淀川キリスト教病院ホスピス・こどもホスピス病院には、患者さんの「リクエスト食」があるという。その噂を聞いた、「人生最後のご馳走」(幻冬舎/古書800円)の著者青山ゆみこは、病院の取材を始めます。

患者さんたちは、それまで別の病院で抗がん治療や、食事制限、投薬の副作用で食欲が減退し、食べたくても食べられない状態の方が多くいます。しかし、ここでは再び食べられるようになった方が何人もいるのです。

「ホスピスの入院患者にはその日そのときが文字通り最後の食事になるかもしれない。どんな気持ちで何を選ぶのだろう。当初はまるで想像もつかなかった。」

取材を開始した著者は、そのメニューを選んだ理由をから聞いていきます。すると、そこには患者さんが生きてきた日常の風景の断片や、誰とどんな気持ちで食卓を囲んだかといった記憶が広がっていきます。

取材した十数名の末期がん患者のリクエスト料理の写真だけをみると、家庭雑誌や、グルメ雑誌の料理紹介みたいに、どの料理も美味しそうに輝いています。

女子専門学校を卒業して、商社勤務の男性と結婚し、子どもを育て独立させ、定年を迎えた夫との旅行が楽しみな、フツーの主婦の福井朝子さんは、84歳で膵臓がんです。彼女が食べたのはお好み焼き。これが、また格別美味しそうなんです。

彼女が小さい時、水で溶いたメリケン粉に、味付けしたコンニャクの具を載せて焼いた”ちょぼ焼き”を、思い出しながらお好み焼きを食べたと、話がはずみます。自分が生きてきた道の一コマを、一枚のお好み焼きから振り返り、「がん患者」というレッテルの存在から、一人の人間へと戻ってきた瞬間です。

「人は食べないと生きていけない」と著者は言います。けれど、

「食べることは栄養摂取の作業ではない。また、たとえどんなに質素なおかずであってもそこに思いの込められた食事は、その人にとって大切な時間で、それは『御馳走』なのだ。14人の末期がん患者の話に耳を傾けるうちに、私はそう感じるようになった。」

自分が死を間近にした者と想像してみて(決して遠いことではない)、食べたい物を作って頂けるとしたら、とても大切にしてもらったような気持ちになるにちがいないと思います。それは、自分の存在を肯定してもらっていることと同じだし、そう思えれば、死に際して少し安心できると思うのです。食べるということを通して、人生を考えさせてくれる貴重な一冊です。