京都シネマで上映中の「人生タクシー」を観ました。

「人生タクシー」なんてタイトルから、車窓から窺い知る人生模様を描いた作品だなんて思うと、大間違い。もしかしたら退屈するかもしれませんが、この監督の映画人生を少しでもご存知なら、頭の中がひっくり返る映画です。

監督のジャファル・パナヒは、過去に監督した作品でイラン社会の実像を描き、国際的には評価されていますが、イラン国内では上映を禁止されています。逮捕された経験もあり、数十日間拘留されています。その時は、自身が拘置所内ハンストを実行し、そして世界中の映画作家達の尽力もあって、保釈されました。しかし、裁判所は映画製作・脚本執筆・海外旅行・インタビューを20年間禁じ、違反すれば6年間の懲役を科される可能性もある、という判決を言い渡します。

そこで、撮ったのがこの映画。タクシー運転手に扮した監督自身と乗り込んでくる奇妙な人たちのやり取りを描いたドッキリカメラみたいなドキュメンタリーなのですが、どうも乗って来る人たちは素人ではありません。役者ですね、これは。だから、ドキュメンタリーに見せかけた劇映画です。お上に、これ映画じゃないもんね、と言い張るつもりなのかも。

延々、この乗客達との会話を、助手席に設置されたカメラが追いかけるだけの映画です。私も何度か、ウトウトしかけましたが、退屈はしませんでした。

後半、姪っ子が乗ってきます。彼女は学校で短編映画を撮りなさいという課題を与えられ、車内でもカメラを回します。とある横町で、ゴミを漁る少年が、路上に落ちていた財布を盗んでいるところを撮影します。学校は、「現実を撮りなさい」しかし、「醜い現実はだめです」と表現に制限しています。で、彼女は少年がお財布を持ち主に返すところを撮って美談の現実を撮るべく、少年に指示します。しかし、少年は去っていきます。映画上映できない!と彼女は罵声を浴びせます。

偽の現実を撮ろうとする彼女のカメラのファインダーを、タクシーのカメラが撮り続けるという不思議なシーンです。お上好みのフェイクな現実を撮る、リアルな現実。一見、活気のある街並みなのですが、自由のない国。

翻って、キナ臭い法律ばっかり作って、国民の目に蓋をして、でも言う通りしていれば、幸せな一生間違い無しと迫る我が国のお上。反対を表明した途端締め付けてくる国も、また似たり寄ったりの国家なのかもしれません。さて、そんな情けないこの国に、ジャファル・パナヒみたいな気骨ある表現者が現れるのでしょうか?

蛇足ながら、、この映画はイランでは上映禁止。映像を収めたUSBを箱に入れて国外の持ち出し、支援者の努力で作品として公開されました。穏やかそうな表情で運転する、このおっさん只者ではありません。