「強くなることが使命・・・・使命までいくか分からないですけれど、自分のすべきことだと思います。どのような景色が見えるのか。強くならなきゃいけないと思っています。将棋は奥が深い。強くなっても、強くなった先にある深遠さを見ていたいです。」

弱冠15歳の藤井聡太の言葉です。ベテランの棋士が言うならいざしらず、15才過ぎの青春真っ盛りの青年から、強くなった先にある深遠さを見ていたい、なんてセリフが出てきますか? なんとも凄味があります。

北野新太著「等身の棋士」(ミシマ社1728円)は、藤井聡太、羽生善治等の棋士へのインタビューと、対戦の日々をドキュメントしたノンフィクションです。私は、将棋のことは全く知らないし、やったこともありません。でも、これは面白かった。100%理解できたとは言えませんが、肉体と精神のギリギリのところで、勝負している人達がいることに驚かされました。

「棋士という二文字は『将棋を指す侍』を示している。プロ棋士という言葉を散見されるが、厳密には誤用である。力士と同じように、棋士という単語はプロフェッショナルであることを示す意味が初めから内包している。アマチュア棋士はいない」

勝つか負けるか、喰うか喰われるか、の世界です。筆者は、藤井や羽生といった人気の棋士だけでなく、非情な世界で生き抜く男達、そして女達を追いかけていきます。

驚いたのは、ワルシャワから日本に来て、女流棋士を目指すカロリーナ・ステチェンカという女性でした。彼女は15年12月、女流名人戦で山口恵梨子初段に敗れ、デビュー戦を飾れませんでした。遥か彼方の異国から、将棋を指しにこさせる原動力は如何なるものなのか興味は尽きません。

「等身の棋士」には、今まで読んだスポーツノンフィクションの傑作、例えば山際淳司の野球もの、沢木耕太郎のボクシングものと同じような匂いがします。簡潔でストイックな文体が、登場する男たち、女たちの心の襞を捉えていく手法です。

「かつて羽生は言ったんだ。将棋には人をおかしくさせる何かがあると。」

そんな奥深い暗闇でもがき続ける勝負師たちにストレートに立ち向かった筆者の愛情が溢れたノンフィクションです。

なお筆者には、ミシマ社からもう一冊「透明の棋士」(1080円)があります。こちらもどうぞ。

 

レティシア書房は、本日が今年最後の営業日となりました。今年も様々な面白い本に巡り会うことができました。

小説は、松家仁之「光の犬」(新潮社)、川上弘美「森へ行きましょう」(講談社)、柴崎友香「千の扉」(中央公論新社)などの新刊書が強い印象を与えてくれました。偶然かもしれませんが、三作とも、長い時間を生きた人達の人生が語られていて、時の流れをじっくりと描くという長編小説の醍醐味を味わうことができました。数年後、もう一度読んでみたら、どんなふうに感じるのか、ちょっと楽しみにしています。

久々に読んだ沢木耕太郎の「流星ひとつ」(新潮社/古書700円)は、ちょいと変化球ぎみのノンフィクションでした。演歌歌手、藤圭子の波瀾の生涯を、差し向かいでお酒を飲みながら語り尽くすという構成です。彼女の心の奥底にどんどん降りてゆく技術はさすがベテランの作家の力量です。一緒に「旅の窓」(幻冬舎700円)という写真エッセイを読みましたが、上手いなぁ〜と思いました。

数多くの京都本が今年も出ましたが、その中では、吉田篤弘の「京都で考えた」(ミシマ社1620円)はお薦めです。吉田の文体って、わからん理屈で迷路に引っぱりこまれたりして、読みにくいなぁと思うこともありますが、これはストンと腑に落ちました。吉田の文体と京都の露地がシンクロして、あっちへ行ったり、こっちへ行ったり。

この本を出した京都のミシマ社は、相変わらずいい本を出しています。山口ミルコ「似合わない服」(1620円)、安田登「あわいの力」(1836円)、「うしろめたさの人類学」(1836円)は中身の濃い傑作です。最新作の北野新太「等身の棋士」(1728円)は藤井聡太、羽生善治らの棋士を描くノンフィクションで、将棋のことを全くしらない私のような者でも面白く読めます。

来年、レティシア書房でミシマ社の展示会をするので、さらに充実したコーナー作りを計画中です。

ミシマ社と同じように小さな出版社ながら、書物への愛情一杯の本を出し続けている夏葉社からも、尾形亀之助著、松本竣介画による「美しい街」(1728円)や、「東京の編集者 山高登さんに話を聞く」(2484円)など、机の上に置いて、ずっと眺めているだけでも幸せになってくる本が出ました。特に最後に出た埴原一亟 「古本小説集」(2376円)は、よう出した!!と拍手です。殆どの人が知らない作家、埴原一亟の短編を集めたもので、古本を拾い、古本屋を始め、そして続けてゆくその姿を、様々な角度から描いていきます。帯にこうあります

「小売商人は何を犠牲にしても店を守らなければならない」

この言葉を肝に銘じて、来年も頑張ります。

ギャラリーでも新しい作家さん達との出会いが多くありました。一方、2回目3回目と個展を開いて下さる作家さんと親しくさせて頂き、実りの多い1年間でした。

得地直美さん(初)、福原真理子さん(初)、呑海龍哉さん(初)、高原啓吾さん(初)、中西敦浩さん、棚からうさもちさん、森野有子さん(初)、上仲厚志さん、冨田美穂さん(初)、もじゃハウス&小嶋雄之さん、大島尚子さん(初)、ARKさん、村上浩子さんと絵本教室の皆さん(初)、「震災で消えた小さな命展」の皆さん、土本照代さん、たがわゆきおさん、長元宏さん(初)、朝野ペコ&楠木雪野さん、白崎和雄さん、沢朱女さん、梶間千草さん、山中さおりさん、澤口弘子さん、越智信喜さん(初)、そして「贈り物展」の作家の皆さん、本当にステキな展覧会をありがとうございました。

そして、雨にも風にも負けずご来店頂きましたお客様に心よりお礼申し上げます。来る年も、いい本と巡り会えることができますように。(店長&女房)

★新年は1月5日(金)より営業いたします。最初のギャラリー展示は、いま人気の絵本作家町田尚子さんの絵本「ネコヅメのよる」原画展です。著者の”ご当地サイン”入の絵本や、手ぬぐい、町田尚子キャットカレンダーなども同時に販売いたします。おたのしみに!

 

 

 

 

読んでいる本の著者のお会いするなんて、なかなか叶わないことが実現しました。

先日、出版社のミシマ社設立11周年記念パーティーの席上で、同出版社から「あわいの力」(1836円)を出されていた安田登さんにお目にかかることができたのです。

安田さんは、ワキ方能楽師です。ワキ方というのは、簡単に云えば、主役(シテ方)を補佐したり、物語の進行をする道案内を行う立場です。じゃ、この本は能楽の本?いえ、全く違います。

著者は、現代を「心の時代」と捉えています。心を厳密に定義してゆくと、膨大な時間を要しますので、著者は「自己意識」ぐらいに思って下さい、と言います。主体的に意志決定したり、自我をぐいぐいと押し出すことを覚えた人類は、やがて得体の知れない「心」に振り回されます。古代から孔子、釈迦、イエス等が心との付き合い方を巡って悪戦苦闘してきましたが、その答えが出ていません。

著者は「心」という文字が出る以前、人類はどうしていたのか。「『文字』以前の人間は、身体の感覚に従って生きていました。それが『文字』を使い始めたことで、脳で思考することが増え、人間がいわば『脳化』していった。それによって『心』が肥大化し、『心』がもたらす副作用がどんどんどんどん大きくなっていきます」

自殺、精神疾患の急速な増加はその副作用ではないか、というのが著者のスタンスです。え?じゃ、癒し系の本なのこれ?それも違います。

ここから、能楽師としての経験を踏まえて、「心の時代」の次を生きる「あわいの力」について、実証的に、知的に論じられていきます。ちなみに、「あわい」というのは、あいだのこと。自己と他者、異界と現実界、時間と空間、あっちとこっち。能楽におけるワキは、両者をつなぐ象徴的な存在だということです。

個人的なことですが、小鼓を習い始めて数年、能の舞台も何度も見ましたが、もう〜めちゃくちゃ眠たくなる時があります。実際寝てる人もよくお見かけしますが……。

著者は「それでいいのです。能は『そういうもの』であるからです。そういうもの?はい、そういうものなのです。つまり目の前で流れている時間とは別の時間に生きていることになる。まさに、『あわい』の世界に身をおくことになるわけです。」

この先は、能楽の世界へ入り、日本の芸能から日本語の持つ動的で、身体的な特質へと向います。ここら辺りのお話が好きな方にはたまらん知的興奮をお約束します。

さらに著者は、もう一つの専門でもある古代文字の世界へと読者を誘い、文字のなかった時代、人々はどう心と向き合ったのかまで話が広がります。

昨日、このブログで伊坂幸太郎の小説をご紹介した時、物語が「もう飛び跳ねまくりです」と書きましたが、こちらの本も宗教、古代文字、文学、古典、歴史と方々に飛んでいきます。成る程、成る程と頷きながら、「あわいの力」という抽象的表現の意味するところを学んでいきます。日本文化って、こんなに深く、面白いものなのだったんですね、安田さん。

一つ、いい文章に出逢いました。

「学びというのは、役に立たなければ立たないほど面白い」

 

★安藤誠ネイチャートークショー「安藤塾」今年も開催決定しました。

北海道のネイチャーガイドで、釧路ヒッコリー・ウインドオーナー安藤誠さん(写真左・愛犬キャンディと)のトークショーを10月25日(水)19時30分より開催します。数名で満席ですのでお早めに(要・予約 レティシア書房までお願いします) 

吉田篤弘の新刊「京都で考えた」が、ご当地京都先行販売(ミシマ社/初回サイン&ポストカード付き1620円)で入荷しました。

「京都は百万遍にあるほの暗い喫茶店で、角砂糖付きの珈琲を飲みながら、買ったばかりの本のページをめくっている。」なんて出だしを読むと、これは著者好みの本とカフェをめぐる本かいな、と思ってしまって読み続けると痛い目に合います。難しい言葉を駆使した読みにくい文章では全くありませんが、著者が「京都で考えた本」という存在について引っぱり回されます。

先ず、著者の文体と思考法に、同調してください。そうしないとこの本の奥深い楽しみがわかりません。私は、

「本というのは、われわれが身を置いている日常の空間をところどころ押しのけるようにしている方がいい。疎ましくて結構。厚みや重みがあってこそである。いわば、その重さを買っているのである。」

という本の定義めいたことを述べているあたりでシンクロナイズに成功。後は著者の脳内思考の流れにのって、あっという間に読み終わりました。本を読むとはどういうことなのか、とぶつぶつ言いながら、碁盤の目のように続く京都の町中を一緒に彷徨い歩くような本とでも言えばいいのでしょうか。

「生活空間を圧する物理的な重さや大きさが、手の甲に書くべき『忘れてはいけない』ことをアラームのように教えてくれるのだ。人の記憶などというものは、自分の容量に加えて、友人、知人の脳まで駆使しても、結局『忘却』の力には抗えない。しかし、本は忘れない。」

本棚の奥から出て来た時、その昔の記憶がふぁっと甦ることってありますよね。私たちが忘れてしまったことも、本は覚えているのかもしれません。

著者は本屋をこんなステキな文章で表現しています。

「『木の葉を隠すなら森の中に隠せ』と云うが、言葉が隠されている森が書店であり、それも物語の入り口になるような言葉が至るところに隠されているのだ。」

そうすると、さしずめ書架は森の木になるのか。木で出来た書架に置かれた本が、居心地良くしているのはそういうことだったのかと、思わず店の節のある木で作ってもらった書架を振り返ってしまいました。

 

 

ご近所の出版社ミシマ社より、吉田篤弘の新刊「京都で考えた」(1620円)が発売されます。

全国発売は10月20日ですが、京都地区先行販売が決まりました。また、ご予約された方には先着でサイン本をお渡しします。先行発売は10月12日(木)です。

吉田は、クラフト・エヴィング商會で出版した数々の書籍を含めて当店でも人気の作家です。クラフト時代の作品では、猫、犬というテーマで文学アンソロジーを作った「犬」、「猫」(中央公論新社各900円/絶版)が、個人的にはベストだと思います。装幀のセンスの良さ、それぞれに登場する犬、猫のキャラの可愛らしさもさることながら、例えば猫編で取り上げられている寺田寅彦の「猫 子猫(大正10年発表」は寺田のエッセイストとして質の高さが伝わってきます。また、犬編で取り上げられている徳川夢声のユーモア溢れる「トム公の居候」など、選ばれた作品がどれも楽しい。

吉田のソロワークは、小説、エッセイと沢山あります。ややシュールな展開をする小説には好き嫌いもあると思いますが、「それからはスープのことばかり考えて暮らした」(暮らしの手帳社950円/絶版)などは、特に起伏のあるストーリー展開ではないのに、何故か心に残る小説です。

仕事を辞めた青年が、新しい町に来て、白い十字架が見える家を見つけ、「朝、起きると、まずカーテンをあけ、窓の向こうの白い十字架を眺めて煙草を一本吸う。この十字架も雲と光の加減で、日々、表情が変わってゆく。」という日々を見つめた小説で、初期の村上春樹っぽいニュアンスもありますが、登場するサンドイッチや、ポタージュといった小道具の使い方が絶妙です。

装幀には拘った本作りをしていますが、最近の作品「ブランケット・ブルームの星形乗車券」(幻冬舎1728円)は凝りに凝っています。本の上半分がイラストになっていて文章は下半分に集約されています。絵本のような、小説のような不思議な世界が展開します。

 

吉田篤弘の新刊「京都で考えた」ご予約お待ちしております。 

 

 

 

 

★安藤誠ネイチャートークショー「安藤塾」今年も開催決定しました。

北海道のネイチャーガイドで、釧路ヒッコリー・ウインドオーナー安藤誠さん(写真右・愛犬キャンディと)のトークショーを10月25日(水)19時30分より開催します。(要・予約 レティシア書房までお願いします) 

最近TVのCMで気になるのは、やたらと部屋の、或は衣服の匂い消し商品のCMが増えていることです。最低限のエチケットは必要ですが、匂いを徹底的に敵視して、完璧に消そうとする意図があります。そんなに、科学薬品を部屋に充満させて大丈夫かと思いたくなります。「抗菌グッズ」もそう。人間は様々な菌と共生しているのに?と疑問でした。

匂い消しや抗菌機能をさらに、さらに高めるのに日々邁進しているみたいです。それは、一商品に留まらず、すべての生産活動に当てはまります。

山口ミルコは「似合わない服」(ミシマ社1620円)で、こう述べています。

「私たちは速く生産し、速くお金に換えることをしばしば周囲から求められる。誰が私たちを急がせているのだろう?社長や上司といった誰ではないはずだ。もっと大きなもの。目にみえない、大きな何か」と。

著者の山口は、20数年間出版社勤務を続け、様々な本を出版してきました。癌を発病し、苦しい長い闘病生活を経験し、癌の告知と前後して、会社を辞めて文筆活動を始めました。

彼女は癌になった感覚をこんな風に書いています。

「一心不乱に、勝手な編み物がすすめられている。何者かによって。ものすごい速さで。私の意志はそっちのけで。そして異常な細胞が美しい編目で編まれて『どう?とてもステキでしょう』と誇らげにヒトの体にまとわりつく」

この本は、よくある癌闘病記ではありません。病になって、世の中の大きな流れから一歩身を引いた時、見えてきた事をざっくばらんに語った本です。生態系も、人間関係も、ぶっ壊しながら猛進する資本主義というものは、人類全体にとっての似合わない服なんじゃないか?著者は癌という病を得て、「Change」が一番大切だと気づきます。自分が変われば、世界は変わると。

「病むということは、その人にとって何かが間違っているというシグナルなのである」と著者は言います。ならば、病んだ社会というのは、何かが間違っているというシグナルという事です。

アウトドアカルチャー「パタゴニア」創始者、イヴォン・シュイナードは映画「180°SOUTH」(DVD2500円)で「世界中のほとんどの問題は方向転換すれば解決する。欠陥のあるシステムを維持する必要はない」と語っています。

間違っているならば、方向転換すればいいだけの話なんですが……..。

 

これからの生き方を考える雑誌「ちゃぶ台」(1620円)2号入荷中です。

今回の特集は三本。『「食×会社」を考える、』、「会社の終りcompanyの始まり」、「百姓のすすめ」です。難しい話が並んでいるわけではありません。ま、ちょっと、ここらで一休みしながら読んでみませんかというノリですね。

例えば、同社から出ている「小商いのすすめ」(1728円)「消費をやめる」(1728円)の著者平川克美さんのインタビューはのっけから笑えます。これからの会社像をにお伺いしたところ、こんな答えが返ってきました。

「実はぼくがやっている会社のひとつが、もうじき解散することになりまして。で、来月には、会社の借金精算などで、家がなくなり貯金が全部なくなるんです。とほほでしょ。でも、なんか気持ちいいんですよね」

この脱力感!でも、ここから、株式会社というシステムが、何かあった時に、誰も責任をとらない組織だ、という話へ持っていきます。(詳しくは本誌で)

当店の近所に「坂ノ途中soil Annex」というオーガニック野菜を販売する店がオープンしました。ここは、「環境負荷の小さい農業を実践する農業者を増やすこと」を目的に設立した(株)坂ノ途中とタイアップしている店舗です。(株)坂ノ途中のオーナー小野邦彦さんが「ブレのある野菜を流通・販売する」というテーマで書かれています。有機農業や化学肥料への依存を下げた農業に挑戦する人達を支援し、彼らの作った農作物がより多くの消費者の元に届くよう販売している会社です。

低コスト、安定大量生産型農業は、農薬、化学肥料に頼らざるを得ません。結果、環境への負荷は増大し、水質汚染や土壌劣化を招きます。低コストは将来残しておくべき環境資産を食い潰して実現されている、という現状に危機感を持ったオーナーは、この資産を「未来からの前借り」と捉え、

「未来からの前借り、やめませんか」とメッセージを投げかけます。

これが、(株)坂ノ途中社のスローガンになっています。戯れ言を繰り返す農林大臣には、ぜひお読みいただきたいものです。

どこから読んでも、興味深い話満載です。その中に、やはり同社から「何度でもオールライトと歌え」(1620円)を出版した後藤正文さんが、選挙に行くことが政治的行為だが、日々の日常生活で何を買うかということも政治的だと発言されていますが、これは十分説得力がありました。

一緒に紹介した本もご興味があれば、当店ミシマ社コーナーに置いています。

 

 

★他店のイベントお知らせ

銀閣寺「古書善行堂」にて。11月13日(日)「古本屋ツアー・イン・ジャパン」の小山力也さんが来店されます(12時〜17時)。古本を巡るお話が出来そうです。何やら、特典も有りそう。詳しくは善行堂075−771−0061まで

浄土寺「ホホホ座」で開催中の「PANKICHI個展『本屋と女の共犯関係』」展には、PANKICHIさんが書いた本屋さんのイラストと物語が一緒になった作品展です。その本屋の中に当店も入れて頂きました。13日(日)まで開催です。

13日の日曜は、善行堂→ホホホ座→レティシア書房という本屋巡りで決まり(!?)ですね。

 

 

人生は選択の連続です。この道を行くか、あちらの道か、電車にするか、バスにするか、から「死ぬべきか、生きるべきか」まで。

どういう仕事を自分の仕事とするか、誰と生きるか、何処で生きるかという選択の場面も何回も巡ってきます。その立場に立たされた人達へのインタビューを通して、なんで、何を思ってそっち選んだん?、ということを考える本がミシマ社から出ました。石井ゆかり著「選んだ理由」(1512円)です。

登場するのは、ほとんど京都の方々。河原町にある「エレファント・ファクトリーコーヒー」、合気道の篠原先生、フリーカメラマンの吉田さん、高校生の赤井結花さん等々七人が登場します。

新刊書店の平台でいばりちらしている自己啓発本やら、自分探しの本と、この本が、全く異なるのは、著者が全く相手のことを知らされずに、インタビューするという企画にあります。題して「闇鍋インタビュー」。その場を通して、その人だけが持っている選び方、選ぶべき拠り所が見えてきます。

「もし、本書を読んだ後に、読者がご自身の中にある、個性的な『選び方』『選ぶ理由』の存在に気づかれるようなことがあるとすれば、著者としてこれ以上の喜びはない。」と著者は書いていますが、個性的な方々の話に耳を傾けてはいかがでしょうか。

そして、実は、この本から浮かび上がってくるのが著者の生き方、考えかたなのです。例えばミシマ社の吉田さん相手のインタビューでは、こう書かれています。

「多くの人が『やりたいこと』を探す。『何がやりたいか解らない』と悩んでいる。でも、本当に見つめていなければならないのは、『やりたくないこと』なのかもしれない。自分の中の『NO』を知っていることが、羅針盤となることもある」

ところで、 後半登場する中川さんの肩書きが面白い。「イラストレーターと僧侶 中川学」であり「瑞泉寺 住職 中川龍学」。ご住職の名刺の下には「豊臣秀次ご一族の菩提寺」と書き込まれています。先日、大河ドラマ『真田丸』では、その悲しい末路が描かれていましたね。このインタビューがとてつもなく面白い。人生の岐路で、この道を選んだ時、あ〜あっちを選んでたら、と思うことって多々ありますが、中川さんは、そうじゃない。選ばれなかった選択肢などない、という驚くべき結論へと向かいます。詳しくは、本書をお読み下さい。

 

数学に登場する「微分」、「積分」をこう読んだ輩がいました。曰く、

「『微分』とは微かに(かすかに)分かる。『積分』とは分かった積もり」

「積分」を漢文のレ点を振って読む辺りに、この人物のセンスの良さが見えてきます。数学の重要な項目を、こんな風に茶化したのはエッセイストの小田嶋隆。そして、このエッセイ「オダジマタカシの贈り物 奇跡が起きるとき」を掲載しているのが、ご近所のミシマ社が発行した「みんなのミシマガジン×森田真生0号」(1944円)です。

タイトルに上がっている森田真生さんは、在京の数学者ですが、「数学の演奏会」等のユニークな活動を行い、ミシマ社では「数学ブックトーク」を主宰。「独立研究者」として活動されている方です。

この本は、一応数学を中心に自然科科学について様々な人達が登場し、語ります。と、聞いただけで、おい、数学かよ〜と敬遠する方もあるかもしれませんが、これが面白いのです。いや、正確に言えばスリリングな一冊!!。

森田さんの「数学ブックトーク」をイントロにして、何故数学研究への道に進んだか、そして数学者岡潔(当店でも人気)の作品との出会いへと進みます。決して彼の研究成果発表の本ではありません。彼が数学を通して何を学び、考えていったかが書かれています。

「急がず、かといって怠けることなく、一日一日、小さな自分の命で、全身全霊『部分』を生き抜く。そうして生きられた時間の細やかな断片にこそ、人間を越えた大きなものを彷彿させる力が宿るのだろう。」

勿論、すべてがスルスルと理解できるものでもありません。「無限は、有限を媒介として、数学者の心の中に彷彿させられるものなのである」と言われても、ひぇっ〜て感じなのですが、硬い言葉に再度チャレンジしてやろうとさせるところが、この本のスリリングな所です。立川一門の落語家、立川吉笑さんの「数学落語ー台本問題」や、人口生命研究家、池上高志さんとのインタビュー「科学する身体」が収録されていて、読者を飽きさせない編集も良く、知的好奇心向上と、脳内活発化には最適の一冊です。

やわな本売る暇あったら、書店員はこの本売るべし。もちろん、私は買いました。

森田さんが「ブックトーク」で取り上げられた本についての紹介があり、第二次大戦中に、ドイツUボート艦隊で使用された暗号システム「エニグマ」を解読したアラン・チューリング伝です。映画「イミテーションゲーム」で主役のB・カンバーバッチが演じていたので、読んでいたらさらに面白かったはずの一冊です。この本の紹介の最後にこうあります。

「未知の荒野に立ち入る知性の勇気。学問の道はそこから開けると、この本はいつも、僕に教えてくれる」

明日は、同時発売の想田和弘の「観察する男」の紹介です。

雑誌「ちゃぶ台」(1620円)発売です。全く広告が入っていません。だから、びっしりと読めます。創刊号の特集は「これからの生き方を考える移住×仕事」特集です。執筆陣を見て、読んでみたいと思われる方も多いはず。

内田樹、西村佳哲、益田ミリ、内澤旬子、佐藤ジュンコ、甲野善紀等々、当店でも人気の著者が並んでいます。そして、ページをめくると、編集部の気合い迸るこんな言葉が飛び込んできます。

「最初から最後まで読み通したくなる雑誌をめざしました。」

その言葉通り、面白い記事が並んでいます。

「移住」のキーワードで取り上げられているのは、最近、人口流出よりも流入が多い、瀬戸内海で三番目に大きい島、周防大島。ここで暮らす人々のことを、ミシマ社代表の三島邦弘さんがレポートします。

過疎に悩む島や地方では、様々な移住促進政策を行っていますが、そこには大きな落とし穴があります。これだけの人数は来てくれたという数至上主義的な考え方です。でも、この島にはそれがありません。数だけ揃えばそれでいいのかという問題ではありません。

その話を受けて、三島さんは数だけ揃えるという風潮にこう考えます

「女性の役員数を何割にしよう、といった話を聞くたび、違和感をおぼえていた。表面だけ繕っておけば、実体がともなっていなくてもOK。責められても、ちゃんとエクスクキューズするから。そんな浅はかさがすけすけだからだ。表面的数字が達成されようと、一人一人の幸福度が下がってしまっては本末転倒ではないか」

その通り!拍手、拍手!!

一人一人の幸福度を見つけようと、この島に渡ってきた若者達。彼等を前に内田樹先生が「街場の農業論」という講演をされました。もちろん収録されています。内田節炸裂のお話ですので、精読して下さい。

「世界屠殺紀行」、「身体のいいなり」等の著書内澤旬子さんも、小豆島に移住した一人だ。独身女性の移住はうまくいかないと回りから散々言われたみたいですが、なんと島には独身の女性移住者がとんでもなく多くいたことに驚く。暮らし優先の自然体の彼女たちの将来のことへの不安を感じながらも、見守る著者の視線に共感しました。

と、どんどん読み進めたくなる記事が満載。「ガケ書房」の山下店長達が立ち上げた企画編集グループ「ホホホ座」の対談「なのにあなたは京都にきたの?」もお薦めです。今回のお相手は、2013年に海外から制作拠点を京都に移した画家、下條ユリさん。「左京区女子」なんて言葉があったんですな。

付録「ちゃぶ台便り」も付いて元気に発売中です。「文藝春秋」に負けるな!