ミシマ社から出た森田真生「数学の贈り物」(新刊/1728円)を読みました……..。『「一般に、自然数のたし算とかけ算の間には、a(b +c)=ab+ac という『法則』が成り立ち、これが『分配則』と呼ばれる。」 

なんや、これ、さっぱりわからん! こらぁ、ミシマ社!お前ん所は、いつから専門書出版社になったんや!責任者、出てこんか!と本を投げつけようと思いましたが、なぜか、頭の方は読み続けようとするのです。イライラするなぁ〜と歯ぎしりしながらも読んでいくと、なんだかわからんままに、これが面白いのです。

この本、数学研究者として在野で研究を続ける著者の初の随筆集です。中学の時、古代ギリシアの数学者ユークリッドに出会い、彼の編纂した「原論」に触れます。「学校の数学で、第一巻の命題の証明を、一つずつ再現させられる授業があった。僕はこの授業が気に入って、毎週、幾何の時間が楽しみだった。」という数学少年でした。

だからと言って、この随筆集は数学に関するものではありません。一人の子供の親として、日々感じたこと、暮らしの中で気づいたことを、数学者らしい思考で書いてあります。芭蕉、道元、マルクハーン、岡潔など、多彩な人物が登場しますが、明晰な文章が読む者の心に響いてきます。いかなる権威のある機関、大学に頼ることなく、在野で研究し、発信し続けている学者の矜持があるので、(私にとっては)ややこしい数式を前にしても、この人の考えていることを知りたいと思うのかもしれません。

「自明視されていた様々な規範が、音を立てて壊れていく」のが現代だと指摘し、そんな不確定な時代を生き抜くために、「不確かな未来を恐れてパニックに陥ることは、不確かな未来は『悪い』未来であると、決めつける傲慢さの裏返しだからだ。『戸惑い(bewilderment)』は『パニック』よりも謙虚なのである。『恐ろしい未来がくる』と思考停止で叫ぶよりは、『何が起きているのかさっぱりだ』と困惑しながら、考え続けることの方が前向きだ。」という意見には、そうだ、そうだと拍手したくなりました。

最初に書いたように、すべてを理解できているとは思えませんが、う〜む、ここは手強いなと思いつつも、再度ページをめくっています。「数には、人の心の向きをそろえる働きがある。『六日後に会おう』と約束すれば、まだ来ぬ時間に向かって心が揃う。『右から二番目の椰子の木』と言えば、会話している二人の注意が、同じ木の方へ揃う。数は世界を切り分け、その切り分けに応じて、人の心の向きを揃えていくのだ。」という著者に、注目していきます。