休業初日の店長日誌です。

山極寿一と中沢新一の対談集「未来のルーシー」(青土社/古書1300円)は、とてつもなく面白い知的刺激に満ちた対談集です。山極先生の対談集は、小川洋子との「ゴリラの森、言葉の海」、太田光との「『言葉』が暴走する時代の処世術」など、読みやすく内容も濃かったので、当ブログでもご紹介しました。

この本もそんな風にすらすら読めると思って手にしたのですが、なんせ相手が人文科学系で、刺激的な著作を発表している中沢新一先生。学者同士の対談です。各々の専門分野はもちろんのこと、周辺の学問分野へ話は飛んでいき、西田幾太郎が出てきたときは、私の手に負えない状況になってしまうのですが、それでも読書中、貧弱な脳みそが、ふつふつと煮えたぎってきて面白い。

森羅万象を横断しながら、これからの私たちが進むべき、より良い未来を模索してゆきます。見よ、この付箋の多さ(写真下)。自分なりに消化したはずの部分です。最終章「華殿的進化へ」(もうこのタイトルだけで??ですね)で、松尾芭蕉の「秋深し 隣は何を する人ぞ」という一句を持ち出し、この句の背後に広がる東洋的世界観を山極先生は、こう論じます。(短く要約できないので、長いけど引用します)

「西洋的な、因果論的に人間の行為や自然の現象を読み解こうとする思考の結果、初めて「意味」というものが出てきます。いま多くの人が「生きる意味」が無いと困ってるわけです。そんなものは探さないほうがいいと私は思います。いま中沢さんがおっしゃった「秋深し 隣は何を する人ぞ」というのはまさに意味を消しているのですね。お互いに感じあって、みんなで共有し合うことの深さ。楽しさというものが、まさに生そのものであるということ。そこにはお互いに干渉しあわないけれど、お互いの存在を感じあえるような共存が語られています。」

今や、破壊尽くされて瀕死の状態の地球環境。「それを救うには、今一度人間と他の生物や物理的な環境を包括的に捉える観点に立たねばならない。生物も環境も互いにつながり合って循環する共生園を作っているという考え方である。」と、結びの言葉として書かれています。文章にすればわずか数行のこの真実を、二人の知識人が、語り合ってくれたのが本書です。

こんな時期に自宅にこもって、頭をフル稼働する楽しさを本書で堪能してください。

お知らせ コロナウィルス感染拡大の緊急事態下、これ以上感染者を出さないために、4月23日(木)より当面休業いたします。予定しておりましたギャラリーの個展もしばらくの間お休みいたします。この「店長日誌」は毎日更新していきますので、読んでいただけたら嬉しいです。ご希望の本があれば、お取り置き、または通販も対応させていただきます。(メールにてご連絡ください。)

また、休業中でも店内で作業していることがあります。その時は半分店を開けていますので、ご用があれば声をかけてください。(店長日誌にてお知らせします。)

★★ 今週は4月25日(土)午後2時より4時ぐらいまで開けています。


2002年の木山捷平文学賞を受賞した平出隆の「猫の客」は、どうも、馴染めない作品でした。幻戯書房から出た「ウィリアム・ブレイクのバット」(1800円絶版)、短い散文を集めたものですが、最近これを読んで、あれ?この人こんなに感じ良かったっけ?と思いました。

例えば「海を背に」

真冬の北海道。宗谷岬近くを走行している時の光景です。

「道の端には高い積雪の眺めがつづいていだが、不意にそこに、凍えたような金網が二メートルほど突き出した。形状から、とっさにバックネットと分かった。海辺の、それも流氷群のかたわらの野球場だった。雪の下の見えないひろがりに、瞬間のこと、胸を衝かれた。さいはてのボールパークだ、と」

なんか、映画のワンカットみたいに、その光景が目前に現われてくるようです。この話のオチも面白くて、対馬列島に位置する海栗島。目の前は朝鮮半島。そして島にあるのは航空自衛隊のレーダー基地。そこを訪れた作家は意外なものを見つけます。

「小さな野球場がひろがっていたからである。一塁線のこちら以外は、すべて海がとりまいている。それも国境の海である」

大きな放物線を描いてセンター方向に飛んで行った打球は国境間近の青い海に落下する、なんて想像してしまいます。

こういう短い話のぎっしり詰まった一冊で、どことなくクラフト・エヴィング商會の本に手触りが似ています。

ところで、平出隆は90年代後半から多摩美術大学で教鞭を取っており、今も在職中です。2006年に、思想家中沢新一を学内に招き入れ、芸術人類学研究所を創設して新たな学問を創りだしています。

中沢新一の本は、まるで歯が立たないというか、面白くないと言うべきか、そんな経験をしたことがありますが、一冊だけ、非常に納得して、方々に線を入れたり、紙を挟んだりした読書体験をしました。

それが「哲学の東北」(青土社950円・絶版)です。東北の生活と思想、芸術を足がかりにして、宮沢賢治を語っていきます。様々な賢治論を読みましたが、東北の持つ力を絡めて賢治の思想に迫ったものです。

再度、読み直そうと思い、パラパラめくっていると、あれ、こんなに難しかった?アホになったんかいな?と、平出隆の本との出会いとは全く逆の印象を持ってしまいました。

★レティシア書房 『一箱古本市』のお知らせ

8月11日(火)〜23日(日)店内にて開催いたします。(17日は定休日)

今年も賑やかに、27店舗参加していただきます。

初参加のお店もあります!乞うご期待!!