私は京都生まれ京都育ちで、京都市内の下京区→左京区→中京区と、引っ越しを繰り返しただけで、ずっと京都から出たことがありません。だから、 神戸、京都、大阪、東京、福岡、鹿児島と全国各地で暮らしたユン・ウンデ著「異聞風土記1975-2017」(晶文社/古書1100円)を読んで、その面白さに引き込まれました。

著者は1970年神戸生まれ。

「父方の祖父母は別々に植民地下の朝鮮から渡来し、京都の洛外の被差別部落と隣り合う朝鮮人部落に流れ着いた。そこで夫婦は所帯を構えた。吹けば飛ぶようなあばら家の六畳一間に一家八人が住んでいた。腹を満たすために水を飲むといった、地べたを這うようなかつての日々を思えば、魚崎の暮らしは夢のようなものであったろう。」

阪神電鉄魚崎駅に一軒家を構え、著者は家族と住んでいました。「だが父はさらに上を目指した。9年後、私たちは山手の岡本に引っ越し、家からいつも眺めていた山上に梁の太い居を構えた。神戸を見る際のアングルをぐるりと変えたわけだ」

高度成長期からバブル経済下の日本で、それなりのハイソな生活を手に入れた一家だったが、バブル崩壊と共に、この家族の幸せも崩れ去ります。インドを放浪していた著者が、所持金がなくなってきたので助けを家に求めた時、父は開口一番こう言います、「株が大暴落したんや。家が抵当に入るかもしれん」

放浪から4年後、TV製作会社で働いていた著者は、阪神大震災で燃え上がる神戸の惨状をTV画面で見つめていました。

著者は、様々な事情から日本各地で生きていくことになります。繁栄の絶頂にいるような大都市もあれば、ほつれた暮らしぶりが見えてくる地方の街もあります。どの街でも、そこでしか生きていけない人々の息吹があります。それを感じ取りながら、各地で暮らした自分を見つめていきます。

「そこでしか語られない言葉があり、そこに吹き渡る風がある。風土を記すとは、表に現れないところを感じることではないか。」

土地と格闘し、人と格闘しながら、日本を、日本人を見つめていきます。ズシリと重いものが残る一冊でした。