延江浩著「愛国とノーサイド 松任谷家と頭山家」(講談社1300円)。ユーミンの夫君で、稀代のアレンジャー松任谷正隆と、70年代から新たな音楽を作り出したミュージシャンの話だと思って読みはじめたのですが、これ、昭和の一時代を丸ごと捉えようとしたとんでもない本でした。

表紙を開けると、先ず松任谷家の家系図が書かれています。正隆の父親の兄弟の嫁として松任谷家にやってきたのが大藤尋子。彼女の祖父は頭山満。この名前を聞いて、「玄洋社」の事を思いだされたら、その方は現代史に詳しい。頭山満は日本の右翼運動の一大源流を作った男であり、戦前は英雄視されて心酔する者も多数いましたが、彼の作った玄洋社は敗戦後GHQによって抹殺させられました。

尋子は、祖父の家には、孫文、大杉栄、犬養毅、広田弘毅、岩波書店の岩波茂雄等々、主義思想に関わらず、そうそうたる面子がたむろしてたと語っています。また、頭を撫でてもらいながら「いかなる理不尽であろうとも、怒りは噛んで飲み下せ。そうすれば己の力に変わる。全ての憤りを己の滋養と心得よ、と諭されたことを覚えています。」とも。

そして、この本は一方で、新しく芽生えてきた日本のポップカルチャーに参加していったミュージシャンの交流を追いかけながら、頭山家と昭和の政治の流れを追いかけていきます。日本の戦後史、あるいは芸術に登場した多くの人々が登場してきます。もうそのまま、お正月にやっている10時間ドラマみたいです。(逆を云えば、掘り下げが足りない部分もあります)

25章「桜の国」では、頭山家と重信家とは交流があったことが書かれています。重信家は、元日本赤軍最高指導者、重信房子受刑者の家です。過激な暴力で世界革命蜂起を計画していた彼女の父、末夫と頭山満の子であった頭山秀三は、戦前の軍事クーデター、5・15事件の同士だったのです。様々な場所で、様々な人達が絡み合い、闘争を重ねて、時代が動いてゆく様を見ているようです。

一方、松任谷正隆と結婚したユーミンは、恐るべき才能で日本の音楽シーンを変えていきます。彼女の周りにも、やはり曲者が集まってきます。細野晴臣、松本隆らの「はっぴーえんど」組、加藤和彦、安井かずみそして「アルファレコード」創設者の村井邦彦。スマートで、お洒落で、クールなサウンドは、今日のJポっプの原点を作ったと言えます。

松本隆が所属していた事務所「風都市」にユーミンが立ち寄った時、彼女はこんな事を感じたそうです。

「事務所の窓から市ヶ谷の(自衛隊)駐屯地が見えたんですけど、すごくざわざわしていたのを覚えています。ちょうど三島(由紀夫)事件の直前か直後のどちらかで、あれも今振り返ると、とても70年代的な光景でしたね」

政治の季節は終わりをつげ、新しいカルチャーの始まりだったのかもしれません。その後の世代の私たちは、そんなカルチャーを浴びる程楽しんだのです。

 

「70年代は本当に面白かったですから。何もかもが混沌としていて、刺激的だった。それはあの時代にしかなかったものだったと思います」

これは雑誌「SWITCH 70’VIBRATION YOKOHAMA SPECIAL ISSUE」(DVD付き1300円)でのユーミンの言葉です。

1969年、東大安田講堂に籠っていた全共闘の学生達が、機動隊との攻防の末、陥落したことでラジカルな時代は幕を閉じます。70年、大阪万博開催で明るく豊かな国ニッポンが躍り出ます。もちろん、一方では三島由紀夫の割腹自決事件や、よど号ハイジャック事件、その後の浅間山荘事件等々、悲惨な出来事が多くあります。あ、パンダ初来日もこの時代でしたね。ユーミンが言う「混沌」とした「刺激的」な時代だったと、同い年の私は同感です。

71年、イギリスから超甘酸っぱい映画「小さな恋のメロディー」がやって来て、私ら男子は涙し、72年情報誌「ぴあ」創刊。これを片手に、音楽情報や映画情報を収集していました。74年ユーミンが「MISSILIM」でデビュー。時代はオシャレ満開へとなります。資生堂等の大手化粧品会社が、大々的なプロモーションを展開したのもこの頃でした。

とはいえ70年代は、まだどこかに60年代の影を引きずりながら、新しいものを生み出そうとしていたように思います。個人的にも、大江健三郎が60年代末に発表した「われらの狂気を生き延びる道を教えよ」(新潮社・初版900円)を、読んだ気になったり、辻邦生の「北の岬」「背教者ユリアヌス」に夢中になったりと、古いものと、新しいものが混沌としていました。

そして、79年村上春樹が「風の歌を聴け」でセンセーショナルにデビュー。素敵な小説だなとは思いましたが、なんか違和感もありました。

もう過ぎ去ったあの頃のことを、この「SWITCH」をパラパラめくっていて、少しずつ思いだしました。

この特別号には、細野晴臣「ハリー細野&TIN PAN ALLEY IN CHINATOWN」という76年の幻のライブから3曲がDVDに収録されています。レアーな映像で、音楽ファンには必見です。