アンソニー・ドーア著「すべて見えない光」(新潮社/古書2400円)という長編小説があります。物語の舞台は戦時下フランスの街サン・マロ。目の見えない少女マリーとドイツの若き兵士ヴェルナーの運命を描いた作品で、ピュリツァー賞の小説部門など数多くの文学賞を受賞しています。決して、読みやすい小説ではありませんが、時代の波に翻弄される二人の運命を詩情豊かに描いていきます。

この小説に感動して、舞台となったフランスの各地に出向き、その街の印象を写真と文章でまとめあげた小冊子を入荷しました。熊谷眞由美さんの「たどる『すべての見えない光』」(600円)です。2017年秋、彼女はこの地を訪れます。「本に出てきた場所を巡り、自分の五感を使ってもっと深くこの本の世界を味わってみたい…そう思って行きました」と書かれています。一冊の本を読んで、読者をヨーロッパまで向かわせるって、本の力って凄いですね。

舞台となったサン・マロは、花崗岩の岸壁と12世紀に建てられた城壁に囲まれた英仏海峡に面した街で、小説に登場した建物やストリートなどが今も残っています。マリーが住んでいた大叔父エティエンヌの家、マリーの父ダニエルの家の家政婦マネック夫人が、サン・マロのホームレスのウベールに連れていかれる秘密の場所などを、一つ一つ訪ねて写真に収めています。

さらに、著者は物語に出てくるヴェルヌの小説「海底二万マイル」の中で「サン・マロの教会で大ダコの絵を見た」という件を思い出し、サン・マロ歴史博物館で大ダコの描かれたタペストリを発見します。

う〜ん、凄い!この情熱!一冊の読書で、ここまでやるとは!

この冊子を読み、そう言えば「すべて見えない光」にはこんな人物も登場したなぁ、オーデュポンの「アメリカの鳥類」が出てたなぁ〜、とか思い出しました。

これから小説を読む方のために、登場人物の紹介と、彼らの年表まで用意されていますので、読書の助けになります。

著者の熊谷さんは、「ASHITA no HAKO BOOKS」という小さな出版レーベルを立ち上げておられています。そこから出された小冊子も販売中です。

 

★店主  FM京都に出演! 3月23日、30日「サニーサイド・バルコニー」という番組の中です(13時50分ぐらい)。暇な方は聞いてやってください。

「『おやつ』とはなんだろう。小腹を満たす食べ物?友達と話しながらスイーツ?家族の団欒の時間?それとも仕事の合間のささやかな休憩?こっそりひとりで食べる贅沢?そう、人の数だけおやつの姿があるんです。そんなおやつにまつわるあれこれを、食や暮らし、文化、歴史、旅、科学といった、さまざまなテーマで追っていくのが、この『おやつマガジン』です」(1980円)

と創刊の言葉が書かれています。各地のおやつ紹介だとか、名店案内の情報誌ではなく、私たちが何気なく食べている「おやつ」をより深く考えていこうという知的探究心に満ちた雑誌です。創刊号だけに、著名な作家が寄稿していて、巻頭原稿は角田光代が「夢のおやつ」というタイトルでエッセイを書いていますが、角田さんはおやつを楽しむ生活とは無縁なのです。そこが面白い。

写真家の若木信吾は、本来甘いものが苦手だったのに、アメリカの留学先で「ブラウニー」というお菓子に出会って、甘党に転化しました。「おそらくこれまで食べたものの中で一番甘い食べ物だったと思う。しかも甘すぎた。その甘すぎたのが点火装置だったのかもしれない。」と、周囲のそんな甘いものよく食べるなぁ〜という声にもめげずに食べていると告白しています。アメリカのスーパーなら、どこでも売っている「ブラウニー」。どんだけ甘ったるいのか、興味あります。

「ホーチミンのおやつを追いかけて」という特集では、現地取材で、みんながどんなおやつを食べているかをドキュメントしています。屋台があるせいか、外で食べている人の写真が多く、おやつを口にする人たちの表情が生き生きとしてとても幸せそうです。

岡山と鳥取の県境で自然栽培の米農家を営む高谷絵里香さんが、「がんばって手に入れたり無理して背伸びしたるすることにも喜びや達成感があるかもしれないけど、当たり前のようにそばにあるものにこそ、幸福が宿っている気がする。おむすびや蒸したお芋のような、何気ない日々のおやつにように」と語っていますが、ホーチミンの人々の笑顔は、それを物語っています。

★店主  FM京都に出演! 3月23日、30日「サニーサイド・バルコニー」という番組の中です(13時50分ぐらい)。暇な方は聞いてやってください。

 


 

 

西山裕子さんのミニプレス「イギリスの小さな旅シリーズ」刊行を記念して、イギリスの写真と水彩画展が始まりました。

レティシア書房では2016年に、西山さんがイギリスで描かれた花の水彩画展を開いていただきました。2019年9月に出された「イギリスの小さな旅」は、4冊シリーズで、約10㎝角の手のひらサイズの文字通り小さなミニプレスですが、その中に、西山さんが見つけたイギリスの魅力が詰まっています。イギリスの田舎のTea Roomでの紅茶の楽しみ方や、ガーデニンググッズのこと。「ピーター・ラビット」の著者ビアトリクス・ポターの別荘を改装したホテル、ポターがナショナル・トラストに賛同して広大な土地を寄付したことや、ポターが保存を訴えたおかげで残った小さな家の写真。中世の豪族「エア」の名が刻まれた教会の写真と、小説「ジェーン・エア」がこのエア一族の名前をかりて命名したらしいことなど、西山さんの心を動かした小さなエピソードがいっぱいです。もちろんレティシア書房では、昨年から店頭販売していますので、ご存知の方もいらっしゃると思います。

なお、青幻舎発行「英国ヨークシャー 野の花たち」「さくら」を始め、「誕生」「愛おしいひととき」「英国ヨークシャー想い出の地を旅して」などの著作、水彩画の花々の便箋・封筒・一筆箋・ポストカードなども揃っています。この機会にぜひ美しいイギリスの風景写真と優しい花の水彩画をお楽しみください。(女房)

★「イギリス小さな旅シリーズ 刊行記念展」は、

3月17日(火)〜29日(日)月曜日定休 12:00〜20:00(最終日は18:00まで)

 

 

 

 

 

 

 

http://www.soukasha.com

 

地域雑誌「谷中・根津・千駄木」、通称「谷根千」を、大量に入荷しました(各500円)。この雑誌、皆さんご存知でしょうか? ミニプレスの原点とでもいうべき雑誌です。

1984年に森まゆみと山崎範子、そして森の妹の仰木ひろみに、イラストレーターつるみよしこが参加して創刊した地域情報雑誌。その後、全国各地で誕生したリトル・マガジンのお手本となりました。ごく普通の三つの地域の、歴史や文化や生活の直接の情報を掲載して、地域を新しい価値観で見直そうとした雑誌で、このエリアを中心にして販売されてきました。

2007年、雑誌『谷根千』の刊行を2009年で終了することを発表。2009年8月予定していた終刊号(93号)を刊行しましたが、収録できなかった記事があったため、特別編集した「94号」が最終号となりました。

1985年、第1回NTTタウン誌大賞受賞。

1988年、第4回NTT全国タウン誌大賞授賞。

1994年、NTTタウン誌フェスティバル特別賞受賞。

1996年、NTTタウン誌大賞特別顕彰受賞。

と、様々な賞を受賞しています。

今回入荷したのは、古くは87年に発行された11号「私の原風景ーほんのり浮かぶ明治・大正・昭和」から、特別編集の94号「これで終わります」号までです(途中欠本あり)。どの号も、地域に根ざした企画、特集で誌面が埋め尽くされています。41号「詳註吾輩は猫である」では、明治36年千駄木に引っ越してきた夏目漱石を取り上げ、翌年、漱石の自宅に黒い猫が迷い込み、ここから彼が「吾輩は猫である」を発表するまでが取り上げられています。この号には奥本大三郎が、漱石の気分でこの辺りの街中を歩く「奥本大三郎さんと千駄木を歩く」という企画も入っていました。奥本のお子さんが地元、千駄木小学校に通っているとかで、ご近所の楽しい散歩になっています。

トレンドなお店紹介などは全くない誌面構成ですが、編集たちが本当にこのエリアを愛していたんだという思いが伝わってきます。因みに最終94号編集後記にこんな文章を発見しました。

「『本は本屋で』『酒は酒屋か居酒屋で』『週に一度は銭湯に」。町にあってほしい店は、利用して守りましょう」

町に住む者は、こうありたいですね。

雑誌の編集に携わり、その後多くの本を出版した森まゆみの本も揃えました。「路地の匂い町の音」(ポプラ文庫/古書300円)、「子規の音」(新潮社/古書900円)、写真家の平嶋彰彦との共著「神田を歩く」(毎日新聞社/古書600円)、そして彼女の大阪訪問記「大阪不案内」(ちくま文庫/古書400円)など、多彩な取り揃えになりました。

「京都の町には海はない。が大阪にはある。水の風景の好きな私には救いである」

それで大阪か、成る程。

 

 

毎回一人の作家を多方面から論じる文芸ミニプレス「APIED」を主宰する金城静穂さんが、初の単行本を出されました。写真とエッセイを主体にした「桜の木が一本」(1980円)です。夏葉社から出た「庄野潤三の本 山の上の家」(2420円)や、新潮社から出た「茨木のり子の家」を思い出すテイストです。

吉田一之さんはつれづれ織り作家、妻の道子さんは児童文学作家としてそれぞれ活躍し、京都の山科にある一軒家に長年暮らしておられます。夫婦の暮らしを支えるこの家が主人公でもあり、カメラマンの酒谷薫さんが、味わいのある一軒家の姿を写真に捉えています。

吉田家には巨大な桜の木があります。「1979年に1メートルほどの苗木を四百円で買い、一坪の庭に植えたものである」と道子さんは書いています。それが、今や幹回り1メートル50センチ、背丈は自宅二階の屋根を覆うまでに成長しました。その桜の木の写真を見ると、家がまるで巨木に覆われ、守られているという雰囲気です。夫婦は、桜の木を「叔父さん」と呼んで愛で、花の頃には、多くの人が集まってきました。いや、人だけでなく鳥や蛇までも寄ってきました。(なんだか素敵な絵本の始まりみたいです)

「風の音は葉のそよぎでわかる。空の深さは枝枝のいくつもの青で。たたきつける雨の警告、雨宿りの安らぎ、木陰の清涼さ、深い闇。自ら歩かないものが抱える懐の深さに、しんとする。」

風通しのいい家、古い本棚、ずらりと並んだ文学全集。窓際に置かれた水槽の向こうには、満開の花をつけた桜の枝が幾重にも広がっている。豊かな時間がここに流れています。

道子さんは子供の頃、西田幾多郎で有名な哲学の道のそばに住み、近所の友達とプールに通っていました。泳いだ後のけだるさは、泳いだという満足感と引き換えのように感じたとか。幼な心に「それが人生の何ものなのか、を教えるようなものだったのだ。何かをすれば、何かを得れば、何かが失われる。」と思ったそうです。

「その後の人生で、思い出すのは、この細い哲学の道と蝉時雨とその中でのけだるさ。そして、その蝉時雨を今我が家で聞いていることの不思議さ。」

本書には、一之さんのつづれ織り作品や道子さんの仕事場をはじめ、季節の野菜がいっぱいのとても美味しそうな食卓の風景など、お二人の生活が撮影されています。そして、道子さんの素敵な文章。

「時は料理を作る。ストーブに野菜と水を入れて置くだけで時間が経った後おいしいスープになっている。わが家では、時は風景を作る、である。桜が月桂樹が、紫陽花や木槿、山茶花が、壁の色が郵便受けが一つの風景を作っている。そして、その風景にいつか住人自身もなって、溶け込む。」時の仕事と題したエッセイには窓辺の本の写真が添えられています。

50年近く暮らしてきた家の風景に溶け込み、年を重ねて、やがて迎えるであろう死をどこかに感じながらも「先に思いを馳せるのではなく、今を生き切る。そうしたい。成長した暁にではなく、今、その瞬間を生きる子どものように。」書かれた文章に、しみじみ感じるところがありました。

★「桜の木が一本」発行を記念して、レティシア書房で7月21日〜8月2日に写真展を開きます。

 

 

 

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みのわようすけさんの文庫本サイズの本を置き始めたのは、今年の2月でした。本のタイトルは「もうひとつの今日」、「みぞが埋まるぐらいに」、「よくねたパン」、「今日というより凶な今日」。先日入荷した新刊「ピンクのあまぐも」で5冊(各520円)になりました。一応「今日というより凶な今日」が、第1巻ですが、べつに第2巻へと続いているわけではありません。「もうひとつの今日」の帯に「前作『今日というより凶な今日』の解説を含む続編。今日と明日の間にあるもうひとつの今日の短編」と、なんだかよくわからん解説が入っています。短気な関西人から「なにをわけのわからんこと、ごちゃごちゃ言うとんねん!」とお叱りを受けそうです。

このシリーズは、小説でもなければエッセイでもありません。全てに第何話とインデックスはありますが、前の話から続いているわけではありません。身辺雑記のようなものあり、小説みたいなものあり、評論みたいなものもあり、コラムのようでもある文章のオンパレードです。例えば「今日というより凶な今日」第159話「お腹の空いたシロクマ」は、こんな書き出しです。

「会社近所の和食屋さんの前にはシロクマがいる。お腹が減り過ぎている様で皮だけの様にペタンコになっている。いくら何でもお腹減り過ぎだと思う。さすがに我慢できなかったらしく和食屋の肉まんをケースから取り出して食べている。」

これで、ほぼ終わりです。161話は「ゼブルCO、LTDの会社に友人と参加する」と、話ははるか彼方へと飛んでいきます。

この本売れるのかなぁ〜と半信半疑でしたが、いきなり売れ始め、品切れになるわ、再注文するわとドタバタでした。そして、一冊買われた方が、また一冊、また一冊とお買い上げされる売れ方をしてきたのです。う〜む、不思議と思い、読んでみたところ、なぜか引き込まれてゆきました。

新作「ピンクのあまぐも」は、第730話から始まります。

「大学に行き、久しぶりの友人達に会って嬉しくなる。これから食堂に向かうが、嬉しさのあまりショートカットしようと思い堀から飛び降りたら十一階だった。」

と、相変わらずぶっ飛んでいます。この魅力は何だろう? 携帯メールの様な短い文章の固まりながら、それぞれ完結している。読んでいるうちに、心の中にぽっかりと出来上がる空白。それが、なんだか気分を軽くします。著者が、これらの文章を意図的にデザインしてやっているとしたら凄い文才だし、無意識でやっていても、これだけの文章が浮かんでくるなんて、やはり凄い。

不可思議な読書体験を、お勧めします。案外、真面目な読書をしている方の肩こりを、少し直す効能があるやもしれません。

★連休のお知らせ  12月9日(月)、10日(火)連休いたします

★予告

12月11日(水)から始まる知床在住の絵本作家あかしのぶこさんの絵本展に、知床のパン屋さん「メーメーベーカリー」からパンが届きます。シュトレンも含めて20個ほどのパンは、初日のみの販売になりますのでお見逃しなく。

なお、初日はあかしのぶこさんが在廊の予定です。夕方には、ちょっとしたお話会も予定しています。

盛岡発のミニプレス「てくり」(660円)の28号が入荷しました。もう28号まで出たんですね!盛岡に住み、そこで暮らしている人、この町で新しいことを始めた人たちが毎回登場します。編集方針ほぼ変わらずですが、毎号読んでしまうのは何故でしょうか。(ちなみにうちではミニプレス完売率1位です)「建築家と歩くもりおか建物探訪」とか、「医大が愛した、名店たち」とか、「希町商店街振興組合青年部の活動」とか、いつも通りの企画なのですが、良いなぁ〜、この人たちという感じなのですね。最終ページを飾る連載「もりおかわんこ」も19犬目の梅子ちゃん!和みます。地域とともに存在するミニプレスの王道です。

ところで、盛岡市内にトーテムポールが建っていることを今回知りました。カナダビクトリア市との友好の証として送られたものです。ビクトリア市には「ビクトリア盛岡友好協会」、盛岡には「盛岡ビクトリア友好協会」があり、民間交流が盛んになっています。

私が見逃せないのが「スコッチハウス」というお店の紹介。30年ほど書店営業をされていた方が、スコッチウィスキー専門店「スコッチハウス」を開店。書店勤務時代から集めた貴重なスコッチが並んでいます。100年前のスコッチが載っていますが、これ、飲みたい!!

もう一冊ミニプレス。「社会をたのしくする障害者メデイア」を標榜するミニプレス「コトノネ」(1100円)の32号には、スペシャルインタビューとして、れいわ新撰組から参議院選挙に出て、当選した重度障害者のお二人木村英子さん、舩後 靖彦さんのインタビューが掲載されています。中身の濃いインタビューですので、じっくりとお読みください。何故身障者を国会に送り込んだのかを中心にした、れいわ新撰組党首山本太郎さんのインタビューもあります。この中で彼は「頑張った人が報われる社会」は、平等な社会のイメージがありますが、では頑張れない人はどうなるのかという疑問から、「頑張らなくても生きていける社会」が理想だと自分の信念を、こう表現しています。

「頑張ることがスタンダードになると、頑張りすぎることが当たり前になって、人はドンドン壊れていきます。壊れた先に、セーフティネットでの救済です。福祉負担は大きくなるだけです。」

自分たちの日頃の視点から、全く違うところから世の中を見るという意味でも、ミニプレスの存在は大きなものだと言えます。

 

●大阪の動物保護団体ARKの来年度カレンダー発売中です。

壁掛けタイプ1000円 机上タイプ800円です。売上は、全てARKにお渡しいたします。当施設に保護されている動物たちのために使われます。

 

「馬語を学ぶための第一歩。それは、ウマを『感じる』ことです。」で始まった「馬語手帳」(カディブックス/1320円)を販売し始めたのが、約5年前。

その後、「夜明けまえ、わたしは車に乗って、カディのところへ行きます。牧場に着くと、車の音を聞きつけて、あるいは名前を呼ぶわたしの声を聞いて、カディは森から出てきます。」と、カディと名付けられた馬と暮らし始めた日々を綴った「はしっこに、馬といる」(1870円)が出たのが4年前。

そして、ついに3作目「くらやみに、馬といる」(990円)が発売されました。最初の「馬語手帳」が出た時は、売れるかなぁ〜と思っていたのですが、これが大間違い。当店だけでも数十冊、30版というリトルプレスでは信じられない重版です。与那国島でカディと暮らす著者の河田さんの飾らない文章と、馬を見つめる視線に、心地よさを感じた人が多かったのだと思います。私も、何度も開いています。

「くらやみに、馬といる」は、前2作より小ぶりの装丁で、文章と馬の写真で構成されています。深い森の奥にいる馬たちに深夜、逢いに出かけた彼女の文章が素敵です。

「それにしても、馬とくらやみにいることの、このおだやかでしみわたるような喜びはなんなのだろう。人生で初めて経験する感情だった。私が暗闇のなかで、こんなにもくつろいだ気持ちでいられるのは馬がいるからだ。カディや私の知る馬たちがくつろいでいる、それを感じているから私もくつろぐことができる。」

この島に来るまで、彼女は東京で編集者として忙しく働いていました。おそらく、精神的にも肉体的にもかなりキツかったのでしょう。これからの人生に不安を感じた時、カディがこっちにおいでよと誘ったのかもしれません。島に渡り、カディブックスという出版社を立ち上げ、本を出しながらの生活。東京にいた頃より、経済的にはシンドイと思いますが、常に心は満たされているという、理想の生活を得たのかもしれません。以前の暮らしをこう書いています。

「あらためて観察してみると、普通の暮らしだと思ってやってきたことのいくつかは、思っている以上にたくさんのエネルギーを費やして成り立たせていたものだということがわかった」

ところがこの島では、ある日、風雨を避けるためカディと、よく見かける野良猫と一緒に雨宿りをする羽目になった時に、一人と二匹で過ごした時間は穏やかなのです。

「カディと猫と私でくらやみにいた。雷鳴と雨音に包まれながら、なにもしないでそこにいた。なんと豊かな時間だったことだろう」

彼女の本が多くの読者に支持されているのは、本当の豊かさを知っているのだけれど現実の生活に追われている人たちが、ほんのひと時、自分の心をゆっくりさせてあげようと思っているからかもしれません。

 

「あたたかいくらやみに、馬といる。頭上には空が広がっている。空と地面との境界がどこなのかわからない。風が頬をなで髪をゆらしている。風と自分の境界がどこなのかわからない。私は静かに拡散している。生と死のどちらにいるのかわからない。わかるのは、親しい存在がそばにいる、ということだ。」

彼女はカディと共に生きて、いつか訪れる死までも見つめています。

 

 

 

大阪の動物保護施設「ARK/アニマル・レフユージュ関西」が発行する2020年のカレンダー販売中です。壁掛けタイプ(1000円)。机上タイプ(800円)があります。売上は、全てARKにお渡しいたします。当施設に保護されている動物たちのために使われます。

 

 

 

「植物は楽しい」をテーマに掲げたミニプレス「ideallife with  plants」(660円)最新号(8号)の特集は「しょくぶつのえほん」です。

絵本専門店のオーナーが推薦する植物関係の絵本紹介と、インタビューが楽しいです。その中には、京都の絵本専門店「メリーゴーランド京都」の鈴木店長も登場します。彼女が推薦しているのは石井桃子作、初山滋絵の「おそばのくさはなぜあかい」です。

「冒頭『むかしむかしおおむかし、くさやきが、まだくちをきいていたころのおはなしです。』と始まります。そうか、昔はみんなしゃべっていたんだ!って、そう思わせるくらいのい説得力があります。」

そう言われると読んでみたくなるのですが、続いて絵本の価値をズバリと指摘しています。それは、

「子どもが本を読むってそういうことだと思うんです。開いた途端に自分の知らない世界に自然に入ってしまう」と。

これ、絵本が持っている魅力ですね。大人になっても、絵本を開いて、おおっ!と叫んでしまう時がありますよね。

また、横須賀で「うみべのえほんや ツバメ号」を運営されている伊藤さんは、私も好きだったバーバラ・クーニーの「ルピナスさん」を推薦しています。「子どものころからおばあちゃんになるまでのルピナスさんの人生をつづりながら、女性の行き方とルピナスの花をかさねて描いた本です。」本の中に出てくる「世の中をうつくしくする」という台詞は大人にも、子どもに響いてきます。

連載の「植物の和菓子特集」秋編は、イネ科の植物です。「花は地味で注目されないが、平行な筋状の葉脈を持つ、細長い線状の葉の姿が美しい」という言葉通りに、イネの形を盛り込んだ和菓子がズラリ。京都からは鶴屋吉信の「嵯峨野」が選ばれてますが、地味な稲やススキのお菓子は、抑えた色合いや風味が秋を感じる大人の雰囲気です。

「ideallife with  plants」はバックナンバーも販売しています。本好きには、ニンマリのミニプレスです。

なお、メリーゴーランドの鈴木店長が書かれた「絵本といっしょにまっすぐまっすぐ」(アノニマスタジオ/古書1300円)も在庫しています。

 

 

絵本「ネコヅメのよる」でお馴染みの町田尚子さんの、ユーモア溢れるカレンダーを今年も入荷しました(2020年版540円)。

2019年版のテーマは映画でした。今回は音楽で、表紙はE ・プレスリーの扮装で踊る猫のピッピちゃんです。広げてみると、様々な音楽ジャンルでミュージシャンになりきったピッピちゃんが登場します。クラシック、ロック、ジャズ、ラップ、フォーク、パンクロックの音楽シーンでそれらしいスタイルで音楽を演奏したり、歌っている姿が楽しめます。相変わらずふてくされ顔でいるピッピちゃんの魅力満載です。彼女以外にも、ゆきちゃんとさくらちゃんの二匹の猫も花を添えます。

このカレンダーの売り上げの一部は動物愛護活動への寄付になります。町田さんは「身近に暮らし、私たちの友人であり家族である動物たちが幸せに暮らせますように。」と、このカレンダーを製作した気持ちを書いています。毎年店に貼っておくと、お客様のお問い合わせが多い人気のカレンダーですが、限定販売ですので、在庫無くなり次第終了します。(例年1ヶ月ぐらいでソールドアウトになりますので、お早めにどうぞ)

さて、高知県が出している無料のミニプレス「とさぶし」最新号は、本好きならゲットしたくなる「ノスタルジックな文学の世界へ」という内容です。高知県立文学館の資料を元に構成された、高知ゆかりの作家らが綴った文学作品の案内です。明治時代は中江兆民、幸徳秋水、大正時代は寺田寅彦、昭和になって登場するのは、倉橋由美子、安岡章太郎。そして平成には、山本一力、有川ひろなど。

明治時代、高知出身の黒岩涙香が創刊した新聞「万朝報」が大人気になり、帝都で発行部数第一位へと躍り出ました。黒岩は新聞だけでなく、外国小説を翻訳して、独自のアレンジを加筆して新聞連載し、サスペンス小説として読者を広げていきました。高知県立文学館の学芸員の福富さんが、非常に興味深い事実を指摘をされています。

「江戸川乱歩は、大正時代に涙香の描いた小説『幽霊塔』にいたく感銘を受け、リメイク版の『幽霊塔』を執筆しているのです。昭和時代に描いた乱歩の『幽霊塔』に憧れて、今度は宮崎駿が『カリオストロの城』を創っているんです。涙香がルーツとなって乱歩に繋がり、そして平成の宮崎駿へと繋がっていく。」

高知県は、なんとなく男性的なイメージの強い県だと思っていましたが、まだ男女差別が強かった昭和時代に、すでに「女流文学賞」を創設し、「執行猶予」の小山いと子、「婉という女」の大原富枝、そして宮尾登美子など一世を風靡した作家が登場します。

高知文学の話題満載の「とさぶし28号」は、読み応え十分で、今後の読書計画の参考にもなる一冊です。こちらも無くなり次第終了ですので、お早めにご来店ください!