOの 音楽」、「ミシェル・ルグラン自伝」、「魂のゆくえ」、「ポップ・ミュージックを語る10の視点」

どれも魅力的ですが、個人的オススメはピーター・バラカンの「魂のゆくえ」ですね。