三浦しをん「あやつられ文楽鑑賞」(ポプラ社/古本700円)は、笑いの止まらない文楽入門書です。

ご存知「忠臣蔵」に登場する若い二人、おかると勘平。文楽でも歌舞伎でも見せ場の多い人物ですが、二人が何とか時間を工面して逢瀬する場面も、しをんさんにかかると、こうなります。

「『おいおい、ちょっと待てよ』『なによ、なにを待つってのよ。もう夜が明けちゃうわ。ほらほら、ねえ』と、ラブホテルにしけこむのであった」

大星由良助が、討ち入りの話を盗み聞きした九太夫を捕まえて、部下の平右衛門に引き渡す場面は、こうです。

「『そら、平右衛門、そいつを加茂川で……..。」「加茂川で、どうします?「水雑炊を食らはせい」ぶるぶる、こわいよ。陰湿な比喩も操る由良助。これがヒーローの発言でしょうか。『東京湾に沈めるぞ』に匹敵する、ヤクザ顔負けの由良助のセリフなのだった。」

この調子で演目の解説が続くかと思えば、ミーハー丸出しで、ご贔屓の演者に体当たりインタビューを敢行します。さらに、文楽が歌舞伎になった演目や、文楽が関係する落語の演目を見にいきます。ほんとに、文楽が好きなんだなぁ〜と言うことが伝わり、こんなに楽しい舞台観なきゃそんだよ、というしをんさんの声が聞こえてきます。

何度か、私も大阪に文楽を観に行きました。初心者にも理解しやすいように、舞台横に字幕が出るので安心です。こじんまりした劇場なので、三味線の音も、大夫さんの感情の籠った声もガンガン響いてきます。もう、これはライブコンサートです。しおんさんがハマるのも理解できます。

文楽って不思議で、何しろそれまで単なる人形だったものが、いきなり魂を持った人物に豹変するのですからね。

「文楽の人形は、魂の『入れ物』である。大夫さんの語り、三味線の奏でる音楽、そして人形さんが遣うことによって、はじめて魂を吹きこまれる『容器』なのだ。だから場面に応じて、人間以上に『人間』になることも、聞き役に徹する『背景』になることもできる。」

空っぽの木の人形に魂が取り憑く。その瞬間を私たちは体験できるのです。歌舞伎ほど、チケットも高くはないので、気楽に行けます。

尚、しをんさんは、先程の「仮名手本忠臣蔵」には大和なでしこなんていない。日本女性は、なでしこのようだなんて世迷い言だ!「強い女、自分の意見をはっきり言う女、いざとなったら腕力に訴える女」ばっかりだという意見です。同意見です。

「レティシア書房・夏の古本市」も、いよいよ後半に突入。本日はワンコインのお買い得本のご案内です。

え?これ500円なの?というのが内堀弘「古本の時間」(晶文社)です。著者は詩歌専門の古書店「石神井書林」のオーナーです。「ボン書店の幻ーモダニズム出版社の光と影」という名著で知られていますが、こちらは2013年に出版された、本に関するエッセイをまとめたものです。

「古書の世界には、誰にとっても理解できる希少性とは別に、その人の中でしか息づかない、つまり他の誰かにとってはどうでもいいようなものの中に、身を賭すように分け入っていく想いがある。どんな時代であっても、そんな無名の憧れや想いが、この世界を支えているのだと思う。森は横に広がり、樹は上に伸びている、ということか。」

という文章に出会った時、古書の持つ価値の深さを知りました。

作家三木卓は、「路地」「素足と貝殻」等の小説でお馴染みですが、個人的には児童書「イヌのヒロシ」が好きです。三木が1949年から2000年まで、鎌倉の仕事場からみた見続けた日常をまとめた日記「鎌倉日記」」(かまくら春秋社)という本が出ていました。なんとも言えない味わいがある本が、500円とは驚きです。日記文学マニアには外せませんね。

ムフフと笑いながら、文楽の世界を堪能させてくれる三浦しおん「あやつられ文楽鑑賞」(ポプラ社500円)もワンコインなら安い買物です。文楽なんて、まるで知らないド素人だった著者が、この古典芸能に染まってゆくプロセスをユーモアたっぷりに描いています。端正なたたずまいの三味線奏者、鶴澤燕二郎さんの楽屋にインタビューに行った時のこと、最初に口から出た言葉が「あの、足を崩してもいいでしょうか」。その理由が「足が痺れて、立った拍子に三味線に突っ込んだりしたら」というのが傑作です。でも、自分の好きなものを見つけて、どんどんその魅力に取り憑かれてゆく様は、読んでいて、爽やかな気分にさせてくれます。

翻訳家として、小説家として活躍中の西崎憲が選んだ英国短篇小説選集「短編小説日和」(ちくま文庫500円)は短編アンソロジーとして、この翻訳家の英国小説への深い理解と愛情溢れる文庫です。18世紀半ばから20世紀半ばに書かれた膨大な短編小説から、大物ディケンズ、グレアム・グリーン、そして日本では全く評価されていない作家まで網羅し、様々な英国らしさの側面を切り取っています。巻末には著者による短篇小説論が収録されています。英国的なるものを知る手がかりとして読むのも面白いかもしれません。

 

 

 

★8月9日(水)〜20日(日)「レティシア書房 夏の古本市」開催。個性的な28店のよりすぐりの古本が大集合です!

暑い日が続きますが、ぜひお立ちよりください。

8月21日(月)〜25日(金)は、夏期休業いたします。よろしくお願いします。