この写真は、ジャズアルバム”WE INSIST!”のジャケです。カフェのカウンターに座ってこちらを振り返る黒人三人。ちょっと迷惑そうな顔の白人のウェイターを後方に配しています。レコーディングされたのは1960年8月末。同年の2月に、北カロライナ州グリーンズボロで起こった黒人学生の座り込み運動など、黒人差別への抵抗運動の盛り上がりを受けて、アルバムのリーダー、マックス・ローチ(ドラムス)は公民権運動に関わっていた詩人/歌手のオスカー・ブラウンJrの詩を取り上げて、白人による人種差別に抵抗したこのレコードを録音しました。

推測ですが、ジャケットに写っているカフェは、白人専用の店舗で、そこに黒人がどかっと座ったものだから、ウェイターが至極迷惑そうな顔をしているのではないか。中身も過激で、寝る前に聴くジャズには適しませんが、私の大好きな一枚です。今、店にあるのはアナログ盤(1000円)で、ライナーノートは植草甚一が書いています。

黒人音楽家たちが受けた差別や偏見については、5月にブログで紹介した「歌と映像で読み解くブラック・ライブズ・マター」(1400円)をお読みください。また、本書でも大きく取り上げられているビリー・ホリディについては、油井正一&大橋巨泉訳による「奇妙な果実」(晶文社/古書1300円)もあります。今月末から、ビリー・ホリディのドキュメンタリー映画「ビリー」も上映されるようです。

もう一冊、ブラックミュージックの本を取り上げます。ピーター・バラカン著「新版 魂(ソウル)のゆくえ」(ARTES/新刊1980円)。ここでは、ソウルミュージックの今日までの歩みを、448曲のプレイリストを加えて紹介しています。

 

「これは専門家のための本でもなく、ソウルの教科書でもありません。ソウルミュージックとともに何かがなくなった、と僕自身はこの頃ずっと感じていて、その何かは一体どんなものか、その正体をちょっと考えてみたい、そう思ってこの本を書きました。」

最初に出たのは30年前。それが新版として蘇りました。バラカンの本は、どれもおススメです。

 

ピーター・バラカンの名前を知っている人は、きっと音楽大好きの人だと思います。1951年ロンドン生まれ、74年に来日。その後、ラジオのパーソナリティとして、各種の番組に出演して、ロック、ポップスを中心にして世界の音楽を紹介してきました。

世界の音楽に対する知識とその素晴らしさを伝える文章力、そして、自分の立ち位置をしっかりと踏まえた上での政治的発言などで、最も信頼している音楽評論家です。「Taking Stock ぼくがどうしても手放せない21世紀の愛聴盤」(駒草出版/古書1300円)は、よくあるベストヒット音楽チャートからは見えてこない素晴らしい音楽を紹介した一冊です。

私にとってバラカンさんは、アフリカ音楽への興味の扉を開けてくれた人です。彼がいなければ、アフリカ、中近東、南米など、いわゆるワールドミュージックなど聞いてこなかったかもしれません。

本書でも、数多くのアフリカ圏の作品が取り上げられています。あっ!これ、彼の愛聴盤だったのかと、嬉しくなってきたのがマリ共和国のサリフ・ケイタの”Moffou”(1500円)です。サリフは、アルビーノ(先天性色素欠乏症)なので、肌はピンク色、髪は金髪です。その病気に対してマリの社会は理解がなくで、迫害を受けてきました。

13世紀に遡るマリ帝国創始者の末裔に当たるサリフは、家庭でも迫害され、音楽活動禁止を宣告されます。その反対を押し切って、世界に飛び出していきます。そんな彼の生い立ちや、そこから生まれてくる音楽を紹介してくれます。本アルバムのオープニングを飾る“Yamore”の素晴らしさをバラカンさんはこう説明しています。

「やさしいラテン風のパーカッションとアコーディオンの演奏に、これこそアフリカの音楽の大きな魅力と言える女性バック・ヴォーカルの反復フレーズに重なるように、サリフの伸びやかな歌がさりげなく滑りだします。」

私たちが持つアフリカの大地のイメージ、そのままの風景が広がってきます。心晴れわたる音楽ってこういうことだと思います。初めて聞いた時、あまりの素晴らしさに呆然としました。「この1曲だけのためにでも欲しくなる名盤」と書いていますが、その通りです。3曲目”Madan”は、体が思わず動きだし、どんな踊り方だっていい、足を踏み鳴らし、手を振り回す。そんな気になる一曲です。この曲を聴きながら、京都市動物園のゴリラと一緒に踊っている自分を夢想しましたね。

バラカンさんの本を読んだら、このCDも、あのCDも欲しい!と思います。音楽ファンには危険な本かも………。