気づいたら、私は中野翠のコラムを愛読してきていました。映画、小説、落語、ファッションについて、時に辛辣に、時に軽妙洒脱に綴っています。小林信彦という長編小説に傑作が多い作家にも、コラムが沢山あって、そちらを好きで先に読んでいましたが、中野のコラムにも同じものを感じたのかもしれません。

「コラムニストになりたかった」(新潮社/古書1200円)は、1969年に大学を卒業して、新聞社でバイトした時から最近までの、女性コラムニストの先駆け的な彼女の人生を振り返った本です。と同時に、時代により変遷していった風俗、流行、映画を再認識できる一冊でもあります。

「コピーライターというのは当時、急激に一般化しつつあった鮮度の高い職種名だった。老舗出版社の主婦の友社で、なぜコピーライター?という疑問も少しかすめたし、一名だけの採用というのも気になったけれど、軽い気持ちで受けたら受かってしまった」

これが彼女の出発点でした。それから「アンアン」に参加するようになり、様々な雑誌へと仕事を広げていきます。インタビューの仕事も増え、憧れだった森茉莉とも会うことができました。「マリさんの文章は、やっぱり特異な生まれ育ちというのも無視できず、私なんかがマネしたりするのは、みっともないことだというのは承知していた。私は私なりの生まれ育ちの中で、形成されて来たものを大事にしたエッセーを書けないものかなあーと、ボンヤリとだが模索していたような気がする。」と自分の仕事のスタンスを考えはじめています。

1985年、「サンデー毎日」から連載エッセーの依頼が舞い込みます。週刊誌2ページの連載は初めての経験で、躊躇したものの引き受けてスタート。これがその後、長期に渡って続くことになるのです。

彼女は多くの本を出していきますが、スタートから今日まで、一人であっちへ行ったり、こっちへ行ったりしながら、自分の仕事を、自分にふさわしい仕事を、確立していきます。その姿には、力みもなく、清々しい印象さえあります。

本著の最後の方でこんな文章に出会いました。

「小林信彦さんには確実に影響を受けた。『世界の喜劇人』『日本の喜劇人』、この二冊は決定的で、私のバイブルのようになった。」

そうか、やっぱり小林信彦か、と思いました。