19世紀末イギリスの裕福な家庭に生まれて、文化人に囲まれて育ち、20代後半から作家活動を始め、新しい文学の旗手となって活躍し、59歳で自殺したヴァージニア・ウルフ。彼女の魅力を丸ごと一冊にまとめたミニプレスが入荷しました。タイトルがすごい!「かわいいウルフ」(1944円)ですよ!ヴァージニア・ウルフも「かわいい」で括られるか。研究者なら卒倒しそうなタイトルですが、これ、やわな内容ではありません。面白い!!

この本を企画した小澤みゆきさんは「ヴァージニア・ウルフは、かわいい」と宣言します。

ウルフの小説は、人の意識の揺らめきを流れるようにして描く作家です。また、動植物や、町の風景を執拗なまでに描きこみます。その描写力を小澤さんは、こう語ります。

「人物の言動や意識が実にチャーミングで、人間臭く、茶目っ気にあふれているかがわかります。シリアスさと同じくらい、ユーモアを大切にしていた作家が、ヴァージニア・ウルフなのです。そのシリアスとユーモアを行き来する様子を、私は<かわいい>と形容したいと思います。」

小澤さんは、さらに長編小説の<かわいい>を四つのきり口に分けています。それは、「おままごと」「異世界転生」「かくれんぼ」「演劇」です。そして、ここからウルフの長編小説に切り込んでいきます。ウルフ作品で、最もポピュラーな「ダロウェイ夫人」を「おままごとするウルフ」へ。また、最もポップで針が振り切れて、行き着くとこまで行っちゃった「オーランドー」を「魔界転生<生/性>ラノベ作家」とした小論など、そうくるかと感心しまくりです。

海外文学好きには外せないのが「ヴァージニア・ウルフ短編集」(ちくま文庫/古書950円)を翻訳した西崎憲へのインタビューです。この短編集に入っている、たった2ページの「青と緑」は、散文詩みたいな作品ですが、これ原本を横に音読したらきっといいと思います。

小澤さんは、ウルフの小説紹介だけでなく、「灯台へ」に登場する「牛肉の赤ワイン煮込み」を調理してレポートしています。さらに、ロンドン郊外のキュー王立植物園を舞台にした作品”Kew Garden”を翻訳し、深い理解力の一端を披露してくれます。この小説の冒頭は、極めてウルフらしい滑り出しです。

後半のウルフを巡る映画の話も、オタク的感性爆発で面白く読みました。ところで、昨年観た傑作「ア・ゴースト・ストーリー」が、ウルフの短編をモチーフにしていたとは知りませんでした。

ウルフファンだけでなく、小説大好きの方にオススメの一冊です。

 

★イベントのお知らせ

6月5日(水)より「世界ひとめぐり旅路録」展をされる小幡明さんが、14日(金)19時半より、FMひらかたパーソナリティー久保有美さんと一緒に「小幡明の旅の話アレコレ」と題したトークショーを当店にて開催します。(参加費1000円/要予約)


「『棲む』ところを少しでも快適に自分らしく素敵にしたいと思っているあなたに。よりよく暮らすための、よりよく生きるための『衣、食、住』の提案をしてゆきます」

というコンセプトで、2009年秋創刊された「棲」(すみか)が、15号を持って廃刊します。10年間で15冊を発行し、自分にとって本当に価値のある暮らしって何?を、様々な角度から追い求めてきた雑誌でした。今でこそ、大きな書店の女性誌のコーナーに行けば、異口同音の”素敵な暮らし”の本が並んでいます。そのほとんどが、おしゃれであっても商品の羅列に終わっているもののような気がします。どこからも住んでいる人の匂いが漂ってこない雑誌が多いようです。

しかし、「棲」には、そこで暮らす人々の思いが溢れています。最終15号の特集は「リノベーションからはじまる。」です。「還暦リノベーション」という興味深いタイトルの記事を見つけました。賃貸でありながら、リノベーションができるマンションに引っ越した主人のリノベ顛末記です。マンションの住人たちと協力しながら、新居が出来上がりました。

「ここが『終の棲家』になるかどうかは、まだわからない。でも、母を実家で看取った経験から、たとえば終末期をここで迎えたとしても、いろんな人の手を借りながら住み続けられるような気がしている。大きな介護用ベットだって悠々置けるし、車いすを乗り回せる余裕もある。寝たきりになったとしても、南の窓近くに置いたベッドから空が見える。まあ、先のことはともかく、料理をつくったり、掃除をしたり、ベッドを整えたり、花を飾ったり、そんな毎日のことが今は楽しい。」

この雑誌には、TVや女性誌で紹介されるグレードの高いおしゃれな住まいこそ最高、という考えはありません。日々、どうやって機嫌よく暮らしてゆくか、そのためにどう暮らすべきかという思想が(もちろん、難しくなく)、毎号、毎号語られていきます。

当店でこの雑誌を扱い始めたのは、比較的最近でしたが、毎号全て完売でした。14号「家をつくる、という冒険」で登場する、馬と暮らす女性のことはブログでご紹介しました。改めて創刊号から揃えてみると、どの号もご紹介したくなます。創刊号から、9号までは515円、それ以降は972円という買いやすい価格です。すでに9号「本があるから」は、売れています。

そして、毎号連載されている「こんなとき、こんな音楽」で取り上げられる音楽は、パーフェクトに素晴らしい。うちのCD仕入れをお願いしたい!と思うほどです。マニアックな音楽の紹介ではなく、あくまでこの本の「日々好日」的ラインナップです。岐阜のカフェ「ミル」店主のセレクトですが、このカフェにも行ってみたくなります。脱帽のCD紹介ですよ。

 

レティシア書房はゴールデンウイーク中も通常営業しております。(4月29日は定休日)

 5月6日(月)〜8日(水)は連休いたします。

 

ようわからんタイトル、正確には「パリのガイドブックで東京の町を闊歩する1 まだ歩き出さない」です。歩くのか、歩かんのかどっちやねん、と関西弁でツッコミたくなります。出版しているのは「代わりに読む人」。著者は友田とんさん。縦長のガイドブック風で756円。

「東京の町のガイドブックを頼り、目的地を決めてしまったら、おそらくそこへの最短な経路を歩いてしまうだろう。」だから、「代わりに私はパリのガイドブックを握りしめる。東京を歩くために、パリのガイドブックをこれほど熟読した人間はいないという確信がある。その時、何が起こるのだろうか? 試してみようと思う」

というのが、趣向です。へそ曲がりと言えばそれまでですが、案外面白いのです、この本。

この著者には、ガルシア・マルケスの「百年の孤独」をタイトルに入れた「『百年の孤独』を代わりに読む」という本があります。「リュックに『『百年の孤独』を代わりに読む』の在庫とパリのガイドブックを詰めて、私は都内を歩き回った。」から、スタートします。

荻窪にある書店Titleに向かい、ここに本を置いてもらえることになります。ここから、店主の辻山さんとのやり取りや、自著が売れてゆく様が描かれていきます。著者は、この書店のカフェで出されているフレンチトーストの匂いに惹きつけられて、何度も通うのですが、ご縁がなく、いつも売切れ。やっと食べることが出来るまでが描かれていて、それがなんか微笑ましく面白いのです。フレンチトーストの写真を見ると、確かに美味しそうです。Titleさんに行ったら、私も注文してみよう。

「何度来ても食べられないという展開がコントのようですねと言うと、辻山さんが『カフカの『城』のようでもありますね』とおっしゃった。カフカの『城』で主人公の測量士Kは結局、城に行ったのだろうか。『城」とフレンチトースト。私はフレンチトーストにいつかありつけるのだろうか」といった風に綴られます。

ところで、これがパリのガイドブックとどう関係するのか?

「Kが城にたどり着けないように、私はフレンチトーストにたどり着けず、またどうやったらパリのガイドブックで東京の町を歩けるのかわからない」

東京の町とパリのガイドブックという異質のものを結びつけようとする、ある種文学的試みが面白くて、一気に読んでしまいました。最終章は「ポストフレンチトースト」です。ガイドブックを深く読み込むことで、異次元の東京が飛び出すかもしれない、という無茶な試みですが、書名に「1」と入っている以上、続くみたいです、早く読みたい!ちなみに著者は京都出身(関西人やん!)です。

 

 

★勝手ながら、4月22(月)23日(火)連休いたします。よろしくお願いします。なお、ゴールデンウィーク中は通常通り営業いたします。(店主)

一人で、或いは仲間と一緒にミニプレスを発行してる女性が多くなってきました。京都なら「気になる京都」の太貫まひろさん、「台湾手帳」の田中六花さん、「APIED」の金城静穂さん、大阪なら「ほんと本屋と私の話」の宮井京子さん、岡山なら「おきらく書店員のまいにち」のいまがわゆいさん、東京の「1/f」(エフブンノイチ)の長尾契子さん。まだまだおられます。

その中で、様々な切り口で読者を増やしている「1/f」」のバックナンバーフェアを始めました。(6月中旬まで)

2015年に創刊し、7号まで発行されています。「ここちよい、ヒト、モノ、ストーリー探し求めるリトルマガジン」を標榜し、毎回「おやつ」「夜の時間」「ひとりの時間」「旅」などをテーマにしています。当店では、創刊号から取り扱っていて、創刊号の「草餅の作り方教えてください」という特集で、あっという間に完売しました。2号「光とくらし」、3号「祝いと食事」、4号「乙女の遊び」、5号「眠れない夜」、6号「一人の時間」、7号「手にひらサイズの旅」と、毎回違った特集で読者を楽しませてくれます。

毎回本が取り上げられている、ミニ特集のセレクションが渋い! 創刊号では、シャーロット・ブロンテの「ヴィレット」を取り上げ、その中に登場するシードケーキをテーマに語っていきます。5号では、タブッキの「インド夜想曲」が、眠れない夜にぴったりと取り上げられています。主人公ロショニルがインド各地を巡ってゆく物語で、イラストの地図を駆使して、この物語の世界が解き明かされています。6号では、「ひとり時間を過ごす女性たち」というテーマで、ブロンテ、林芙美子、アン・モロウ・リンドバーグ、オーバル・ウィットリーがピックアップされました。本好きには見逃せないものばかりですが、3号の「作品から見る『祝いと食卓』のかたち」で取り上げられた「バベットの晩餐会」を、特に面白く読みました。

今回のフェアでは、創刊号から最新号までに加えて、発行者の長尾さんが描いたイラストを元にしたポストカードセットも販売しています。創刊号から3号までは在庫僅少ですので、まだお持ちでない方はお早めに。(京都では当店とホホホ座浄土寺店のみの取り扱いです)

ところで、こんな本が手元に届きました。「かわいいウルフ」です。英国の作家ヴァージニア・ウルフをいろんな角度から読み込んだ文芸誌です。このタイトル、厳格な英国文学研究者なら、卒倒しそうなタイトルですが、中々奥深い内容です。発行人は、神奈川在住の小澤みゆきさん。また新しいミニプレスが登場しましたが、当店でも販売開始します。発売は5月上旬です。(ご予約受付中)

★勝手ながら、4月22(月)23日(火)連休いたします。よろしくお願いします。なお、ゴールデンウィーク中は通常通り営業いたします。(店主)

 

古本屋巡りの好きな方なら、いつも楽しみにされている「本と本屋とわたしの話」最新15号(250円)が入りました。数十ページの薄い冊子ですが、本好きには応えられない内容です。

神戸六甲にあった「宇仁菅書店」に通いつめた戸田勝久さんが、この店の思い出を書いた「消えた古書店2ー神戸宇仁菅書店」。店内はグレングールドの「バッハのゴールドベルグ」が始終流れて、「店の中は宇宙で、書物が星座を描くように分類の枠を超え、『宇仁菅センス』に依って、『星』が丁寧に配置されていた。客は謎解きをするようにあちこちに散りばめられた星を巡って本を買い、また棚に並んだ本を見ながら宇仁菅さんが仕込んだ連想ゲームに引き込まれて行った。」

これは、本屋のあるべき姿でしょう。個性的な小さな書店は、日々、ああだこうだと考えながら棚を作っているものです。ここではおそらくお得意様だけだと思いますが、美味しい珈琲が楽しめたらしい。しかし2012年、店主が亡くなり閉店されたのだそうです。

「このように濃密に通う古書店と出会う事は無いだろう。私の人生の後半に良い店と出会えて幸せな『書店人生』だと思える六十五歳のこの春だ」と書かれています。

南房総市千倉発の「0470」(無料)の最新50号は、安西水丸の特集です!幼い頃、この地に住んでいた安西の足跡を辿っていきます。そういえば93年に出版された「荒れた海辺」は、安西の幼少の思い出が詰まった名著で、この本に登場する様々な場所が写真入りで紹介されています。

「昇(安西水丸の本名は渡辺昇)とは同級生で小学校、中学校と一緒でした。昇は小さな頃にお母さんと千倉へ引っ越してきたんです。」とは幼馴染みの山本初治さん。彼が安西の少年時代を語ります。これは、レアな企画ですね。また、「水丸さんを感じる」というページでは、南房総で彼の作品世界を感じる場所が写真と文章で取り上げらてれいます。南房千倉大橋には、安西のタイル画がはめ込まれていて、ファンなら一度は行ってみたい場所です。フリーペーパーなので、お早めにどうぞ(後10部程です)

 

 

 

最後に個展の情報です。詩とクロッキーとマンガをセットにした作品集「中庭」、「痙攣」(各324円)を出している古井フラさんが、奈良大和郡山(京都から近鉄で1時間)にある素敵な古書店「とほん」で、5月10日から29日まで「トリミング展クロッキーと詩」展をされます。古井さんのクロッキーは、上手いなぁ〜と思っていて、いつか当店でも個展をお願いしようかと思っていました。GWが終わった後の奈良なら散策にも最適です。

 

ミニプレス、古本、そしてギャラリーを併設している「ON  READING」という書店が、名古屋にあります。ご存知の方も多いと思います。私は、レティシア書房を開店する前、お伺いして色々とお話をさせていただきました。この書店が「ELVIS PRESS」という出版部門を立ち上げたので、本を入荷しました。

今回入荷の本で、目玉は田口美早紀のイラスト集「We Are Animals」(1404円)、「This is Sports」(1404円)です。静岡生まれ、大阪在住の若手イラストレーターで、雑誌等で仕事をされています。

新作「We Are Animals」は、タイトル通り、動物たちの仕草や習性をユーモアたっぷりに描いた一冊です。単に可愛いイラストではなく、きちんと動物の種目別に作品が並んでいます。

霊長目オナガザル科で、まず登場するのはニホンザルで、お気楽そうに温泉に入っています。その次は、テングザル。本物?の天狗と肩を並べているイラストで、キャプションに「天狗のような大きな鼻をもつ。」と書かれています。「食肉目ネコ科」に登場するマヌルネコなんて初めて知りました。「じっと動かず岩になりきる」という言葉通り、うずくまっている姿には笑えます。このネコ、世界最古のネコで、しっぽを振ってネズミに催眠術をかける、なんて説明がありますが、ホント? 各科目ごとに最後のページで、「食肉目ネコ科の皆さん」というようにキャプションが付いた記念写真、じゃなかった記念イラストが載っていて、いい味を出しています。

「This is Sports」は、ユニークなスポーツ紹介イラストです。野球、テニス、卓球、バスケットボール、サッカー、陸上、プロレス等々のスポーツをテーマにそれぞれの動きをユーモラスに描いてあります。例えば、バレーボールってどういう競技?と聞かれたら、正確に答えられますか?この本には、英語と日本語で完結に書かれてあります。英語圏の方々とも会話できるかも。砲丸投げ、走り幅跳びなどのふわりと浮遊した感覚を楽しみ、プロレス編の卍固めや、フライングボディプレスの極上のユーモア感覚に笑える一冊です。

「熊彫」(1620円)は、昭和10年に名古屋の徳川美術館を開いた徳川義親が、支援していた北海道八雲の木彫り熊を集めた作品集です。木彫熊を土産物として、工芸品としてブランド化したのが義親だったのです。木彫熊の歴史、貴重な昭和初期の熊彫制作に写真なども収録してあります。

「これらを彫り上げた一工人であり一作家である彫り手たちの意志、そして義親がどんな思いで一農民である彼らの暮らしを支えたのか、彼らの生きた時代、その思いを、このささやかな書を通して思い描いて頂ければ幸いです。」

木彫熊の過去そして、その様々なスタイルを知るには絶好の書です。

 

 

長崎発の雑誌「らく」(イーズワークス1080円)最新号の特集は「愛すべきローカル線〜島原鉄道〜」です。

特集のページをめくると、少年時代に一度は憧れたことのある出発進行のポーズをとる鉄道マンの姿があります。明治時代から、諫早と島原を結ぶローカル線として、地元の人に「しまてつ」という呼ばれて愛されている島原鉄道は、諫早駅から島原外港まで43キロを結ぶ単線。一時間に一本程度、一両編成のディーゼルカーで運行されています。乗客の大半は、地元の高校に通う高校生やお年寄りですが、終着まで1時間15分は、汽車旅の醍醐味に満ちています。鉄道ライターの上野弘介は、この鉄道の車窓の楽しさをこう書いています。

「島原に向かうとき、進行方向の右側に座れば、まるでねはん像のような穏やかな姿の雲仙岳が、島原半島を回り込むうちに荒々しい山容に変わっていく様子が楽しめるし、左側に座れば原湾に移ろう海の景色が楽しめる。島原までの1時間、車窓からは島原半島の素晴らしい景色が絶えず楽しめるのである。」

昨今、海に近い駅が注目されていますが、島原鉄道の古部駅と大三東駅は、駅そのものが防波堤になっているという、極めて海の側を走る鉄道なのです。数年前、私はこれぞローカル線とでもいうべき「釧網線」に釧路から乗り、網走まで一人旅をしたことがあります。北海道ならではの風景を十分楽しんだのですが、3時間はちょっと疲れました。その点、島原鉄道は、全行程1時間少々。私にはちょうどいい時間です。

特集では、車窓風景やこの鉄道の歴史だけでなく、ここに生きる多くの鉄道マンの姿も捉えています。もちろんテッチャンにとっても、魅力的な写真ばかりです。海の真横に位置する大三東駅の姿も見ることができますが、映画のワンカットみたいな風景で、一度は訪ねて見たくなりますね。

 

2007 年に創刊された小冊子『mürren(ミューレン)』は、 「街と山のあいだ」をコンセプトに、独自の視点で山と自然に関する内容をさまざまに企画したミニプレスです。

「創刊 13年目、25号を数える本年 2019 年は、小冊子と は別に、叢書『MURREN BOOKS』シリーズを創刊いたします。 著者のもつ多様な自然観に触れていただくことで、いつしか 読者の方の人生に山と自然の世界が広がっている本シリーズ がそんなきっかけになればと考えております。」そして、その創刊第 1巻は、イラストレーター安西水丸さんの低山歩き の イラストエッセイ集 「てくてく青空登山」が届きました。(1296円)

「味わい深いイラストと、飄々とした穏やかな文章 で知られる安西水丸さんは、多彩な分野に通じ、数多くの作品 を生み出し、交友も広く多くの人に親しまれましたが、一方で ひ と り 静 か に て く て く と 、小 さ な 山 歩 き を 好 む 方 で も あ り ま し た 。 本書は、生前安西さんが各雑誌や小冊子にかかれた、山歩 きに 関 するイラストとエッセイをまとめたもので す。 幼少期に遊んだ裏山を訪ね、戦国武将を慕って城跡に上り、 雨に降られ雷に追われ、山頂でお手製のおむすびをほおばり、 帰 り 道 にド ン グ リ を 拾 って は ポ ケ ット に 入 れ る 水 丸 さ ん 。 没後早 5年が経ちますが、水丸さんは今もなお生き生きと、 私たちに山登りの楽しさを語りかけてくれます。」

本書の宣伝文句をそのまま掲載しました。各地をてくてく歩かれたという安西さんですが、その中に、京都鞍馬山が載っています。夏の暑い一日、彼は鞍馬山から貴船に出るハイキングコースを歩きます。

「本殿金堂までは今まで何度か来たことはあるが、ここから奥の院に出て貴船に下るコースは、歩いたことがなかった。おそらく京都に住んでいる人でもあまり歩いていないだろう」

いえいえ、安西さん、京都人も歩いてますよ。私も何度か歩きました。「マムシ注意」の看板にはドキリとしますが。この山は牛若丸が少年時代過ごした場所だけあって、様々な牛若伝説に満ちています。安西さんは、面白いことを言います。

「ぼくはこの牛若を昔から怒れる若者と考えてきた。つまり、今の時代であるなら、家庭愛に恵まれない暴走族であり、ロックンローラーと見ていいだろう。」

騎馬軍団を率いて疾走する姿は、バイクを暴走させる若者に置き換えられるというイメージなんですね。そんなことを考えながら、杉の木が地面を這い廻っている木の根道を通り、貴船へと向かいます。貴船の川床でビールを飲む著者を描いたイラストが可愛らしい。

この本には1990年「新刊展望」という小冊子に載せた「登山少年だった頃」から、2012年雑誌「BE-PAL」に収録されたインタビュー「山に登って 話をしよう」まで全15本が集められています。中には、初出年不明のものや、どこに出したか不明のものまであります。今や、読めないもののオンパレード。ファンならずとも持っておきたい一冊です。

これからの叢書『MURREN BOOKS』シリーズ、期待度大です。なお最新号「mürren24号ー葉で包む」は、あと数部のみとなりました。お早めにどうぞ。

文庫の判型15cm×10.5cmよりも小さな本が、最近増えています。

先ずは、全4冊にもなる「タミオー日記」です。これは、タミオーさんの海外旅行の記録なのですが、表紙帯に、

「文字が小さいので、虫眼鏡のご使用をおすすめします。ページによって印刷ズレのため、文章が読めないページがあります。あらかじめご了解ください。」

と書かれているように、過剰に過剰に、さらに過剰に書き込まれているので、読めません。じっと見つめていると頭がクラクラしてきます。さらに、現地で撮影した写真やら、描いたイラストやらが縦横無尽にコラージュされていて、もうここまでくると笑うしかありません。「インドアジア編」(1650円)、「東欧と中南米編」(1350円)、「アメリカ、エベレストトレッキング他編」(1300円)、そして「ベトナム、その他アジア、メキシコ編」(2105円)。「「ベトナム、その他アジア〜」に至っては430ページ全ページフルカラーというから、おそれいります。「字が極小なので絵的にパラパラと見る、これが楽しい」とは作者の言葉ですが、しかし、よくもまぁ、これだけ世界を回ったものです。あっぱれ!

この過剰さとは、対照的なのが、箕輪要佑さんの、やはり全4冊の日記のような短編集です。スタートは2000年、第一話「アーケード」から始まり、2015年、第729話「ゆったりシート席」で、一応今のところ終了です。第一巻は「今日というより凶な今日」、第二巻「もうひとつの今日」、第三巻「みぞが埋まるくらいに」、第四巻「よくねたパン」に分かれています。

「スーパーに行く。枝豆の殻が置いてあり食べかけにしか見えないが、どうやら売り物のようである。長野県民でないと食べてはいけないらしく、店員に止められた。『素人はやめた方がいいよ』 私はながの県民ではあるが、まだ素人なので食べてはいけないのだろうか。よくよく考えると枝豆の殻なんて食べたくない。危うく騙されるところだった。」(第672話)

ほんとか?事実なのか、嘘なのか。こんな話が延々続くのですが、現実空間からふわりと抜け出させてくれるところがミソです。価格はすべて520円です。

そして当店ロングセラーはと言えば、小幡明さんの海外旅行見聞ぺーぱー”Papel Soluna”シリーズ(330円)ですね。全24冊すでに刊行されていて、「マレーシア編・韓国編」が待機中とか。20カ国以上の国々を回り、印象的なもの、興味をひいたものをイラストで描いて、冊子にしたものです。本職はデザイナーなんで、絵が上手いのは当たり前にしても、小幡さんが目を留めるものが面白い!

★レティシア書房で小幡明さんの個展を6月5日(水)〜16日(日)に開催します。上記の冊子だけでなく、ハンドメイドの雑貨なども並ぶ予定です。先行して、 4月7日(日)〜29日(月)までホホホ座浄土寺店にて、「胸に絵を灯す」と題したブローチ展が開催されます。そちらもお楽しみに。

ミニプレスに目を通していて楽しいのは、この地方には、こんな作家がいたのかという事実を知る時です。

三重県津市から発行されている「Kalas」最新36号を読んでいると、今井貞吉という作家のことが書かれていました。この雑誌の発行責任者西屋真司さんが、伊勢市にある「古本屋ぽらん」の店主から「津を舞台にした小説みたいだから、あなたにと思って取っておいたんです。」と手渡された今井貞吉の「鄙歌」という小説を読み著者のことを調べ始めたのだそうです。

「それは一組の男女の逢瀬を主軸にした物語だった。昭和初期という舞台設定に即した穏当な内容で、この後も派手な事件など起こりそうにない。三分の一程度まで読み進んだ印象はそんなところだ。それで退屈な話かと言えばそんなことはなく、丁寧に記述された戦前の津の風景にいつしかひきこまれている。」

どんな人物なのか、調べてみたものの手がかりが無かったみたいです。しかし、この地方の文化に詳しい市職員の中村光司さんを紹介され、早速会うことになります。中村さんは、伊勢出身の詩人竹内浩三の研究者であり、三重文学協会会長という肩書きの人物です。

氏との会談で今井貞吉のことが明らかになってきました。今井は、明治37年津市で砂糖商を営む家に生まれます。兄の俊三も、昭和12年「饗宴」という長編小説を発表していました。その兄の影響もあって、貞吉は文学に傾倒していきます。兄と共に上京し、小林秀雄、中原中也、中島健蔵らの文人たちと交流していきます。しかし、昭和20年津市への空襲で家財全てを失い、戦後は兄弟の面倒を見ながら、困窮の生活を送ります。こつこつと作品を発表しますが、話題にもならず、昭和60年八十一歳でこの世を去ります。

こうして詳しいことが判明するなんて、地方の文化研究者や、郷土史家の人たちの知識は半端じゃないですね。好きなことをコツコツと、地道にやるって本当に大事なことです。

西尾さんは、最後にこう書いています。

「三十幾つか過ぎた定職もない男の心理描写には、借り物とは思えない追憶と寂蓼がある。津に暮らす読み手としては、全編を通して流れる街への心情に共感するところも多く、確かにこれは同じ土地で生きた人の手による物語だとの印象を強くする。」

一地方都市で、ひっそりと人生を終わらした作家の本。機会があったら読んでみたいものです。

 

★ただ今開催中の「福井さとこ絵本原画展」に伴い、2月3日(日)18時から、福井さんによるスロバキアのお話会を行います。参加ご希望の方はレティシア書房までお申し込み下さい。(075−212−1772)

★レティシア書房 恒例「女子の古本市」は2/6(水)~2/17(日)です。出店者は女子ですが、もちろんどなたでもご来店くださいませ!今回も27店程にご参加いただきます。お楽しみに!