やっと読み終えました、メイ・サートン「74歳の日記」(みすず書房/古書2500円)。と言っても、300ページ弱の、日々の出来事を綴った日記文学なので、決して難しいとかそういうものではありません。時間がかかったのは、一回に2ページずつぐらいしか読まなかったからです。74歳の彼女の言葉をゆっくりと心に入れたかった、なんて言うとカッコつけすぎかもしれませんが、そんな調子で読んでいたので年を跨ぎました。

メイ・サートンは1912年生まれのアメリカの小説家、詩人です。大学で文学を教えていましたが、自分の小説の中で同性愛を明らかにしたことで職を追われ、今日では考えられないことですが、本の出版も中止されてしまいました。。その後、パートナーとの別れ、小説『総決算の時』へのへの酷評、さらに乳がんの手術などが重なり、最悪の状態になってしまします。しかし、人里離れた自然の中、一軒家で生活しながら思索を重ねてゆき、詩作に没頭し、エッセイ、小説などを書きます。68年に全米で発表されたエッセイ「夢見つつ深く植えよ」(みすず書房/古書2050円)、73年発表の「独り居の日記」(みすず書房売切れ)は、当時の代表作です。

1985年、73歳の彼女は脳梗塞を起こします。当時、彼女の体調は良くないうえ、愛猫の死なども重なり、詩も書けない状況でした。年が明けて86年の春先、日常のありのままを日記に書いていく決心をします。86年4月から日記はスタートしますが、最初は病状が一向に回復せずに、イラついたり、落ち込んだりする毎日の描写が多く、こちらも辛くなってきます。

しかし、「具合が悪かったあいだ、何か学ぶことがあったとすれば、それはその瞬間瞬間を生きるということかもしれない。眠れない夜、ひと晩じゅうアマガエルの鳴き声に耳を澄ますこと、朝遅く、ひっきりなしにクークー鳴くモリバトの声に目ざめること、そして今この瞬間には、静けさを増すような海のささやきに耳を澄ますこと。その瞬間を、できるかぎり生き生きと生きること。」

そうして彼女は立ち直っていきます。整然とした文章を追いかけることで、元気になってゆく彼女を追走してゆくことになります。

もちろん復活までは、「朝、ベッドメークをして、階下で家事をしただけでへとへとになってしまい、ベッドに横になって泣いた」という日々の繰り返しです。6月の日記には「元気なときがどんな感じだったのか、もう思い出せない。」という文章もあります。

しかし、毎日見つめる海、木々の音、いくらでも作業のある庭仕事、新しい猫との付き合い、そして、彼女の元に集まってくる友人たちのおかげで、正気を取り戻していきます。そのプロセスを、湿っぽくならずに、簡潔な文章で読ませてくれます。後半、元気になった彼女が朗読旅行に出かけるあたりでは、親しい友人に、良かったねと声をかけたくなるような気分になりました。

1987年2月11日の日記。これが、この本の最後になりますが、こんな文章で終わっています。

「私の目の前には、まっさらな空間が広がっているーもう公的な場に出ることはなくなるのだ。それでも、まだやりたいことはたくさんある。再び手に入れた生活、そしてこの先に待っているすべてのことへの歓びが胸を満たす。」

彼女は1995年、83歳でこの世を去りました。

 

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