かつてナチスに加担した若者だった人々にインタビューした映画「ファイナルアカウント 第三帝国最後の証言」(京都シネマにて上映中)を見て、背筋がゾッとしました。それは、自分がいつでもその立場になり得るということを突きつけられたからです。

ヒトラー率いるドイツ第三帝国で行われたホロコースト。その現場を目撃した武装親衛隊のエリート士官、強制収用所の警備兵、ドイツ国防軍兵士、軍事施設職員、虐殺が実行された場所の近くに住んでいた人など、様々な人々が登場します。ホロコーストの被害者側のインタビューを中心に据えた記録映画はありますが、ドイツ人、あるいはオーストリア人など加害者側の証言だけで構成された作品は極めて珍しいと思います。

監督のルーク・ホランドは、祖父母がホロコーストの犠牲者であることを少年時代に知りました。そして、加害者に立つ人々が、どう戦後を生き延び、今どう思っているのかを、10年以上かけて丁寧にインタビューしてきました。

ヒトラーの時代への弁明、後悔、逡巡、などが彼らの口から語られます。インタビュアーでもある監督は、被害者側から加害者を追い詰めてゆくという方法ではなく、じっくりと彼らに接して、自然な発言を引き出してゆく手法がなかなかでした。

「人が焼ける匂いがしていた」「虐殺のことを口に出したりすると自分も殺される」そんな恐怖の中を生きて、何も言えなかった自分を責める人がいる一方で、今もヒトラーを支持している人もいました。エリート軍人として鍛えられて、カッコいい軍服を着て、戦争を生き抜いた人にとっては、ヒトラーの全てを否定することはそのまま自分の全人生を否定することになるのです。虐殺は認められないが、彼のやろうとした政治は間違いではない、と言わざるを得ないのも理解できます。

若き日の軍服姿の写真を誇らし気に見せる人、授けられた勲章を机の奥に大切に保管している人、エリート部隊は虐殺に関与していないときっぱり言い切る人。彼らの口調が激昂するでもなく、あまりにも自然な雰囲気なので、え?この人たち加害者の側にいたんだよね?ということを忘れてしまいそうになります。

上に立つリーダーが道を踏み外し狂いだしても真実がわからないまま、我々はいとも簡単に何度でも巻き込まれていくという恐怖を感じさせる映画でした。ルーク・ホランド監督は、映画公開直後の2020年6月に71歳で亡くなりました。

 

ユダヤ人精神科医ヴィクトール・エーミール・フランクルが、ナチスによって強制収容所に送られた体験を綴った「夜と霧」という本のことは、ご存知の方も多いとおもいます。一筋の希望もなく、待っているのは悲惨な死のみという環境下で、その不条理を受け入れ、運命にどういう態度を取るのかを決める精神の自由を説いた本書は、日本では1956年に発売され、現在まで読み継がれています。

朝日新聞記者を経て、現在編集委員を務める河原理子が、自らの人生に大きな影響を与えた「夜と霧」を辿って、現地へ赴き様々な人に会い、河原自身が、この本とどう向き合ってきたのかをまとめたのが「「フランクル『夜と霧』への旅」(平凡社/古書1300円)です。

大学時代、一度「夜と霧」を手に取りましたが、巻末に収録された収容所で実際に行われてきた非人道的行為を証明する写真の数々に圧倒されて、途中で本を閉じた記憶があります。そして、これはそういう特別な場所でのナチの悲惨極まる行為を告発したものだと、今まで思ってきました。しかし河原は、「そう、これは、希望の書、だったのだ。明るい未来の希望、というよりは、心にしみいる希望の書。」と結論付けています。その後に、「そのことが腑に落ちるまでに、私は時間がかかった。」とも書いていますが……。

収容所に入れられることは、死を待つことに他ならない状況です。実際にフランクルは、妻を収容所で亡くしています。ガス室送りか、毒殺か、銃殺か……。どこに希望などがあるのでしょうか?著者はフランクルの他の書物も精読し、彼の残された家族や、収容所の生き残りの人達に会い、話を聞き、「希望」を見つけてゆくのです。

フランクルは、その人生を通して、憎悪という感情を排除してきました。演説でこう話しています。

「考えてみてください。いったい、私は誰を憎んだらいいのでしょうか。私が知っているのは犠牲者です。加害者は知りません。少なくとも個人的に知っているわけではありません。私は、集団に属するために誰かを有罪とすることに反対します」

彼は収容所から解放された時から、人間には、品格のある人たちと、そうでない人たちの二種類だけが存在すると繰り返し主張してきました。彼の全集の中に、演説原稿が残されています。

「強制収容所のなかでも、ときにはちゃんとした親衛隊員に出会うことがありましたし、またならず者の囚人もいたのです。ちゃんとした人たちが当時少数だったこと、またいつもそうだったこと、これからも少数派にとどまることを、私たちは受け入れるしかありません。事態が危険になるのは、政治体制が国民のなかからならず者を選んで上に行かせてしまうことです。」そして、こう結んでいます。

「だからあえて言う。どこの国だって、別のホロコーストを引き起こす可能性があるのです。」

今、この警告はより大きな真実味を帯びて聞こえてきます。

 

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