エチオピアの農村や中東で、フィールドワークを続けてきた文化人類学者松村圭一郎が、その活動を通して、世界を、私たち日本人を、見つめ直した「うしろめたさの人類学」(ミシマ社/新刊1836円)は、新しい発見が沢山ある素敵な本です。

目次には「経済ー『商品』と『贈り物』を分けるもの」とか、「関係ー『社会』をつくりだす」、「国家ー国境で囲まれた場所と『わたし』の身体」等々、難しそうなタイトルが並んでいますが、最後まで読めるかな〜?などの心配は無用です。

「できれば人類学とは無縁の人に自分の言葉で届けたいという思いでここまで書いてきた。願わくは、紡いできた言葉が学問の垣根を越えた越境的な贈り物となることを祈りつつ」と最後に書かれている通り、もう、めちゃくちゃ日常の事柄を例を引っ張ってくるので、成る程、成る程と読み進むことができます。

まず彼が足しげく通ったエチオピアの様々な現場から、新しい考え方を模索していきます。例えば、この国では、みんな平気で物乞いにお金を渡します。

「物乞いに抵抗なくお金を与えているエチオピア人の姿を見て、なぜ自分はお金を与えることに躊躇するのだろう、と問うことができる。他者の振る舞いから、自分自身がとらわれた『きまり』の奇妙さに気づくことができる。人の振りみて、我が身を疑う。これが人類学のセンスだ。」

良い言葉ですね、「人類学のセンス」って。遠い所にあった人類学という学問がぐぐぐっと近づいてきます。

人類学のフィールドワークでは、当然その地の人と深い関係性を持ちます。様々な状況で、色々な感情、行動を体験します。そんなフィールドに馴染んだ身体は、フィールドから、ホームに戻ってくると、あれ、なんか違うなぁ〜というずれを経験します。「自分の居場所と調査地を往復するなかで生じる『ずれ』や『違和感』を手がかりに思考を進める。それは、ぼくらがあたりまえに過ごしてきた現実が、ある特殊なあり方で構築されている可能性に気づかせてくれる。」

私たちがいきる社会を構築しているものは何なのか、その延長にある国とは何なのかと、答えを求めていきます。格差は深く進行し、膨大な情報の洪水の中に溺れ、人とのつながりが遮断され、出口の見えない孤独に苦しむ。しかし、表向きは、街がピカピカに美化され、格差なんてどこにも存在しないような顔をしているのが、今の日本だとすると、「ホームレスも、障がい者も、精神を病む人も姿を消した街は、どんなにきれいに開発されても、ずっと生きづらい。バランスの崩れた場所になっているはずだ。格差を突きつけられる機会が失われているのだから。表向きの『美しさ』は、その裏で不均衡を歯止めなく増殖させてしまう。」ことになります。

震災の映像を見て、何もしない自分のうしろめたさを感じ、義援金を送った人も多いはず。著者は言います。

「知らないうちに目を背け、いろんな理由をつけて不均衡を正当化していることに自覚的になること。そして、ぼくらのなかの『うしろめたさ』を起動しやすい状態にすること。人との格差に対してわきあがる『うしろめたさ』という自責の感情は、公平さを取り戻す動きを活性化させる。」

うしろめたさを起動することで、現実を見直し公平さへの希求が持ち上がるのだという事を、多くの体験を通じて、私たちに語ってくれます。本書は、今年度の「毎日出版文化賞特別賞」を受賞しました。

 

 

 

 

 

マスコミ報道、TVニュースで「イスラム」という言葉が、飛び交っています。そして、受け取る側は、あんまりイスラム人に近づきたくないイメージを持ちがちではありませんか。

しかし、そのイメージがいかに誤ったものであるかを、はっきりと極めて分かりやすく教えてくれるのが、内藤正典「となりのイスラム」(ミシマ社/新刊1723円)です。世界の人口の1/4にあたる15〜6億人がイスラム教徒といわれているのですから、彼らと関わることなく生きてゆくのが困難になってきています。

「イスラムにはキリスト教の『原罪』という感覚はありません。単純な話で、『生まれてきた赤ん坊に罪なんかないだろう』ということです。キリスト教では生まれながら人間は『原罪』を背負っていることになっていますが、イスラムにはそういう”辛気臭さ”はありません。」

ミッション系の大学に通学していたので、「宗教原論」が必須でした。その講義で、のっけに出た言葉が「原罪」です。なんじゃ、それっ???の状態でしたが、この本に出会ってすっとしました。

イスラム教は、利子を禁じていることをご存知ですか。私は池澤夏樹の著書で、彼がそのことに賛同していたことから覚えていました。「簡単に言ってしまえば、眠っているあいだに金が増えたり減ったりするということがダメだという意味です。」何もしないのに、お金が増えているっておかしいですよね。高い利子に目がくらみ、無謀な投資を行い、すってんてんになった人の話はそこら中にあります。ちゃんと汗かいてお金儲けしようよっていうのは、当然の教えではありませんか。

著者はイスラム教徒の本質をこう見ています。

「他人を騙すようなことは決してしない、他人を見下さない、自分の家族を含めて、何が正しいことなのか、いつもそれを考えて行動する。」

だから、イスラム圏に旅すると、安心と平安をもたらすと感じるそうです。キリスト圏の国に旅した時には感じない、だらっ〜としたリラックス感に満たされるのだとか。そういうことを、著者自身の体験を交えて書いています。そこから、実際にイスラム教徒とお付き合いする時に、どうすべきかが丁寧に解説されています。お役立ち情報満載です。

さて、そんなイスラム教徒のイメージが凶悪なものになってしまったのは何故なのでしょうか。暴力組織として恐れられている「イスラム国」最大の問題は、「イスラム千四百年の『共存の歴史』に学ぶつもりがさらさらないということです。寛容であり、共存のために積み重ねてきたイスラムの伝統や知恵を、完全に無視してしまうことなのです。」

一方で、先の大戦で西欧列強が、今の中東・イスラム世界をずたずたに分割し線引きをし、植民地支配を続け、あげくにイスラム文化よりもヨーロッパ文化が上であると考え、無理矢理欧化させようとしたことが、イスラム国の暴力化に火を付けたのだといいます。フランスでは公教育の場から、イスラム教徒の女性が身につけているスカーフやヴェールの着用を禁止しました。彼女たちにとって、髪の毛やうなじは性的な羞恥心の対象です。だからスカーフなどで隠しているのです。例えば、ミニスカートをはくのが恥ずかしい人は、パンツルックにするとか、ロングスカートをはきます。何を着るかは、本人が決めることであって、国家があれこれ指示することではありません。イスラム文化が劣っているから、優美なフランス文化を教えてあげようというゴーマンフランスの姿なのです。

「これは国家をあげてセクハラを働いているようなものではないか。髪の毛をあらわにしてヴェールをとれば女性が解放されて自由になるとでも思っているのかもしれないが、それはミニスカートをはけば女性が自由になるといっているようなもの。逆に女性の側からいえば、性を商品化する行為そのものだ」と、著者は欧州評議会でぶち上げたそうですが、反応は,,,,,,,,,だったようです。

イスラムを学ぶことで、世界を違う角度から見ることが出来る書物です。

先日お客様と話している中で、「ミシマ社の本ってどれも読みたくなるね」と言われました。京都を本拠に出版活動しているミシマ社さんは、文芸書こそありませんが、評論、エッセイ、実用など様々なジャンルに渡って数多くの本を出されています。

今回、人気の何点かを選んで、当店でもフェアを開催しています。当店の一番人気は、大瀧純子著「女、今日も仕事する」(1620円)です。マヤルカ古書店の店主なかむらあきこさんは、こんな推薦文を書いています。「生きるようにしなやかに、そしてできれば自由に仕事がしたい。すべての女の願いではないか。」仕事と人生を調和させる女性の毎日を描ききっています。

女性の生き方では、山口ミルコ著「毛のない生活」(1620円)、「似合わない服」(1620円)もお薦めです。仕事ばりばりの編集者が、癌を告知され闘病生活が始まります。まさか、毛のない生活をするなんて!?そこから見えてくるものを綴った前著と、そこから自分の暮らし方と今の社会の有り様を見つめて”似合わない”ものを脱ぎ捨ててゆく様を、爽快に描いたものです。もちろん性別を問わず、読んでいただきたい2冊です。

癌の事が出たので、健康に関わる本を三冊。こちらもブログで紹介した小田嶋隆「上を向いてアルコール」(1620円)は、元アル中だった著者の悲惨で、つらかったに違いない過去を描いているのに、なぜか大笑いしてしまう不思議な本です。また、鍼灸師の若林理沙著「絶対に死ぬ私たちがこれだけは知っておきたい健康の話」(1620円)は、そんじょそこらの健康本とは違います。死ぬまでの一時の間、この世を楽しむための心と躰の「いい塩梅」の状態を目指すのが健康だという彼女の思想の詰まった一冊です。もう一冊は、長谷川智・矢野龍彦共著の「ナンバ式!元気生活」(1620円)。今年4月、当店で「ミシマ社展」をした時にも良く売れていた本で、発行は2008年と少し古いのに、何故売れるのかなぁ、とミシマ社の人も首を傾げていた一冊です。

昨今、何かと悪いイメージが先行するイスラム教。誤解を生むような情報ばかり垂れ流される時だからこそ、きちんと知っておきたい人のために恰好の一冊が、内藤正典著「となりのイスラム」(1728円)です。スラスラ読めるところがいいですね。名作映画「アラビアのロレンス」の描写に、西洋的思い込みが在った指摘など、成る程と思いました。帯の「中学生にも理解できます」と書いてありますが、「小学生なみの頭脳」と揶揄されているトランプさんにも、わかっていただけるはず。

お隣の韓国から来日して、日本人の夫の出会い結婚し、しかし、習慣、文化の違いで巻き起こる妻の不満をコミカルに描いた趙美良「わが家の闘争」(1620円)。ムカつく妻とその不満をぶつけられた夫の”夫婦漫才”を聞いているようです。

フェアと同時に新刊も入荷しています。ミシマ社発行の読み応えのある雑誌「ちゃぶ台4号」(1728円)と、同社から「何度でもオールライトよ歌え」(1620円)を出している後藤正文の新作「凍った脳みそ」(1620円)です。同社の宣伝マンH嬢から、店長(私)にぜひ読んで欲しい、とのお言葉をいただきました。了解しました。近日中にブログに感想を書きます。

 

★ 勝手ながら10月22日(月)23日(火)連休いたします。


 

札幌に、「くすみ書房」という名前の本屋がありました。

2015年、内外のファンに惜しまれつつ、約70年間の書店の歴史の幕を下ろしました。二年後の春、店主久住邦晴氏は病に倒れ、復活することを強く希望されていましが、その年の夏の終わりに他界されました。享年66歳でした。

ミシマ社から出た「奇蹟の本屋をつくりたい」(1620円)は、その闘病時に書き残した原稿をもとに構成されています。本が売れない時代に、なんとか本を売ろうと奮闘努力した書店の記録です。

1999年、様々な外的要因でくすみ書房は経営のピンチに陥ります。営業努力しても一向に売上げは回復せず、支払いは滞り、督促の電話が鳴り続けます。そして、どん底の2002年、高校に入学されたばかりの邦晴氏の息子さんが白血病で亡くなりました。葬儀の香典をかき集めて、本の支払いに回したその日、閉店することを決意します。しかし、邦晴氏はそこで、「くすみ書房さんは、きっと息子さんを亡くして力を落とし店を閉めたんだろう。しょうがないね」と言われるだろう、閉店を息子のせいにするわけにはいかない、と思い直します。

そこから、邦晴氏は新しい本屋の姿を模索してチャレンジを開始します。

業界、マスコミが注目したのが「なぜだ、売れない文庫フェア」と称する文庫の企画展でした。POSデータではじき出された文庫売上げ順位の下位には、名作が並んでいます。でも、売行き不良でどの本屋にも置いていない。良書が消滅する危機感と、売上げデータ最優先の画一的品揃えのナショナルチェーンへの抵抗の意味も含めて、このフェアを敢行します。これが当たりました。マスコミを味方につけた戦略も功を奏して、店の売上げも復活してゆきます。さらに、当時まだ珍しかった店内での朗読会を始めます。

出版社や取次ぎのお仕着せで、独創性のないフェアに背を向けて、「本屋のオヤジのおせっかい『中学生はこれを読め』」といった書店独自の企画で勝負をしていきます。順調に回復していったのも束の間、またもた大型書店の出店で売上は下降。思いきって、本屋を始めた場所を捨て、新しい土地に移転を決意します。

しかし、今度は邦晴氏の妻が病に倒れます。何度かの手術の後、2011年、57歳で妻は天国に旅立ってしまいます。そんな失意の中にあっても、「高校生はこれを読め」展を企画し、実行します。だが、本屋を取り巻く状況は厳しさを増すばかりです。移転した店も2015年6月閉鎖。再建を目指そうとした矢先、病が発覚。肺がんでした。

闘病中、彼は本書の執筆に全精力を傾けます。最後にこんな事を伝えます。

「お金がなくても作れる本屋 だから借金の無い経営 きちんと休みのとれる本屋 知的好奇心の満たされる本屋 文化を発信できる本屋 置きたい本だけを置いている本屋 何者にも束縛されない本屋を目指します」

この言葉を書店業に携わる人間は、真摯に受け止めるべきだと思います。「奇蹟の本屋をつくりたい」は、不幸にも病に倒れた本屋の一代記と同時に、人が一生かかって、一つの事を成し遂げる長い道程を支える希望を語った本です。多くの読者に読んでもらいたいお薦めの一冊です。

なお、店内にはこの本の出版記念として、各地で活躍する書店主さんが書いた本を並べています。夢の実現に悪戦苦闘したステキな人達です。

 

ミシマ社から、「絶対に死ぬ私たちがこれだけは知っておきたい健康の話」(若林理沙著/1728円)という長いタイトルの本が出ました。京都は40度近い猛暑の日々、外へ出るだけで危険な暑さです。こんな時こそお薦めの、ココロとカラダを考える一冊です。

本の中に「ミシマ社通信」という小冊子が付いています。そこに、著者が、夏バテは冬と春から始まっているという東洋医学の考え方を述べています。即ち、「すでにバテ気味だという人、冬の間に夜更かしをたっぷりしたり、冷たいもの・ナマモノをよく食べる生活をしていませんでしたか?これらは夏の暑さに対抗するために必要な体のラジエーションシステム(陰気)を弱める行為とされています」ということです。

著者は、死ぬまでの間それなりに楽しめる、ココロとカラダの「いい塩梅」の状態を目指すことが健康であり、最終目標は、ああ、楽しかったと息を引き取ることだと考えています。そのために、何をどうしてゆくのか。自分の健康法の棚卸しに始まり、「寝る・食う・動く」の時間を決める、「寝る・食う・動く」の質を高める、風邪は引き始めに東洋医学で治す、生活そのものが養生になるという順番でステップアップしていきます。

成る程と思ったのは、「ハレ」をちょこちょこ消費する不健康という見方ですね。たまにしかない「ハレの日」は、豪華で楽しい一時です。それに比べて、ごく普通に続く、そして日常生活の多くを占める「ケの日」は地味な日です。ところが、ネット時代の到来と共に、膨大な量の情報が流れ込み、これも楽しい、あれは美味しい、こっちはお買い得と、本来なら「ハレの日」の情報が、日々の生活を侵します。増加する情報や刺激の量が、ハレの感覚を麻痺させてしまい、現代人は祝祭が毎日ないと我慢できなくなりつつあるようです。結果、ちょこちょこ「ハレの日」を消費してしまい、「ハレの日」へのハードルが上がってしまい、感動が目減りして、徒に多くのものを消費してしまいがちです。

「生きている間の限られた時間を最大限に楽しむためには、ハレとケをある程度分離させた、メリハリが必要なのです」という著者の考えには頷きます。BS放送の民放チャンネルを回していると、健康食品からファッション、美容に至るまで「ハレの日」の情報の垂れ流しに遭遇します。このスィッチをオフにすることから、健康は始まるのかもしれません。

ミシマ社からは、矢野龍彦&長谷川智「ナンバ式元気生活」(1620円)、大塚邦明「病気にならないための時間医学」(2376円)、そしてブログでも紹介した小田島隆「上を向いてアルコール」(1620円)など面白い健康関連の本が出ています。

★レティシア書房恒例「夏の古本市」は、8月8日(水)〜19日(日)開催です。

 

「京都でハモ、それがどないしてん」という、京都人への挑戦的フレーズの「飲み食い世界一の大阪」(ミシマ社1728円)でお馴染みの、江弘毅の新作「大阪弁ブンガク論」(ミシマ社1836円)は、ボケツッコミ満載で、笑いころげる文学論です。

生まれも育ちも岸和田の著者は、「社会的属性や世代も違う人々が普通に混じっているので、自然とコミュニケーション力が磨かれる。その際に中心となる『言語運用』は、小学校で習う国語だけでは『通用』しない。」といいます。

中学時代はおもしろいことを言うことが勝者であり、「おもろく表現する」ことが、他人を説得させる手段。国語の先生でさえ、宮沢賢治の詩を泉州弁で朗読し、英語の先生は大阪弁のイントネーションでした。

この本の中で、独特のエネルギーを持つ大阪弁を駆使した小説を取り上げて、その魅力を分析していきます。昨今、西加奈子、朝井まて、黒川博行といった関西の言葉で構成された小説が連発されています。著者は「彼らの書く登場人物の大阪弁〜関西語コミュニケーションの技法こそ、その魅力にほかならない」とし、先ず黒川博行の小説を取り上げています。

私も黒川の大ファンで、ほぼ読んでます。「よっしゃ、あのガキ、いてもたる」という、お下劣なセリフバンバンのヤクザもんや、上方漫才を聞いているような会話の刑事たちが活躍するサスペンスものなど、新刊台に出たら購入してしまいます。「後妻業」や「疫病神」が映画化されていますので、ご存知の方も多いと思います。ヤクザはヤクザの、デカはデカの、生活に相応しい言葉を巧みに使い分けているとことが、黒川作品の特質だと著者は指摘しています。言葉がリアルで、ノンフィクションであることが面白さを生むのです。その辺りを理解せずに、関西弁を使った上っ面だけの物語は、関西人から言わせてもらうと「おもんないわ、これ」になってしまいます。

直木賞受賞作品「破門」に、主人公二人の極道のこんな会話があります。

「たたでは済まんやろ。指飛ばして詫びいれんとな」「へ、おまえの指なんぞ、犬の餌にもならんわ」「そうかい、おどれの指はどうなんや。尻の穴もほじれんど」「おもろいのう、おまえ」

リズム良く、ポンポンと飛び交います。

黒川は、編集者に大阪が舞台でもいいから、東京弁の小説を書いてくれと言われた時、「なんちゅう安易な発想やと思いました。もちろん本の大半が首都圏で売れるというのは知っていましたが、大阪に住んでる人間がそんな言葉を喋るわけがない。そんな小説は書けません。」と拒否したそうです。エライ!!

その土地やそれぞれの社会集団に根付いた言葉で、そこに生きている人達が動いてこそ、物語は息づいてくるのですね。

本書は、谷崎潤一郎、町田康、山崎豊子等が登場します。どれも、これも独自の視点で論じていて、面白さ120%なのですが、これ以上書くとキリがありません。ぜひ、ご一読をお勧めします。

★連休のお知らせ 7月2日(月)3日(火)


 

レティシア書房は、すっかりミシマ社に乗っ取られた様相を呈しています。店のウィンドウ(写真左)にも、入口付近(写真右)にも、ほら、ミシマ社さんが…….。「本のおみくじ」(写真右下)なんていうのもあって、ご来店の客様にはけっこう好評ですし、ミシマ社オリジナル手ぬぐいは、このキャンペーン中に3冊以上ミシマ社の新刊をご購入の方にプレゼントしております。

「ミシマ社と京都の本屋さん展」は、壁一杯に貼り出された京都市内の本屋さんの地図が、ペチャクチャおしゃべりをずーっと続けているような賑やかさ。なんせ自転車で15分くらいしか離れていないので、ひとつずつ本屋さんのイラストが増えていくという状態ですが中日を過ぎても、一向に完成の目処は立たない感じで、たぶんこのまま最終日になだれ込みそうです。最終日にちゃんとこの展示を下ろす事ができるのか、目下の心配はそこです。次の展覧会の準備がひかえてるので、ミシマ社さん、お願いしますね。

ミシマ社の本については、店長が、「店長日誌」でも度々取り上げてきました。この展覧会の初日のブログ(4月11日)にも紹介しています。私はサイン本の棚に並んでいる「毛のない生活」(山口ミルコ著・1500円+税)を、久しぶりにめくりました。この本を初めて手に取った時、私は親しい友人の癌の闘病に付き添っていました。彼女の底知れない不安を、すぐ側で見ていた毎日がよみがえります。山口さんが病気を受け入れ、生きる道を模索し、友人と繋がりながら、バリバリ進むだけの生活から、足下を見つめ新しく生まれ変わろうとしている姿が、健気でまぶしかった。社会に、人生に取り残されそうな不安など、胸をしめつけられそうになったこともあったでしょうが、本にまとめあげられた力に、改めて敬服しました。あの時、一所懸命前向きに頑張っていた友人が、ふと「もとの体に戻れない」と涙ぐんだ時、私は力になれていたのだろうか、と、彼女を切なく思いだしました。

現在読んでいるのは「お世話され上手」(釈徹宗著・1600円+税)。ここでは、お年寄りの暮らしにとっては、何を置いてもバリアフリーが必要というわけではない、ということなどが書かれていていちいち頷きました。面白いと思ったのは釈さんの「巻き込まれキャンペーン」という一人ムーブメント。このキャンペーン中は、後先を考えずに流れに身を任せる、ともかく誘われたら、興味がなくても乗ってみるというもの。どちらかというと巻き込まれ型の私など、そうこうしているうちに気がついたら古本屋の女房。けれどそのおかげで、面白い展示のお手伝いなどできるわけです。私一人の経験なんてしれているので、誰かの力を借りてこれからも自分の枠を広げていくつもりです。

「ナンバ式!元気生活」という本をみつけ(レティシア書房もミシマ社のすべての本を置いているわけではないので)店番の合間に立ち読みしていたら、お客様が買っていかれたので慌てて追加発注ということもありました。そんなこんなで、賑やかなミシマ社展ですが、いつもとは違う活気が漲っております。きっとミシマ社さんのみなさんの熱気が、小さな本屋を少し若返らせてくれたのでしょう。有り難いことです。と、いうわけで、ミシマ社の未完成地図など見に、お出掛け下さい。立ち読みしていただいて結構です。(女房)

「ミシマ社と京都の本屋さん」展は、4月22日まで。(月曜定休日)12時〜20時

京都に本拠を置く出版社ミシマ社が企画した、ユニークな展示「ミシマ社と京都の本屋さん展」が始まりました。

ミシマ社は、大手出版社の編集者だった三島邦弘さんによって、2006年11月に設立された出版社です。「自由が丘のほがらかな出版社」をスローガンに掲げ、「一冊入魂」をモットーにして、書店と出版社を繋ぐ「取次ぎ」と呼ばれる流通業者を介さず書店と直接取引を行っています。

つまり、ミシマ社の本を積極的に販売してくれる書店にだけ卸すという姿勢です。

数年前、レティシア書房のわりと近くに京都オフィスを構えられて、京都の個性的な書店が広がっています。もちろん当店もミシマ社コーナーを作って、積極的に販売してきました。そのコーナー横に、ミシマ社のイラストレーターさんが描いた、レティシア書房付近の地図を貼付けていましたが、「可愛い!」と評判だったので、なら、この地図を壁いっぱいに展示しようよ、というところから、今回のこの企画になったというわけです。南は京都駅近くのイオンモール「大垣書店」から、北は北山の「アミーゴ北山店」まで、手描きの地図が貼り出されました。開店はしましたが、まだまだ制作進行中(写真左)。賑やかな展覧会となっています。面白いですよ!これからの出版社の在り方、本屋さんの進むべき方向、そして読者の選書のヒントなどが詰まりに詰まった企画展です。もう、ミシマ社スタッフも、お店も爆発寸前です!

個人的に、この出版社のベスト5を上げるなら吉田篤弘「京都で考えたこと」(1620円)、安田登「あわいの力」(1836円)、山口ミルコ「似合わない服」(1620円)、木村俊介「善き書店員」(1944円)です。

これからの社会のあるべき姿、世界の見方、そして個人の働き方に至るまで、私たちが生きる指針になってくれそうな本ばかりです。

 

「ミシマ社と京都の本屋さん」展は、4月22日まで。(月曜定休日)12時〜20時

 

 

 

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「強くなることが使命・・・・使命までいくか分からないですけれど、自分のすべきことだと思います。どのような景色が見えるのか。強くならなきゃいけないと思っています。将棋は奥が深い。強くなっても、強くなった先にある深遠さを見ていたいです。」

弱冠15歳の藤井聡太の言葉です。ベテランの棋士が言うならいざしらず、15才過ぎの青春真っ盛りの青年から、強くなった先にある深遠さを見ていたい、なんてセリフが出てきますか? なんとも凄味があります。

北野新太著「等身の棋士」(ミシマ社1728円)は、藤井聡太、羽生善治等の棋士へのインタビューと、対戦の日々をドキュメントしたノンフィクションです。私は、将棋のことは全く知らないし、やったこともありません。でも、これは面白かった。100%理解できたとは言えませんが、肉体と精神のギリギリのところで、勝負している人達がいることに驚かされました。

「棋士という二文字は『将棋を指す侍』を示している。プロ棋士という言葉を散見されるが、厳密には誤用である。力士と同じように、棋士という単語はプロフェッショナルであることを示す意味が初めから内包している。アマチュア棋士はいない」

勝つか負けるか、喰うか喰われるか、の世界です。筆者は、藤井や羽生といった人気の棋士だけでなく、非情な世界で生き抜く男達、そして女達を追いかけていきます。

驚いたのは、ワルシャワから日本に来て、女流棋士を目指すカロリーナ・ステチェンカという女性でした。彼女は15年12月、女流名人戦で山口恵梨子初段に敗れ、デビュー戦を飾れませんでした。遥か彼方の異国から、将棋を指しにこさせる原動力は如何なるものなのか興味は尽きません。

「等身の棋士」には、今まで読んだスポーツノンフィクションの傑作、例えば山際淳司の野球もの、沢木耕太郎のボクシングものと同じような匂いがします。簡潔でストイックな文体が、登場する男たち、女たちの心の襞を捉えていく手法です。

「かつて羽生は言ったんだ。将棋には人をおかしくさせる何かがあると。」

そんな奥深い暗闇でもがき続ける勝負師たちにストレートに立ち向かった筆者の愛情が溢れたノンフィクションです。

なお筆者には、ミシマ社からもう一冊「透明の棋士」(1080円)があります。こちらもどうぞ。

 

レティシア書房は、本日が今年最後の営業日となりました。今年も様々な面白い本に巡り会うことができました。

小説は、松家仁之「光の犬」(新潮社)、川上弘美「森へ行きましょう」(講談社)、柴崎友香「千の扉」(中央公論新社)などの新刊書が強い印象を与えてくれました。偶然かもしれませんが、三作とも、長い時間を生きた人達の人生が語られていて、時の流れをじっくりと描くという長編小説の醍醐味を味わうことができました。数年後、もう一度読んでみたら、どんなふうに感じるのか、ちょっと楽しみにしています。

久々に読んだ沢木耕太郎の「流星ひとつ」(新潮社/古書700円)は、ちょいと変化球ぎみのノンフィクションでした。演歌歌手、藤圭子の波瀾の生涯を、差し向かいでお酒を飲みながら語り尽くすという構成です。彼女の心の奥底にどんどん降りてゆく技術はさすがベテランの作家の力量です。一緒に「旅の窓」(幻冬舎700円)という写真エッセイを読みましたが、上手いなぁ〜と思いました。

数多くの京都本が今年も出ましたが、その中では、吉田篤弘の「京都で考えた」(ミシマ社1620円)はお薦めです。吉田の文体って、わからん理屈で迷路に引っぱりこまれたりして、読みにくいなぁと思うこともありますが、これはストンと腑に落ちました。吉田の文体と京都の露地がシンクロして、あっちへ行ったり、こっちへ行ったり。

この本を出した京都のミシマ社は、相変わらずいい本を出しています。山口ミルコ「似合わない服」(1620円)、安田登「あわいの力」(1836円)、「うしろめたさの人類学」(1836円)は中身の濃い傑作です。最新作の北野新太「等身の棋士」(1728円)は藤井聡太、羽生善治らの棋士を描くノンフィクションで、将棋のことを全くしらない私のような者でも面白く読めます。

来年、レティシア書房でミシマ社の展示会をするので、さらに充実したコーナー作りを計画中です。

ミシマ社と同じように小さな出版社ながら、書物への愛情一杯の本を出し続けている夏葉社からも、尾形亀之助著、松本竣介画による「美しい街」(1728円)や、「東京の編集者 山高登さんに話を聞く」(2484円)など、机の上に置いて、ずっと眺めているだけでも幸せになってくる本が出ました。特に最後に出た埴原一亟 「古本小説集」(2376円)は、よう出した!!と拍手です。殆どの人が知らない作家、埴原一亟の短編を集めたもので、古本を拾い、古本屋を始め、そして続けてゆくその姿を、様々な角度から描いていきます。帯にこうあります

「小売商人は何を犠牲にしても店を守らなければならない」

この言葉を肝に銘じて、来年も頑張ります。

ギャラリーでも新しい作家さん達との出会いが多くありました。一方、2回目3回目と個展を開いて下さる作家さんと親しくさせて頂き、実りの多い1年間でした。

得地直美さん(初)、福原真理子さん(初)、呑海龍哉さん(初)、高原啓吾さん(初)、中西敦浩さん、棚からうさもちさん、森野有子さん(初)、上仲厚志さん、冨田美穂さん(初)、もじゃハウス&小嶋雄之さん、大島尚子さん(初)、ARKさん、村上浩子さんと絵本教室の皆さん(初)、「震災で消えた小さな命展」の皆さん、土本照代さん、たがわゆきおさん、長元宏さん(初)、朝野ペコ&楠木雪野さん、白崎和雄さん、沢朱女さん、梶間千草さん、山中さおりさん、澤口弘子さん、越智信喜さん(初)、そして「贈り物展」の作家の皆さん、本当にステキな展覧会をありがとうございました。

そして、雨にも風にも負けずご来店頂きましたお客様に心よりお礼申し上げます。来る年も、いい本と巡り会えることができますように。(店長&女房)

★新年は1月5日(金)より営業いたします。最初のギャラリー展示は、いま人気の絵本作家町田尚子さんの絵本「ネコヅメのよる」原画展です。著者の”ご当地サイン”入の絵本や、手ぬぐい、町田尚子キャットカレンダーなども同時に販売いたします。おたのしみに!