数学に登場する「微分」、「積分」をこう読んだ輩がいました。曰く、

「『微分』とは微かに(かすかに)分かる。『積分』とは分かった積もり」

「積分」を漢文のレ点を振って読む辺りに、この人物のセンスの良さが見えてきます。数学の重要な項目を、こんな風に茶化したのはエッセイストの小田嶋隆。そして、このエッセイ「オダジマタカシの贈り物 奇跡が起きるとき」を掲載しているのが、ご近所のミシマ社が発行した「みんなのミシマガジン×森田真生0号」(1944円)です。

タイトルに上がっている森田真生さんは、在京の数学者ですが、「数学の演奏会」等のユニークな活動を行い、ミシマ社では「数学ブックトーク」を主宰。「独立研究者」として活動されている方です。

この本は、一応数学を中心に自然科科学について様々な人達が登場し、語ります。と、聞いただけで、おい、数学かよ〜と敬遠する方もあるかもしれませんが、これが面白いのです。いや、正確に言えばスリリングな一冊!!。

森田さんの「数学ブックトーク」をイントロにして、何故数学研究への道に進んだか、そして数学者岡潔(当店でも人気)の作品との出会いへと進みます。決して彼の研究成果発表の本ではありません。彼が数学を通して何を学び、考えていったかが書かれています。

「急がず、かといって怠けることなく、一日一日、小さな自分の命で、全身全霊『部分』を生き抜く。そうして生きられた時間の細やかな断片にこそ、人間を越えた大きなものを彷彿させる力が宿るのだろう。」

勿論、すべてがスルスルと理解できるものでもありません。「無限は、有限を媒介として、数学者の心の中に彷彿させられるものなのである」と言われても、ひぇっ〜て感じなのですが、硬い言葉に再度チャレンジしてやろうとさせるところが、この本のスリリングな所です。立川一門の落語家、立川吉笑さんの「数学落語ー台本問題」や、人口生命研究家、池上高志さんとのインタビュー「科学する身体」が収録されていて、読者を飽きさせない編集も良く、知的好奇心向上と、脳内活発化には最適の一冊です。

やわな本売る暇あったら、書店員はこの本売るべし。もちろん、私は買いました。

森田さんが「ブックトーク」で取り上げられた本についての紹介があり、第二次大戦中に、ドイツUボート艦隊で使用された暗号システム「エニグマ」を解読したアラン・チューリング伝です。映画「イミテーションゲーム」で主役のB・カンバーバッチが演じていたので、読んでいたらさらに面白かったはずの一冊です。この本の紹介の最後にこうあります。

「未知の荒野に立ち入る知性の勇気。学問の道はそこから開けると、この本はいつも、僕に教えてくれる」

明日は、同時発売の想田和弘の「観察する男」の紹介です。

雑誌「ちゃぶ台」(1620円)発売です。全く広告が入っていません。だから、びっしりと読めます。創刊号の特集は「これからの生き方を考える移住×仕事」特集です。執筆陣を見て、読んでみたいと思われる方も多いはず。

内田樹、西村佳哲、益田ミリ、内澤旬子、佐藤ジュンコ、甲野善紀等々、当店でも人気の著者が並んでいます。そして、ページをめくると、編集部の気合い迸るこんな言葉が飛び込んできます。

「最初から最後まで読み通したくなる雑誌をめざしました。」

その言葉通り、面白い記事が並んでいます。

「移住」のキーワードで取り上げられているのは、最近、人口流出よりも流入が多い、瀬戸内海で三番目に大きい島、周防大島。ここで暮らす人々のことを、ミシマ社代表の三島邦弘さんがレポートします。

過疎に悩む島や地方では、様々な移住促進政策を行っていますが、そこには大きな落とし穴があります。これだけの人数は来てくれたという数至上主義的な考え方です。でも、この島にはそれがありません。数だけ揃えばそれでいいのかという問題ではありません。

その話を受けて、三島さんは数だけ揃えるという風潮にこう考えます

「女性の役員数を何割にしよう、といった話を聞くたび、違和感をおぼえていた。表面だけ繕っておけば、実体がともなっていなくてもOK。責められても、ちゃんとエクスクキューズするから。そんな浅はかさがすけすけだからだ。表面的数字が達成されようと、一人一人の幸福度が下がってしまっては本末転倒ではないか」

その通り!拍手、拍手!!

一人一人の幸福度を見つけようと、この島に渡ってきた若者達。彼等を前に内田樹先生が「街場の農業論」という講演をされました。もちろん収録されています。内田節炸裂のお話ですので、精読して下さい。

「世界屠殺紀行」、「身体のいいなり」等の著書内澤旬子さんも、小豆島に移住した一人だ。独身女性の移住はうまくいかないと回りから散々言われたみたいですが、なんと島には独身の女性移住者がとんでもなく多くいたことに驚く。暮らし優先の自然体の彼女たちの将来のことへの不安を感じながらも、見守る著者の視線に共感しました。

と、どんどん読み進めたくなる記事が満載。「ガケ書房」の山下店長達が立ち上げた企画編集グループ「ホホホ座」の対談「なのにあなたは京都にきたの?」もお薦めです。今回のお相手は、2013年に海外から制作拠点を京都に移した画家、下條ユリさん。「左京区女子」なんて言葉があったんですな。

付録「ちゃぶ台便り」も付いて元気に発売中です。「文藝春秋」に負けるな!

 

 

西村雅子編集による「”ひとり出版社”という働き方」(河出書房1300円)は、独立系出版社で苦労する出版人のドキュメンタリーなのですが、それ以上に働くということを根本的に見つめた素晴らしい一冊です。

ここには、当店もお世話になっている、タバブックス、夏葉社、サウダージブックス、ミシマ社、土曜社等の十数社が登場します。本の製作から販売、管理まで一人でやるなんて無謀といえば、無謀なんですが、皆さん、いや〜儲かりませんなどと言いながら、喜々として仕事に取り組んでおられます。

最初に登場する「小さい書房」代表の安永則子さんは、育児しながらフットワーク軽く好きな本を出されているから驚きです。夫のお金を使わずに、自分の貯金で事業を軌道に乗せるのに「三年では短すぎるし、十年では長過ぎる」だから5年を目処にがんばっておられます。

東京から京都に移ってきたミシマ社は、正確に言えば「ひとり出版社」ではありません。社員数名の小さな出版社です。本の大事な役割は、世の「小さな声」を拾うこと、と社長の三島邦弘さんは言い切ります。だから、大企業と同じ方法でやっても無駄、面白い人材を集めて、新しい企画を出していくことが役目。最近新たに刊行された「コーヒーと一冊」シリーズは、今までにない切り口の本ばかりで、松樟太郎「声に出して読みづらいロシア人」は当店でも人気の一冊です。

さて、小豆島から発信する「サウダージブックス」の浅野卓夫さんの経歴はちょっと変わっています。元々、文化人類学の研究者を志し、人類学者の山口昌男の書生だった方です。それが、彼が出会った三人の古老との体験(これが面白い)を通して、小さな島で出版社を立ち上げる道へと向かっていきます。プロレタリア文学者の黒島伝治作品を集めた「瀬戸内海のスケッチ」(2160円)や、被爆して、戦後自ら命を断った作家原民喜の短篇小説集「幼年画」(1728円)といった、あまり目立たない作家に注目したり、「焚火かこんで、ごはんかこんで」(1620円)、「感謝からはじまる漢方の教え」(1512円)と暮しに密着した本など、地方発の出版社としての理念を持った作品を出しています。

新刊書店に勤めていた頃、出版社の営業マンから「もっと、積んでくださいよ、いつでも返本していいですから」とはなから、いつでも返本してねという”ぬる〜い”営業が嫌でたまりませんでした。でも、これらの独立系出版社はそうではありません。真剣に、情熱をもって製作した本を、売れる数量を吟味して販売する。それこそ、真っ当な販売だと思います。

レティシア書房が続く限り、この本に載っているいないにかかわらず、一人、二人でがんばっている出版社は応援します!

 

福岡の宅老所に集まる老人達との日々を追いかけた、当店で人気のミニプレス「ヨレヨレ」。老人の現状を扱った雑誌ですが、編集者自ら「読んでも役に立たないかもしれません。」と言うぐらい変な雑誌です。

この変な雑誌の表紙のイラストがまたユニーク。創刊号が宮崎駿、2号が忌野清志郎、3号がアホの坂田の似顔絵ですが、どの号も見事に彼等の個性を捉えているのが素敵です。これを描いているのが、弱冠11歳のモンド君です。今回、在京の出版社ミシマ社の企画で「モンドウィーク」なるイベントが本日より始動しました。

比較的ご近所の8店の店に、モンド君の作品が、数点づつ飾られていて、それを観ながら、何かお買い上げいただくとスタンプを捺します。そのスタンプを三つ集めると、素敵なモンドくんグッズが貰えるという企画です。参加店舗は下記の通りです。

ミシマ社

ブックカフェUNITE

ギャラリー nowaki

古書&CDヨゾラ舎

カフェHiFiCafe

新刊書店 三月書房

古書&CD10000tアローントコ

カフェItalGabonです。

ポストカード以外にも、彼が挿画を担当した甲野善紀著「今までにない職業をつくる」等も販売しています。

なお、8月9日(日)には、ミシマ社にて「モンドくんの似顔絵さん」、モンド君のお父さんのボギーさんの「ボギーさんに聞く、子育てと絵のはなし」という楽しそうなイベントもあります。(要予約)

 

 

 

東京自由が丘で立ち上げた小さな出版社「ミシマ社」が、京都へ来て数年。当書房から、そう遠くない川端丸太町にオフィスを構えて、独自の流通方式で良書を届けています。最近出版された井川直子「シェフを『続ける』ということ」(1944円)は、イタリアで修行した15人のシェフにインタビューして、彼等なりの「継続は力なり」を読者に届けてくれます。

そのミシマ社から、全国365人の本屋さんが中高生に心から推す「この一冊」をコンセプトにして、「The Books green」(1620円)が刊行されました。京都からは、新刊書店、古書店など22店舗が参加。私も声をかけていただき、一冊推挙いたしました。「中高生に」という企画ですが、大人が読んでも面白い本ばかりです。大江健三郎「新しい人よ目覚めよ」、ポール・オースター「ムーン・パレス」、「萩原朔太郎詩集」など、お〜っ、これを推挙するかぁ〜と、思って、推挙の理由を読むと成る程と納得したりします。

その本のここを読め!みたいな推薦者の手描きポップと、「次の一冊」というさらなる一冊のお薦め本の紹介、そして紹介された方のお名前、勤務先と住所までが記載されています。気になる本屋さんを訪ねてみるのも楽しいかもしれません。

私がパラパラと読んだ中では、西原理恵子の「この世でいちばん大事な『かね』の話」を紹介されていました。ごもっとも!、高校生にも、大人にも読んでもらいたい本ですね。

因みに私が選んだのは、池澤夏樹「アトミック・ボックス」

「少女は知恵と度胸で危機を突破する」がポップです。推薦理由?、それは、この本をお買い求めください。(本日入荷予定)

ミシマ社からは同時に、甲野善紀著「今までにない職業をつくる」(1728円)という、これまた読んでみたい本が出ました。武術研究者として35年のキャリアを誇る甲野先生が「自分の感覚を育て、現在の我々が置かれている状況をよく観察し、自分自身がより納得できる生き方をするために、自分の仕事を選ぼうという若い方の参考に」と書かれたものです。