2011年4月、美術作家の永井宏が60歳でこの世を去りました。

彼は日々の暮らしの中に、アートを取り込むことに情熱を傾けていました。と言っても、高価な作品を買ってお部屋に飾る、という類いのものではありません。彼のポリシーはシンプルです。

「誰にでも表現はできる。ぼくたちの暮らしそのものが、ひとつの表現になる」

日々の暮らしと向き合った中で出てくる自分だけの表現。それは、自分がたてた一杯のコーヒーでも、或は、苦労して焼き上げたパンでもいい。

別に海辺の綺麗な家に住まなくても、大都会の真ん中にも自然はあります。街角を吹き抜ける風、ひょっと咲いている花等々。それらのちいさな自然を感じながら、自分の居場所を確認して、ゆっくりと暮らしてゆく生き方を、彼は「ネオ・フォークロア」と呼びました。「フォークロア」という言葉は、60年代にヒッピームーブメントを経験したアメリカの若い世代が、より身近な自然に添った生き方を志向した時代を象徴する言葉です。バブル経済が幕を閉じて、地に足をつけた生き方を模索すべき時代に提唱したのが、この「ネオ・フォークロア」でした。

彼の本は決して、人生論ぽい、小難しいものではありせん。「雲ができるまで」(リビロポート900円)、「夏の仕事」(メディアファクトリー1100円)はシンプルに生きる気持ちを見事に表現しています。

「ゆっくりと口に入れてゆっくりと飲む。そんなことが平凡な毎日の精神を支えてくれる」

1992年の春、葉山に1軒のギャラリーがオープンしました。永井宏が主宰する「SUNLIGHT GALLERY(サンライト・ギャラリー)」です。出展者の経歴は不問、作品の事前審査もなし。ただ、出展したい人が、大げさではない、その人らしい姿を表現しているかがだけが基準とされていました。

「ロマンチックに生きようと決めた理由」(アノニマ・スタジオ700円)はこのギャラリーに参加した人達の記録です。カフェオーナー、アーティスト、フード・コーディネーター、編集者等々様々な人達が集まっています。

「ジャズブックス」(2160円)という素敵なビジュアルJAZZ本を出された、焙煎珈琲屋の中川ワニさんも参加されていますね。

もう二度と右肩上がりの時代なんか来ないのに、また来るぞ!とはしゃぐアベちゃんとお友だちには、早々にお引き取りいただいて、日々の暮らしをゆっくりみつめる「ネオ・フォークロア」的生き方を学びたいものです。

カフェと音楽についてのエッセイをまとめた「カフェ・ジェネレーションTOKYO 」(河出書房700円)は、音楽好き、そしてお気に入りの一冊を持ってカフェに入る時間が、この上なく楽しい人にはお薦めの一冊です。