この書店の店主に会いに行きたい、という新刊書店があります。東京「Title」、博多「ブックスキューブリック」、岡山「スロウな本屋」、そして熊本「橙書店」。

「橙書店」店主の田尻久子さんは、お店の傍ら、文芸誌「アルテリ」を発行されています。最新5号では、「ことば」というタイトルで書かれています。

識字実践活動を続けながら、学校教育から排除され、切り捨てられ、文字の読み書きをできなくさせられた人たちとの出会いと交流を描いた、大沢敏郎「生きなおす、ことば 書くことのちから」をテキストにして、文字がわからないとはどういうことかを自分に問いただします。

「まわりの人に、読めない書けないと知られてしまうことへの不安。どんなに心細いだろう。生命にかかわることもあるだろう。表面に見える不自由しか想像できないということが、いかに人を傷つけるかということに思い至る。」

さらに、「読み書きどころか、ことばそのものを奪われた人たちがいる。」と、胎児性水俣病患者を思います。一言も発することなく、この世を去った人達。彼らは「ことばだけではない。生活そのものが奪われた。」と。彼らだけではなく、美しく、豊かな世界を持っていたアイヌ民族も、土足で踏み込んで来た日本政府によって、その言葉を奪われていったのです。私たちが日頃、何気なく使っている「ことば」について考えさせられます。

このエッセイの最後が素敵だと思いました。「生きなおす、ことば 書くことのちから」の本のことを、田尻さんに教えてくれたお客さんが、橙書店のカウンターで話していた時に差別的な物言いをしてしまった、と反省のメールを送ってこられました。田尻さんも気づかないくらい些細なことでした。メールには

「橙書店だから、気が付いたのかも、と書いてあった。本の目がありますので、そう書き添えてあった。そうか、わたしは毎日、生きていることばに囲まれている、彼女の文章を読んで、思わず襟を正した。」

「本の目」とは、なんと良い言葉でしょうか。静かに書架に収まっている本たちは、その主人たる人間がどれほど真剣にことばに向き直っているのかを、見ているのかもしれません。私も大いに襟を正さねばならないと思いました。

「アルテリ」は3号、4号のバックナンバーも少しあります。また。今月下旬にはナナロク社より、田尻さんの「猫はしっぽでしゃべる」という単行本も出ます。もちろん、当店でも取り扱います。

5月15日(火)から「ほんまわか作品展 紅型染めと小さな絵本」が、始まります。

 

 

 

名古屋発のミニプレス「棲(すみか)」は、タイトル通り「住む」という事に特化した雑誌です。最新14号の特集は「家をつくる、という冒険」(972円)。この特集の中に、愛知県にあった自宅から、岐阜県に自分の理想の家を建てるために、5年間せっせと通って、自力で家を建てた女性が紹介されています。

40代後半。自分だけの場を作ろうと思い立ち、方々探し50歳の時、この地を見つけて、雑木をチェーンソーで伐採することから始まりました。もちろん、いくら何でも一人で家なんて建てられません。基礎部分は、岐阜の工務店にたのみました。それから5年。井戸を掘ってもらったり、建具屋さんに玄関ドアを依頼したりと多くの人に助けてもらいながら、花や野菜を植え、愛犬の囲いを作り、家を整備していきました。

彼女は独身ではありません。既婚者で、別に離婚の危機があるわけではありませんが、一番大変だったのは「家を出ると夫に告げた時だった」そうです。

「なにもかもなくす覚悟を決め、自分本来の生き方を始めたら、人も知恵も集まってきた」

という彼女の言葉はとても重いと思います。

もう一人、極めて潔い生き方をしているすぎのまきこさんが登場します。馬二頭と犬一匹と暮らしているのですが、その暮らしはまるで遊牧民です。夏は京都北部の山間部にある村で暮らし、冬は琵琶湖西岸、高原市のゲルで暮らしています。定収もなければ、未来もどうなるかわからない。けれども、彼女の生き方は決まっています。

「私はジプシーのように生きたい。意味も残さず結果を残さず、この世から消えてゆきたい」

そんな彼女のもとには、多くの人達がその魅力に引かれてやってきます。こんな自分流の生き方は、なかなかできないけれども、余計なものをそぎ落とすことの素晴らしさにはあこがれます。

 

 

 

ミシマ社さんの「京都本屋さんマップ」ついに、昨日完成しました!その労力と根性に拍手です!!「ミシマ社と京都の本屋さん展」は、本日5時過ぎまで。ぜひ、このマップを見に来て下さい。全部作った長谷川さん、お疲れ様でした!!

三重県津市発のミニプレス「Kalas34号」(620円)の巻頭を飾るのは、文具専門店「銀河堂Z」オーナー夫妻、奥田邦雄さんと典子さんです。元々、邦雄さんは、学校や官庁街にも文具を提供する「博進堂」の社長で、今は息子さんに会社経営はバトンタッチされています。そして、この会社の持っていた休眠中だった店舗を新たな文具店「銀河堂Z」としてスタートさせました。

文具好き、紙ものフェチの貴方なら、嬉しくなるような店内写真が載っています。「フリクションというパイロット製の消せるボールペンを使ったことは?あのインクは全て津工場で製造されているってご存じでした?もし興味があるなら工場の方を紹介しますよ」と、商品への深い知識と愛情に満ちた説明をされます。

「妻と私が気に入った筆記具を、実際に手にとって体験していただける店をと考えました。」

スーツ姿で店にいらっしゃるお二人と店内の雰囲気を見ていると、きっと楽しい時間が過ごせそうな予感がします。行ってみたい!!

帯広発ミニプレス「スロウVol.54」にも、素敵な人が載っています。石狩市でカフェを営む加藤哲平さん、裕子さんです。お店の名前は「暮らしと珈琲みちみち種や」です。出身は宮城県。3.11を経験した後、紆余曲折を経て北海道へ渡り、石狩にお店を出しました。もともと鉄平さんは、珈琲に興味はありませんでしたが、お父さんの看病で疲れきった時に立ち寄ったカフェで、マスターが一杯の珈琲を出してくれました。美味しい!

「マスターの心遣いがうれしかったし、たった一杯の珈琲がこんなにも心を解してくれることに感動しました、」

それがお店を開く原点となりました。初めて焙煎を経験した時に、じっくりと焼き上げられてゆく豆を見て、彼は「不思議なことに、豆が笑っているように見えたんですよ」と振り返っています。自分の心が喜んでいる!と感じた彼は焙煎を本格的に学び、2014年お店を開店しました。

ミニプレスには、様々な土地で、好きなこと生業にして生きている人達の素敵な笑顔が一杯です。大都会のトレンドなんて全く関係ありません。

田辺聖子は「人間の最上の徳は、人に対して上機嫌で接することと思っている」と書いています。ミニプレスに登場する方は、まさに毎日、上機嫌で接している人達ですね。

★近日入荷お知らせ

盛岡の「地から編集会議室」が出している「地から」の最新2号を送っていただきました。ここにも、素敵な笑顔の方が一杯でした。早速1号と2号を送ってもらうようにお願いしました。入荷したらまた、ブログでご紹介します。

★4月9日(月)10日(火)連休いたします。

4月11日(水)から、京都の出版社ミシマ社の展覧会『ミシマ社と京都の本屋さん』を開催します。 京都の本屋さんマップをレティシア書房の壁に作り、刊行した書籍や制作資料も展示します。お楽しみに!


 

「街と山のあいだ」をテーマにしたミニプレスmurrenの最新22号が、なんと重版!これ、朝日新聞書評欄にて、最新号が取り上げられたからです。新聞掲載された途端に、どどどと注文が入ったとか……

で、この号の特集は何かというと、「岩波少年文庫」だったのです。表紙をめくると、murren編集長の若菜昇子さんセレクトの「少年文庫 私の10冊」が飛び込んできます。選ばれたのは、ローラ・インガルス・ワイルダー「長い冬」、ヨハンナ・シュピリ「ハイジ」、トラヴァース「風にのってきたメアリー・ポピンズ」、ヒルダ・ルイス「とぶ船」、バーネット「秘密の花園」、ルブラン「怪盗ルパン」、メアリー・ノートン「床下の小人たち」、ドッジ「ハンス・プリンカー」、アーサー・ランサム「ツバメ号とアマゾン号」、トルストイ「イワンのばか」。すべての本について若菜さんのコメントが付いています。

「いやいやえん」の作者中川李枝子さんとの、児童文学をめぐる楽しいインタビューが続き、そして、現在岩波書店で児童書編集に携わっている愛宕裕子さんが、この時代に児童文学を出し続けるしんどさ、楽しさを語っておられます。この二つのインタビューは児童文学ファン必読です。

インタビューの間には、装幀の移り変わりが作品書影を元に解説されていたり、少年文庫の背表紙に印刷されている小さな数字の謎ときの楽しい読物があったりと、読むほどにのめり込んでいきます。

雑誌「PAPERSKY」を立ち上げた編集者井出幸亮さんも、10冊を選んでいます。今江祥智「ぼんぼん」、カニグズバーグ「クローディアの秘密」、舟崎克彦「ぽっぺん先生よ帰らずの沼」、エンデ「モモ」、マーク・トウェイン「トム・ソーヤーの冒険」、リンドグレーン「やかまし村の子どもたち」、宮沢賢治「銀河鉄道の夜」、ケストナー「エミールと三人のふたご」、山中 恒「ぼくがぼくであること」、ロフティング「ドリトル先生航海記」の10作品です。

小さな小さな雑誌ですが、中身は大きな大きな一冊です。(当店でも人気ですので、お早めにお求め下さい)

 

★佐賀と長崎をめぐる無料配布のミニプレス「SとN」入荷しています。今回も、ほんまに無料??と言いたくなるような豪華な出来上がりです。こちらもお早めに。

 

 

 

障害のある人達の「はたらく」をテーマにした季刊誌「コトノネ」主催の「ことばを授かる」展が本日より始まりました。

様々なシーンで、障害者たちの生きる姿からみえてきた素敵な言葉が、店内に展示されています。

例えば、とある幼稚園での出来事。そこは健常者と障害者が共に過ごす幼稚園ですが、そこで子供たちがドミノを並べていた時のこと。自閉症の子どもが、並べたドミノを倒していったのです。やめてね、と言っても、並べば倒し、また並べては…..その時、健常者の子どもがドミノを二列作り始めたのです。そして、こう自閉症の子どもに言います

「こっちは倒していいよ」

この場面を見守っていた先生は「あの子たちは、配慮の仕方が本当に自然なんです。大人のわたしたちにはない発想が出てくる。困ったときにも、何かやってあげる、という感じではなく、すっと手が出る。」と驚かれていました。それを受けて、「コトノネ」編集部は、「それぞれの違いが、新しい出来事をつくり、それが新しい知恵を生み出していくのだろう。子どもの環境は、子どもにゆだねよ。」と結んでいます。

21号の熊谷晋一郎さんのインタビュー記事は、「津久井やまゆり園」の衝撃的な事件について考えさせられるものでした。その中で熊谷さんがおっしゃっていた「生きるとは、依存すること。自立とは、自分で何でも出来ることじゃなく、依存先をたくさん持つこと。」という言葉が印象的でした。障害者も健常者もいない。みんながとても生きづらい世の中なのだと、つくづく思いました。

この雑誌は障害者福祉のために専門誌ではありません。障害という”個性”を持った人達の、ユニークな生き方、働き方を通して、これからの私たちの生き方を見つめてゆく雑誌です。ファッション雑誌のようにデザインされた表紙もさることながら、小川洋子、大友良英、坂口恭平、石川直樹、山田太一らのインタビューゲスト陣にも注目です。最近では、賢くもなく、強くもない弱いロボットを作り出した岡田美智男さんのインタビューは、180度ものの見方が変わる秀逸なインタビューでした。(22号)

または、

「レコパスタ、おひとつですね」という展示にある『レコパスタ』って?

この意味を知ったら、そうか、言葉ってこんなに楽しいもんか、と思えます。店内には創刊号(非売品)から最新24号まで「コトノネ」バックナンバーと一緒に、成る程!と納得する言葉の数々がお待ちしています。この展示を機に、「コトノネ」という雑誌のことを知って頂ければ、と思います。

先般我が国の首相が、働き方を変えると薄っぺらい自説をぺらぺらと国会で話ていましたが、地に足が着いた働き方をこの雑誌を読んで学んでいただきたいものです。

季刊『コトノネ』「ことばを授かる」展は1月23日(火)〜2月4日(日)まで 月曜日定休

 

 

 

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先日TVをみていたら、バブル全盛時代のディスコが大いに盛り上がり、またもやバブルが来るかもなどと、頓珍漢な希望を持っている人達がいることを知りました。まぁ、ブームを作ろうとした一部メディアや業界の仕込みだとは思いますが…..。

そんな折、名古屋発の雑誌「棲(すみか)」をバックナンバーを含めて入荷しました。雑誌「ソトコト」が特集していたミニプレスの中にみつけたので、連絡して送っていただきました。

「等身大の暮らし提案誌」と書かれている通り、地に足を付けてしっかりと生きている人達が続々と登場します。

例えば10号の特集は「生きなおす棲」。京都市内にある築百年の町家を、住み手自らが、掃除から始めて、解体、撤去、補修等々を、幼なじみの建築家の指導を受けながら、作り上げてゆく話からスタートします。いわゆる”Do it yourself”。でも、一人でやったことが、結局他者とつながり、町とつながってゆきます。ここに登場する人達の棲は、埃ひとつないクリーンなマンションではありません。しかし、自分たちの生きている町や、様々な価値観を持った人達と結び、開放的な空間に生きています。

幸せに生きる空間を特集したかと思えば、11号では「いのちの終わりに」で、死に直面した時のことを特集しています。この中に、『上野千鶴子が聞く小笠原先生、ひとりで家で死ねますか』に登場する小笠原医師へのインタビューが載っています。病院で亡くなった時、その棺が玄関から出ることはありません。先生は「人ひとりの人生が終るとき、裏口から隠れるように病院の外へと出されるような、そんな終り方でいいの?」という疑問を口にされます。

「家の玄関から笑顔で出棺。いいでしょう。」先生が看取った患者の家族は、親戚や友人とともに、笑顔でその時を迎えることが多いとか。みんなでがんばったからと、親族一同ピースサインをした写真もあるそうです。親しい人の笑顔に見守られて、好きな場所から旅立つなんて最高のフィニッシュだと思いました。

最新13号は『「装う」の向こうに』で、装うことへの考察です。

ここに登場する前田幸三さんは、60本ものオーバーオールを取っ替え引っ替え着てきた60年の人生。絵を書きながらシンプルに生きてきた男の人生。ズラリと並んだオーバーオールに、生きてきた時間が染み込んでいるようです。「本当は、外見はどうでもいい。人に幸せを与えられる人間だったらいいと思うけど。」なんてセリフは、そう簡単には出てきません。

各号972円で販売中です。この雑誌に登場する人達の生き方を、そのままあてはめることはできませんが、自分にとって、等身大の暮らしを考えるきっかけになりそうです。バブルが来る!なんてはしゃいでいる人には関係ない雑誌かもしれませんが…….。

雑誌の後ろに連載されている本屋さん紹介、センスのいい音楽を紹介する「こんな時、こんな音楽」」もお見逃し無く。

 

大阪発の雑誌”PERSPECTIVE”の販売を開始しました。

この雑誌は「老い」を総合的にテーマにしているのですが、いわゆる健康雑誌の類いではありませんし、科学的アプローチから老いを考える専門誌でもありません。手に取った瞬間、え?こっれってどういう雑誌なん??と思ってしまう程に、スマートな編集で、アート系ですが、ブックデザインだけの、中身のない雑誌ではありません。

1号で特集されているのは「姨捨」という文化です。

「姨捨。日本における”老い”の歴史の中でこれほど象徴的で、かつ語り継がれている言葉は見当たらない。”棄老伝説”とも呼ばれ、現在においては『お年寄りを大切に』という敬老訓話として語り継がれている。果たして、この”姨捨”が事実であったかどうか諸説あり、未だにはっきりとされていないとされている。」

はるか昔の古今和歌集から昨今の様々な書籍に登場する姨捨を主題にした作品を拾いあげています。

西行法師との「隙もなき月の光をながむれば まず姥捨の山ぞ恋しき」から始まり、荻原朔太郎「老年と人生」、深澤七郎の「楢山節考」、さらには有吉佐和子「恍惚の人」へと文学史を辿っていきます。

2号はまるごと「認知症」の特集です。認知症を中心とした「記憶」が主要なテーマになっています。物忘れと認知症の違いに始まり、その治療とケア、その原因、認知症と社会の在り方まで、ズバリ切り込んでくる内容ですが、斬新なブックデザインのおかげで、ページをめくることができます。”about reflection of human aliving in now”という、とあるギャラリーオーナーのドキュメントに使われている写真だけ眺めていると、アート系写真雑誌と勘違いしそうです。

認知症のことを考えるのは、あまり楽しくありません。いや、私にとっては憂鬱でしかありません。しかし、この雑誌は避けては通れないジャンルに飛び込み、今までにないアプローチで挑戦しています。

“PERSPECTIVE”のタイトルの下に”from an oblique”というサブタイトルが目につきます。” oblique”は日本語に直すと「斜め」です。斜めの観点、即ち今までにない視線で、ともすれば見たくなかった老いの側面を捉えようとする編集方針が見えてきます。こんなミニプレスも、ついに登場してきたのですね。(1号は1400円 2号が1500円)

 

「房総カフェ」を出版している暮ラシカルデザイン編集室が「房総コーヒー」(1350円)を出しました。巻頭に、幼い時に南房総に暮らした安西水丸の文章が載っています。

「一流のものを見て育つことはもちろん大切だが、ぼくに関していえば小児喘息の悪化で、3歳から数年南房総のほとんど文化のない土地で暮らしている。」

文化的に不毛だと嘆きながらも、「ぼくは海が好きでよく海辺を歩いた。太平洋の波が押し寄せていた。太陽は水平線から昇り、背に陽を浴びると波は透けて見えた。ぼくは一流のものを感じた。ダ・ヴィンチにもミケランジェロにもない一流の姿だった。」

たしかに、東京の背後にありますが、この本に登場するカフェの写真と店主の珈琲への拘りを読んでいると、自分たちの生きてきた土地への思いや、そこでお店を営み、お客様に一瞬の幸せを提供する喜びが見えます。ゆっくりと寄せては返す太平洋の波の如く、地に足のついた珈琲文化が育っています。

この本は、情報誌によくあるお店紹介的なものではありません。珈琲を通して、店主の生き方や世界観が、発行責任者であり、ライターでもある沼尻瓦司の文章で綴られている読みものなのです。

「自分の今この瞬間の精神に向き合える自由。理念や思想、価値観から解き放たれた時、感性が研ぎ澄まされ、心地良い緊張が身体をすくっと貫く。そう、それは遥か遠くの地へ旅に出た時の感覚と似ている。思考が許容量を越えて溢れ出さんとした時、旅先のコーヒーに、どれだけ救われてきたことだろう」

自家焙煎珈琲とパンの店「KUSA」探訪記などは、沢木耕太郎のトラベルノンフィクションを読んでいるような気分です。

大都会のトレンドに引っぱり回されない、自分たちにジャストフィットした暮らしを続ける人達の日々を、文章と写真で描いた素敵な一冊です。

安西さん、この地が文化的不毛だなんてことありませんよ。こんなにグレードの高い文化が育っているじゃありませんか。

 

●暮ラシカルデザイン編集室が出している「房総カフェ」は、3号と4号のみ在庫あります。

 

●レティシア書房のお知らせ●

 年始年末 12月29日(金)〜1月4日(木)休業いたします。


 

 

三重県津市発「Kalas33号」(620円)は、毎回内容が濃くて、読み応えがあります。本好きに先ず読んでほしいのは、”ルリエール”と呼ばれる造本作家、鈴木敬子さんへのインタビューです。ルリエールとは、工芸製本と訳されるフランス語で、本の装飾を手掛ける職人のことです。

ヨーロッパでは、書籍が未綴じ状態で販売されていた時代があり、本を買った人が製本屋に持ち込んで、自分好みの装幀を施すという文化が発達しました。今でも、古書店を覗けば、そんな未綴じ本があり、それを製本する職人がいます。鈴木さんは、本場フランスへ出向き、個展を巡り、職人との交流を深めて、ご自分の技術を磨き、今では世界各地の個展に出品されています。何点か彼女の作品が撮影されていますが、「どの本にも作品と称するだけの精巧な美しさが宿っている」とkalas編集者の西屋さんは書かれています。

この号では「装う」という括りで、鈴木さん以外にも、納棺師のご夫婦、トラディショナルなバー「アンバール」のマスター等が登場します。

カラスブックスはこの小冊子を発行する傍ら、古本業も始められました。連載「まちの古本棚」も今回で三回め。店頭を飾る本が何点か紹介されていて、見逃せません。

横浜の日本酒酒場を紹介し続ける「はま太郎」を出版している星羊社が、青森市を紹介する「めご太郎」(1200円)を出しました。「あずましい(心地良い)カウンターで地酒を飲んだり、名物・ソース焼きそば店をハシゴしたり青森市内に遊郭跡地を巡ったり」と観光より一歩先の旅を目指した青森紹介本です。

後半に「本のある暮らし 本と生きる人たち」という特集で、年6回のペースで刊行している地域情報紙「青森の暮らし」の版元、グラフ青森の下池社長へのインタビュー、県内の出版社の紹介、そして2015年にオープンしたばかりの古書店「古書らせん」店主、三浦順平さんへの開店までの経緯をきいた「古本屋になっていく」などが掲載されています。オーナーは地味な本屋だと明言されていますが、いいお客様に恵まれ、またブックイベントにも参加しながら店を営んでおられるご様子です。青森に行かれたら、是非寄ってみて下さい。(写真はその店内です)

 

●レティシア書房のお知らせ●

 年始年末 12月29日(金)〜1月4日(木)休業いたします。

 

 

 


「bootな金物店主 嘆きの100選」(1890円)という面白い本が9月に出ました。著者は、京都山科にある三木屋金物店3代目店主古川勝也さん。11月23日の京都新聞朝刊に紹介記事が掲載されましたが、レティシア書房では、以前から著者が持ち込んで来られていて、既に売れておりました。本日再入荷したので、ご紹介しておきます。

三木屋金物店は、来年100周年を迎えます。しかし、古川さんは、金物屋自体がもはや絶滅危惧種であるということを誰よりも自覚しつつ、お店にある珍しくも可笑しい商品を改めて解説した本を作りました。読んでみると、著者の軽妙で、皮肉たっぷりの文章が笑わしてくれます。

例えば、「ホースリール」の項。

「誰がこんなこざかしいものを考えたのか。使っている人はみんなものすごいストレスを感じているはず。満足度ワースト1の商品アイテムではないか。ホースはロープとおなじようにヨリや向きがあり、もともとあんなものを巻こうとすること自体ムリがあります。確かに見た目は便利そうで体裁もよく、しかもガーデニングという欧州のライフスタイルをいかにも体現していそうなイメージのためか、人々はホースといえば当然のようにこの巻き取り式を買うのです。(中略)通販である水圧で3倍に伸びる魔法ホースなど新製品も出ていますが、文字通り魔法にかけられた絵空事のようで水漏れ、ホース外れなど苦情続出で即不燃物ゴミ捨て場に直行です。結局は地べたにとぐろを巻いて置くのが一番よいという身もフタもないというのが結論なのです。」とこんな具合です。よくもまぁ、こんな商品作ったもんやと頭を傾げるものもあります。

本は「厄よけ火箸」「包丁」「釜くど」「卵焼き・調理」「やかん・鍋」「掃除」「火打クワ・金槌・左官」「鍵」「昔の家の補修」「昔ながらの良き金物」「鋏」「ノコギリ」というジャンルに分かれて紹介されています。面白そうと思われたジャンルをピックアップしてお読みいただき、これはと思うものを発見したら、ぜひお店に。

包丁のところに「境忠義 総霞研青二・三徳包丁八角水牛ツバ165」という長い名前の包丁が載っています。家庭用包丁の最高峰と評価したあとに、こんな文章が続きます。

「それにしても長すぎる品名。口上多く値打ち付け過ぎです。名前の長さにもイヤミがある。私の嫌いな伝統的工芸品に指定されています。しょせん包丁です。」

誰ともわからない職人が作った、ほどほどの価格で購入できるものこそ、日用品の王道だという著者の考えが随所にみられます。

生活スタイルがどんどん変化して、その速さに追いつかない道具達。道具を使いこなす職人さんもいなくなる一方だし、孫子の代まで使えると書かれた道具も修理するところもなくなる。もはや、どこに使う物かもわからないような希少品、と思うとオブジェのような珍しい形の物も、と言う具合に、古い金物屋の倉庫はワンダーランド。これを読むと、量販店にはないものを探しに、専門店に行きたくなります。

ちなみに古川さんは、現代アーティストとして作家活動をしておられて、視点の面白さ、文章の洒脱なのは、その辺りにも関係しているかも。